三十万打リク◆×op8
その日の夜、モビー・ディック号では戦勝の宴が行われていた。

突然の敵襲に避難が間に合わず巻き込まれた結果、なかなかの戦果を上げた異世界の子供たちは白ひげ海賊団の船員たちとますます距離を縮めていた。


「やるじゃねェか電気小僧!人間スタンガン見てたぜ!その後アホんなってたけど」

「電気小僧ってなんすか!」

「よォ、お前なかなか骨のあるやつじゃねェか。サッチを狙った砲撃を受け止めたらしいなァ!とんでもねェ硬さだったって他の兄弟に聞いたぜ」

「ああ!あれは、俺の最大強度なんすよ!安無嶺過武瑠(アンブレイカブル)っつーんですけど」

「あれ痺れたぜ!」

「あざっす!俺の“硬化”みてェなあんまり応用の効かない個性はやっぱ得意をゴリ押しするしかねェんで、盾極めようって思ってるんス!」

「味方の守る盾かァ!カッコいいなァ、お前!」

「いやいや俺なんて!もっとカッコいい奴、いますから」


褒められて頬を緩めつつも、脳内にふわっと出てきた人物をちらりと見れば、甲板の端っこで正座をさせられていて切島は「ブフッ」と吹き出した。

勝手に行動したとして梓は八百万と耳郎にこっぴどく叱られ爆豪に頬を思いっきり抓られていたのは記憶に新しい。
その後、いひゃい、と涙目になったところをマルコに「やめてやれよい」と助けられ、「お前のことマジで気に入ったわ!」と興奮気味のエースに絡まれていたが、まだ許してもらえていなかったとは。


(ま、確かにそう簡単に許したらまた同じこと繰り返しそうだもんなァ)


切島は納得したようにポリポリと頬をかいた。

戦いの後に海に飛び込んで海賊を救った梓の行動は流石に突拍子もなく、危険だった。
あの時は、彼女の安全のために周りは力を貸したが、見ず知らずの危険な人物を救うために通常より何十倍も危険な海に身を投げるなんてもっての外。加えて、別の世界に強く干渉するものではないという八百万の意見はごもっともだった。


(確かにあれは、一歩間違えば梓が死んでたもんなァ)


慰めにでも行こうかと思ったが、
なぜか正座させられている隣には轟が座っており、その反対隣には食べ物を皿いっぱいに乗せて梓に渡している爆豪がいて、切島は「ま、いいか」と笑うと、八百万を探した。


(俺は、梓が早く許してもらえるように八百万に掛け合うかァ)


一方緑谷は、隊長格がかたまって酒を飲んでいる周りをそわそわと歩いていた。
やっとお目当ての人物を見つけ、コワモテの隊長たちの間を(ヒィィ)と心の中で悲鳴をあげながら近づく。


「あ、あの…サッチさん、」


覚えたての名を呼べば、コック服を着たリーゼントがん?と顔を上げた。


「ああ、地味めのもじゃもじゃ。どうした?飯足んねェか?」

「地味め!?…あ、いや、あの…食料を頂いておきながら大変不躾で申し訳ないんですけど…りんごってありますか?」

「りんごォ?あー、あるっちゃあるが、なんだ?食いてェのか?」

「あっいや、僕ではなくて…りんご、梓ちゃんが大好きなんですよ。さっきみんなに怒られて、ちょっと凹んでるみたいだったので、りんごあげたいなと思って」

「成る程!そーいうことかァ!すぐ準備してやっからお兄さんに任せな!」

「サッチ、ついでに追加のツマミも頼むよい」

「和酒も持ってきてくれや」

「ついでにスイーツも」

「てめェらは自分で動け!」


緑谷の遠慮がちなお願いにすぐに快く了承してくれたサッチは、便乗してきたマルコ、イゾウ、ハルタを一喝すると食堂へ向かった。
「だりィ」といいつつ、マルコを筆頭とした隊長格が新しいツマミや酒をとりにぞろぞろと食堂に向かう後ろを、緑谷も慌ててついていく。


(コワモテのヤバそうな人たちだけど、案外優しいんだよなぁ…)


サッチが真っ赤なりんごをくるくる回しながら剥く中、「あの子、こっぴどく叱られてたからなァ」「あァ、クソほど笑ったわ」と昼間のやり取りについてイゾウとマルコが思い出し笑いをしていれば、ぐるん、とエースがの顔が自分の方を向き緑谷はビクッと肩を揺らした。


「なァおまえ」

「な、なんですか?」

「お前さァ、梓の幼馴染みなんだよな?」

「あ、はい…一応」

「お前もあいつも、今年ヒーローを育てるガッコーに入ったんだろ?」


おずおずと頷いた緑谷にエースは微妙な顔をした。
彼らの世界は、ヴィランという犯罪者がいるものの、基本的には平和だと聞いた。通常、戦いとは無縁だと。

今年、ヒーロー科とやらがある学校に入学したのであれば、まだ、戦闘訓練をし始めてそんなに経ってないはずである。
それなのに、あの少女の動きは群を抜いて滑らかだった。
子供にしては違和感がある。いや、普通に子供なのだが、戦闘中はちょっと違うように見えて、エースは「アイツ、何者?ちょっとお前らと空気違くね?」と思わず本音を吐露した。


「空気…ですか?梓ちゃんが?」

「あァ、それ俺も思った。轟も切島も立派に戦えてたし、爆豪に至ってはセンスの塊だと思ったが…梓、あいつァ…センス云々の話じゃねェだろ。ありゃ、経験だよい。じゃなきゃ説明つかねェ」

「それと、昼間に気になること言ってたよね。あの子は、“人を守ることに固執してる”って。そりゃ、ヒーローとやらはそういう職業なんだとは聞いたけど…そのヒーローの見習いであるお前らが口を揃えて“固執してる”と言ったその訳が気になるね」


エースを皮切りに、マルコとハルタに質問を重ねられ、他の隊長格も同じことを考えていたのか興味ありげに自分を見ていて、ああ、と納得した。

昨日会ったばかりの海賊の彼らは、梓の異常さに気がついていたのか。
流石の観察眼だなぁ、と引きつり気味に緑谷が納得していれば


「敵襲がある前にさ、梓とちょっと喋ってたんだけどよ…あいつ、“守るために生きてる”っつってた」


神妙な顔でそう自分を見下ろしたエースに心臓がキュッとなった。
続けて、「“守りたいと思うものを傷つけるなら世界だろうが潰す”とも言ってたねェ」と眉を下げて困ったように笑うイゾウにハルタがはぁ、と大きなため息をつく。


「まだ子供のくせに、イかれてる。子供が他人のために生きて何になるのさ。お前たちの世界はそういう考えばっかり蔓延ってんの?」


呆れたように、ハルタに冷たくそう言われ緑谷は困ったように眉を下げると重く口を開く。


「……お節介こそがヒーローの本質だと、僕もそう思ってる節はあるし、オールマイトのように人のために生きたいとも思ってますけど……梓ちゃんは、ちょっと違う。どう生きたいかというよりは、そのために生まれてきたと、思ってると思います」

「どういうことだよい」

「梓ちゃんは、守護の一族…何百年も前から人を守ることを生業としてきた一族の当主なんです。常に守護を生きる道とし、人のために強くなり、人のために死ぬ。それがあの一族の役目であり誇りであり……“呪い”だと、僕は思ってます」


人を守るために生まれてきた家の当主。
そう言われて、エースはピンとこなかった。
ただ緑谷の思い詰めた表情に、ああきっと大変な重圧を背負っているのだろうと察する。


「よくわかんねェけど…、それって、絶対やらないといけないことなのか?」

「梓ちゃんはそう思ってます。僕もかっちゃんも、梓ちゃんには自分自身を大事にしてほしかったので、その思想を引っぺがそうとしましたが、無理でした。なので、一緒に守ることを選択しました。あの肩に乗る異常な重圧を少しでも軽くする為に」

「……ヒーローを志す以前に、そういう世界に生まれちまったのか。だから、1人だけ異常に戦い慣れてやがんのか。ガキの頃からずっとそれだけのために生きてきたから」


悲哀に満ちた声でそう言ったサッチに緑谷はこくりと頷いた。


「サッチさんの言う通り、個性の扱いこそ慣れてないけど、梓ちゃんの基礎戦闘能力はクラス内でも突出してます。戦線を下げれば誰か死ぬと教えられてきたから、たとえどんな相手だろうと一歩踏み出します」

「確かに…オヤジの覇気を耐えてなお、戦おうとしたもんね。だから“死んでも生かす”って言ったのか。オヤジに敵わずとも、仲間だけは守るために」

「やめさせろ。あんな命知らずな戦い方してりゃ、すぐ死ぬよい。はァ…昨日、アイツが嵐の中、エース救うために飛び出した理由もやァっとしっくりきた。アイツにとっちゃ、エースも守る対象って訳か」

「俺も、守る対象!?昨日はほとんど話したことなかったんだぜ?」

「…人も、国も、世界も…、守りたいと思ったものは全て守るのが、守護一族です。昨日は、船員さんたちがみんな、エースさんの無事を祈ってました。その姿を見て梓ちゃんが動かない訳ありませんよ」

「生まれながらのヒーローって事かねェ。望まれて、欲されて生まれてきた。それがあの子にとって幸せなことかはわからねェが…なんにせよ、俺たちとは真逆さね」

「ああ、真逆だ」


イゾウの言葉に同意したエースの声は重かった。

生誕を望まれず、その中で大事な兄弟や家族を見つけ自由に生きるエースと、
生誕を望まれ、存在意義が決まった状態で守護の意志に縛られ自由のない梓。
全くと言っていいほど、真逆だった。

緑谷の話では、彼女はこの重圧から逃げられないし、そもそも逃げるつもりもないのだろう。
守ることが存在意義だと、純粋に思っている。
その真っ直ぐ透き通った強い意志は、会って2日のエースにもわかった。


「…、どうにかしてやれねェのか?そのイカれた思想から自由にしてやりてェよ」

「梓ちゃんは望んでませんし、それに…梓ちゃんが強くなることはいいことなんです。連合に狙われてるので、自衛の為にも」

「言っちゃ悪いけど、もしかしてあの子、ココにいた方が幸せなんじゃない?」

「ハルタやめとけ」


はっきり言い切ったハルタの言葉に思わず緑谷はヒュッと息を飲んだ。
確かにそうかもしれない。ここにいれば、守護一族なんて関係ないし自由だし、敵連合に狙われる心配もない。
梓に対する重圧も危険も減る。

冷静に考えれば確かにそうなのだろうが、緑谷は顔を青くしながら慌てて首を横に振った。


「嫌だ。梓ちゃんがいない世界では僕は生きていけない。ずっと梓ちゃんがいたから頑張れたんです。たしかに、梓ちゃん自身の安全や自由を考えれば戻らない方がいいのかもしれないけど、」

「……え、ちょっと、僕冗談で言っただけ…」

「僕っ…たぶん、梓ちゃんがここに残りたいと言ったとしても、泣きついてても連れて帰ります。無理です、梓ちゃんがいないと無理。多分、僕だけじゃなくてかっちゃんも轟くんも耳郎さんも無理だと思う…」

「聞こえてないな」

「どうやら地雷踏んだみてェだな。ハルタ、しっかり謝れよい」

「なんで僕が、いや、なんかごめん」


完全に取り乱した緑谷に申し訳なくなって珍しくハルタが謝っていれば、食堂の扉が開いた。


『あ、いた!ねぇ聞いてよいずっくん!かっちゃんったらひどいんだよ!正座して痺れた足をツンツンするの…って、あれ?なにこのお通夜みたいな空気』


勢いよく食堂に入ってきたのはこのシリアスな苦役を作り出した話題の主人公。
まさかここまで元気にご本人登場するとは思っていなくて、イゾウは思わず「ブフッ」と吹き出し笑った。


「アッハッハ!テメェの話で通夜になってんのに、ぶち壊すたァホントに気に入った!」

『えっ、私の話で通夜!?イゾウ隊長どういうことです!?』

「梓ちゃん!元の世界に戻らないなんて言わないよね!?海賊になるなんて言わないよね!?僕が絶対敵連合から守るからそんなこと言わないで!ね!?ね!?」

『は!?いや、元の世界に帰らないと、この前いずっくんがくれた丸ごとりんごケーキが食べれないでしょうが。意地でも帰るよ』

「丸ごとりんごケーキ貢いでて良かったァ!!」

「「「ギャハハハ!!!」」」


安心のあまり叫んで床に膝をついた緑谷に、その場にいた隊長格たちは思わず吹き出すように笑うのだった。





宴が終わり、あてがわれた空き部屋で仲間達と共に雑魚寝していたのだが、こつん、と足の爪先で頭を小突かれ、梓は寝ぼけ眼を開けた。


『ん〜??』

「シーッ、他のやつが起きちまう」


口元に人差し指をあてて悪戯っ子のようににかりと笑った青年、エースはゆっくり梓の頭元にしゃがみ込むと、「朝には島に着く。なァ、一緒に抜け出して島に1番乗りしようぜ」と楽しそうに囁いた。


『え…いま、なんじです?』

「んーもうすぐ日が昇るんじゃねェかな」

『1番乗りって…どうやって?』

「ストライカーで。ま、ついて来いよ」

『ううん…、ねむ』

「海風に当たりゃ、すぐ目が覚めるさ」


エースは痺れを切らしたように、布団の中で動かない梓を強引に抱き上げた。


『うわぁ…!?』

「しっ、声が大きい!他の奴らにバレちまうだろ。ストライカーはギリ2人までしか乗れねェんだよ。つーか、ホントは1人乗りなんだが、お前くらいちっこかったら乗れるかもって思ってな」


とりあえず行くぞ、と足早に部屋を去ったエースは梓を抱き上げたまま甲板まで走った。

外はまだ暗かった。
満点の星空の中ぶわりと涼しい風が吹き、水平線だった海を見渡せば、梓はその先にこんもりと何かがあるのを見つけた。


『…エース隊長』

「ん??」

『あれが、島?』

「おう、お前目ェいいんだな!そう、あの月明かりで照らされてんのが次の島だ。もうそこまで見えてる!海流も落ち着いてるし、気流も問題ねェ。あと1、2時間もすれば着くだろうよ。先に上陸しちまおうぜ!」

『先に上陸……うん!エース隊長!目が覚めた!わくわくしてきました!起こしてくれてありがとう!』

「おお…!やっぱお前いいな!そうこなくっちゃ!よっし、ストライカー準備してくる!」

『ストライカーが何かはわからないけどよろしくお願いします!』


寝ぼけ眼だった目を擦っていたはずなのに、島を見た瞬間、花が咲いたかのように弾けるように笑った少女にエースもつられて高揚した。


ストライカーに乗り込むと、船頭に座って海に足を投げ出した少女にエースは慌てて襟首を掴んだ。


「バカ、そんなに前に出ると海に落っこっちまうぞ!」

『えー、落ちませんよ。それに、落ちたって大丈夫だし』

「あ、そっか。お前能力者じゃねェのか」


“嵐”という派手目な能力は悪魔の実とは違うのだと理解したはずなのに、どうにも慣れなくて困ったように頬をかく。


「んん…、そうだよな。お前らは悪魔の実を食ったわけじゃねェから海に嫌われてないんだもんな。むしろお前は逆だよな、“嵐”なんてよォ、海に好かれてんじゃねーか?」

『ええ?海に?そんなことはないでしょう。確かに地の利は良いけれど、“嵐”はかつて暴発して宿主を殺してますし、私だって手元狂ったら死にかねないし』


『自然の力を、利用させてもらってるんですよ。守護のために』と笑った梓はあっけらかんと笑っていて、なんてことないように言った言葉をエースは頭で反復させると、静かに眉間にシワを寄せた。


「お前の力は、諸刃の剣なのか?」

『私だけじゃないですよ。いずっくんも、轟くんも、かっちゃんも、使いようによっては自分が危なくなっちゃう。私のは特に、それが顕著なんです。優しくないんですよ、私の個性は。ただ、すごく闘いには向いているから、血に合っているのかもしれないですね』

「血、ねェ…。お前ん家の話はザッと聞いたけどよ…まァ、なんつーか…」

『え?誰に聞いたんです?』

「緑のもじゃもじゃ。聞いたら教えてくれた。まずかったか?」

『いいえ、別に。聞かれて困るようなことは何も!』


明るい返事に微妙そうな顔でストライカーを発進させる。
水面を切り進み出したボートに前から『うわあ…!』と歓声が上がる中、エースは船頭に座る少女に対し重い口を開いた。


「なァお前…自分の血筋が嫌にならねェのか?」

『血筋、ですか。うーん…覚えてないくらい子供の頃は、嫌だと思ったこともあったかもしれないけれど…、覚えてないのでわかりません。今は、しんどいことや辛いことや潰されそうなことはありますけど、逃げようとは思わないし嫌ではないですよ』


あまりにアッサリとした返答だった。
びっくりして思わず黙れば、振り返った梓の透き通った目がエースを射抜く。


『エース隊長は血を恨むの?』

「……エッ、オヤジに何か聞いた?」

『え、なにが?』

「なんだ、聞いてねェのか。ビビった」

『え?』

「お前、どうせ元の世界に帰るだろうから言うけどさ、俺…海賊王と血が繋がってんだよ。一応な」

『海賊王の子供ってこと?へぇ、お父さん凄いですね。わ、今海面におっきな影が…魚でかっ』

「…………え、知った上でフツーの対応!?お前おかしいだろ!」

『ええ!?そうですか!?お父さんすげーくらいにしか思ってなかったです!』

「いやいやいやいや!!俺、自分の出自が史上最悪凶悪すぎんのに悩んでたくらいだぜ!?お前と真逆!!」

『ええ!?史上最悪凶悪な人なんですか!?でも、エース隊長は太陽みたいに笑うからその人も豪快に笑う人だったんでしょうね。あっはっは、お父さんすごいですね!』


お父さん凄いですね!と笑う少女にエースは面食らった。
混乱とはこの事である。細かいところを全く考えてないだろう梓は笑いながら振り返るとぽかんとしているエースを見上げる。


『この世界の事情はよくわかんないけどさぁ、ま、良いんじゃないですか?血筋なんて気にしなくても!』

「え、お前が言う?」

『さっきも言ったけど、私は別に血筋なんて気にしてないし嫌でもないですよ!』

「いや、お前は今の家に生まれたから自由もないし痛い思いして人を守んなくちゃならねェんだろ?すげェ血筋に縛られてんじゃん」

『え?血筋よりは、守護の意志に縛られてるんじゃないかなあと思います。常に守護を生きる道とし、人のために強くなり、人のために死ぬ。それが一族の役目であり誇りだって、ずっと教えられてきたので、その意志には縛られてるけど……、』

「けど?」

『けど、私自身も守りたいものが多いので。先代達が守ってきたものと、私が守りたいと思うものを、人生を賭して守る覚悟はあります。覚悟はあるんですけど、実力が伴わないので、今はいろいろと頑張ってるところです!』

「………」

『守るもの多すぎて手が足りないからいずっくん達も頼らざるを得ないんですけどね。あ、もちろんエース隊長も守りますよ!』

「っ、…いや、俺…お前の世界でいうところのヴィランだぞ!?それに、海賊王の…」

『守りたいと思ったものを守るのが私の役目なので、肩書きなんてどうでも良いんですよ。エース隊長優しいし、あの船の人たちはあなたの事が大好きだから死んだら悲しむし、私も嫌だし』

「………」

『それに、エース隊長のお父さんのことよく知らないのでどうでもいいっていうか。まぁ、エース隊長のこともまだよく知らないんですけど、…死んで欲しくはないなぁと思うので、守る理由ってそれだけでいいんじゃないかなぁ?』

「……お前、いつか死ぬぞ。ぜってー死ぬ。悪いやつに騙されて死ぬ」

『物騒ですね!?怖い予言はやめてください!』

「そんな簡単に人を守ろうとすんなよ!後ろからブスッと刺されんぞ!?」

『あはは、それは怖いなぁ!』

「笑い事じゃねェって!!」


焦ったように「すぐに人を懐にいれるのやめろよ!?」と顔を青ざめさせるエースに、さっきまでは少し顔が赤かったのになぁ、と梓は笑った。
本当にこの人は、ころころと表情が変わる。
船員達から愛されているのがわかる。きっと良い人なんだろうな、と思う。


『あはは、いずっくん並みに小言言ってくるじゃないですか。なに仕込まれたんですか』

「仕込まれてねェよ!あいつ、苦労してんだな…」

『まるで私がよく迷惑をかけてるとでもいいたげな』

「その通りだろ」

『ひっど。あ、エース隊長…、世が明けますよ!朝日が!!』


空が白んでいる。海がキラキラと強く輝き始めている。
水平線の先にある眩しい光を指差して、大きな声をあげた梓は興奮状態で立ち上がった。

美しい光景だった。
海から現れる朝日はどんどん世界を照らしていく。


『うっわぁ…!!すごい!!』

「いやーいつ見てもキレーだなァ!」

『すごい!すごいですよエース隊長!わぁ!もっと高くから世界を見たい!!』


海に負けず劣らず目をキラキラさせて花のように笑った少女は、ぶわりと個性を発動させた。

思わず見惚れぽかんと口を開けたままだったが、ストライカーがぐわりと浮いた事でエースは目を白黒させる。


「エッ!?おまっ、なにして!」

『だって!空から光る水平海を見たいんです!落とさないようにするので、ちょっとだけ!』

「うわああ!?」


突然竜巻が起こりストライカーが浮いた。
その衝撃に思わずふらつけばグイッと梓に手を引かれ、落ちるのを免れる。

気づけば、上空10メートルを暴風に乗って飛んでいた。


「ま、マジかぁ!!!」

『あははっ!やっぱり空からの方がキレーだ!!』


突風に乗ったそれは優しい飛び方ではないが、それでも風に乗り風を切るそれはエースの心を高揚させた。

そういえばこの子は最初、箒に乗って現れたと聞く。
嵐という個性は風も扱うことができるとは聞いていたが、まさか竜巻紛いの乱暴な風で空を飛ぶ事になるとは。


「お前!めちゃくちゃやるなァ!!」

『あはは!だめでした!?』

「いんや、サイッコーだ!このまま島まで行くぞ!!」

『アッ着陸のこと考えてなかった』

「おい!!」


数分後、ストライカーが破損しないギリギリのスピードで海上着陸し、2人でホッと胸を撫で下ろすのだった。


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