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任命式が終わった。
控え室で待つ友人たちは興奮冷めやらぬ様子で先程の儀式を振り返っていた。


「梓が梓じゃなかった…超かっこよかったんだけど」

「うんうん!最後ニッて笑ったところが最高やったね!」

「ま、とりあえず何事もなく終わったし、良かったよな!任命式の仰々しさとか、ぶっちゃけ最初はビビったけど」

「呑気に言ってんなよクソ髪。……第一印象良くする為に吹っかけただけだろ、ありゃ。あんなパフォーマンスで全員アイツ派になる程、甘くねェよ」


意外と冷静な爆豪の見解に周りは「そうかァ?」と首を傾げるが、内心相澤も同じ気持ちだった。

あのパフォーマンスで確かに味方は増えたと思う。
ただ、良くも悪くもこの一族は言葉よりも行動を信じるのだ。
ここから先、当主として梓が言葉の通り害を打ち砕けば求心力も上がってくるのだろうが、まだ楽観視は出来ない。

言葉だけの当主など要らないのだ。


「ちっ、召喚命令がつくづく悔やまれる。土台が出来た後にあの式が出来りゃ、アイツも随分楽だったろうに」

「担任の先生も大変だなァ?」


面白がるような慰めるようなマイクの声に相澤は眉間にシワを寄せる。

暫くして、控え室に九条が入ってきた。
彼は中に入った瞬間少しだけ表情を緩めると、「感触は上々!」と相澤に駆け寄ってくる。


「今日はありがとな。先代派だった人たちが“何かあれば申せ”って言ってくれたし、もともとカナタ派じゃねえ南と東はお嬢に興味が出たみたいだわ」

「そうか」

「これからのお嬢の活躍があれば、どうにか意志を中央に集められそうだ。側近たちにはお嬢の活躍を補佐してもらって信者を増やしてもらわねェと」

「直ぐに側近として使えるのか?」

「いいや、本家と分家じゃ求められるものが違うからな。しばらくは俺と水島で指導にあたる」


肩をすくめた九条にそれがいいだろうな、と相澤も頷く。
そんなことを話していると、控え室に梓と心操が戻ってきた。
戸を閉めた瞬間、ふっと2人の空気が緩む。


『……き、んちょう…した』

「………よく頑張ったと思う」


ぽん、と梓の肩に触れる心操の表情は疲れ切っていて、そりゃそうだ、あの儀式の渦中にいたのだから、と耳郎は同情めいた視線を向けた。

2人ははぁ〜…、と緊張をほぐす様に肩の荷を下ろすと『まぁ無事に、』「終わったな」とパン、と手を合わせた。
一族の当主として生きる事がどういうことなのかを先ほどの儀式で目の当たりにしたからこそ、梓にとって心操がどれだけ重要な存在なのか理解できた。

お互い健闘を称え合うと、今後の予定について九条と心操が話し始める。

梓は耳郎たちの方へ向かってきた。
少しだけ安堵した様にゆるんだ表情を見て、ああいつもの梓だ、とこちらも少しホッとした。


『みんなが側にいてくれたから、うまく事が運んだみたい。本当にありがとう』

「ううん、僕ら座ってただけだし…。それより梓ちゃん、凄く立派でかっこよかった!」

『あー…、練習通りにできて良かったよ。あくまでもパフォーマンスだから、大変なのはこれからだなぁ。新しい側近の人たちをうまく取り込めれば、各方に良い影響を与えられそうなんだけど』


首の後ろに手を当てて、どうなるかなぁ?と眉間にシワを寄せる彼女に、“東西南北の意志を中央に”という指令が、今回の儀式がうまくいっただけではまだ不十分であるほど難しいことなのだを周りは感じた。

それは心操もわかっているようで、険しい表情で九条と話している。


「俺たち、ほかも手伝うぜ?」

『切島くん……いいや、もう十分だよ。この後大変なのはどっちかというと九条さん達だし。私はまだ学生だから、出来ることとすれば今まで通りブレずに戦うことだけ』

「そうか…」

「梓、」


歯痒そうな切島の隣でずっと黙って様子を見守っていた轟に名を呼ばれ、梓は首を傾げた。


「お疲れ。大変だったな」

『あはは、うん、轟くんも好奇の目で見られて大変じゃなかった?ごめんね?』

「いや、慣れてるから別に」


肩をすくめた彼がそわそわと視線を彷徨わせる。
それを横で見ていた麗日は、儀式中の彼の様子を思い出していた。

最初は心操が梓の後ろに控える姿に少しモヤッとした顔をしていて、心配になって小声で「どうかしたん?」と聞けば「見慣れてきた自分にムカついただけだ」と肩をすくめていた。
が、儀式が進むにつれ、彼の視界は梓しか写っていないようだった。

食い入るように口上を述べた彼女を見つめていて、儀式が終わった後も緑谷に声をかけられてハッと我に返っていた。
あの梓ちゃんのパフォーマンスは私も衝撃的でグッときたもん、と内心轟に共感する。

それと同時に、後ろに控える心操の立場が彼はとてつもなく羨ましいのではないか、と少し心配していたりするのだが、
結局そわそわしたまま轟は言葉を発さなかった。
同じことを思っていたらしい耳郎や切島と目が合い、3人で首を傾げる。


「轟、ちょっといい?」


爆豪と緑谷が梓に話しかけている間に、耳郎が思い切って轟に声をかけた。


「なんだ?」

「いや…さっき、梓になんか言いたそうだったじゃん?いつもどストレートにものを言う轟が何にも言わなかったから、ちょっと気になってさ」

「ああ……、いや、俺も頑張らねえとと思って」

「頑張る?」「まさか、心操くんに対抗しようとしてる?」と目をぱちくりさせた耳郎と麗日に轟は少しだけ困った表情のままゆるりと首を横に振った。


「俺は心操の立場にはなれないだろ。心操は成り行き上そうなったが、俺は…多分そうはならないし、なれない」


きっぱりそう言った彼に、麗日は心操と轟の立場を入れ替えて想像してみた。


「…うん、確かに…轟くんは裏方タイプじゃないわ。梓ちゃんの横に並んでブッパしてるイメージやね」

「例え分かりやすいな!確かに、あのポジションはアイツ唯一って感じではあるよな。爆豪も無理だろ」


うんうん頷いている切島に耳郎もそうだね、と同意する。


「じゃあ、頑張るってどう言う意味?」

「……梓はこれから、戦う背中を一族の奴らに見せ続けないといけないんだと思う」

「あ…」

「涙も弱音も見せず、今日みたいに」

「「「……。」」」

「俺は隣で戦える。アイツが守りたいものを一緒に守る。相棒だからな」


爆豪も同じ考えだから、今日は大人しいんじゃねえか?と横目で見る彼の視線の先には、梓にいつも通り意地悪な構い方をしている爆豪がいた。


「……そっか、だからか」


切島は納得したように頷いた。


「爆豪がこの前心操に言ってたんだよ。こっちはこっちでやるからヘマすんじゃねえぞって」


梓の為に、心操は心操にしか出来ないことを、爆豪は爆豪だからこそ出来ることを、そう言う意味だったのだろう。
轟の考えを聞いて妙に納得して思考がすとん、と落ちた。


「そっかー…そうやね。私らは、梓ちゃんと対等な立場やから隣で力になればいいんやね」

「時々悩みでも聞いて愚痴吐き出させるのもウチらにしか出来ないもんね」


何か口答えをしたのだろうか、爆豪に頬をつねられて悲鳴を上げている少女を見て、周りには笑い出した。





「側近の顔合わせだそうだ。お前ら全員壁側で控えていろ」


相澤の指示で緑谷たちは大人しく控え室の壁側に用意されていたフカフカの座布団の上に座る。
心操は緊張の面持ちで、梓は少しずつ任命式の時のような厳かな雰囲気を纏い始めていた。

泉が先導し、式に出ていた4人を連れてくる。
彼らは壁側に座るヒーロー見習いたちに一瞬ぴくっと反応したもののすぐに前を向き梓の前で横一列に並んだ。
掌にパン、と拳を合わせ、東堂流の最敬礼の姿勢を取る。


「東から」


泉に促されて、東の分家から輩出された青年がサッと梓の前に出た。


「継承式、任命式でお会いしたとはいえ、姫様からすらば初対面も同然でしょう。改めてご挨拶させていただきます、東の分家長の次男、ハルトと申します。諜報活動が得意です。ハル、とお呼び下さい」

『……ハル、よろしくお願いします』


姫様って何!?とツッコミたいのを堪えてそう応えれば、視界の端で爆豪が笑いを堪えているのが見えた。酷い奴である。
名前を呼ばれたハルトは人懐っこそうな明るい目を嬉しそうに細める。


「ずっとお会いしとうございました」

『そうですか。貴方の働きに期待しています』

「ご期待に添えるよう意志を貫く所存です」


次に西の分家が前に出てくる。任命式の時も思ったが、無表情で感情が読めない。
側近に登用される事をどう思っているのかがわからないのだ。
冷静な目は冷たくも感じられる。


「西の分家長が長男、西京と申します」


西の分家長の長男、そう言われて北と西はカナタ派だった事を思い出した。長男であれば、生粋のカナタ派なのかもしれない。
カナタ自身から跡を継ぐつもりはないと言葉が発せられた事で、どちらからも側近候補が輩出されたが、内心納得がいっていない者もいると聞く。


『西京…、よろしくお願いします』

「はい」


こくりと頷いて下がる彼に、ハルと大違いだなと思っていればずいっと南の分家の女性が前に出てきた。
意外と長身で、梓は思わず見上げたまま慌てたように一歩下がろうとするが心操に制され踏みとどまった。


「姫様、初めまして!わたくしは南の分家長の次女、水澄(ミスミ)といいます。弓や銃などの中遠距離攻撃が得意です。わたくし、初めて体育祭で姫様のお姿を見て、あの者に泣かされ負けていて、少しがっかりしたのですけれど、」


指をさされた爆豪は眉間にシワを寄せるが水澄は止まらない。


「あの者を救う為、敵と連戦後疲弊しているにも関わらず敵陣へ単身飛び込んだと聞き、感動いたしました。死穢八斎會の件も、結果として殉職者は出てしまいましたが、敵の強固な盾を姫様の矛が打ち砕いたと九条殿よりうかがいました!着実に一歩一歩強くなる姫様の隣で、わたしくも守護に身を捧げたいと存じます」


勢いに押され顔を引きつらせつつこくこくと頷いていれば、後ろから心操に「おい、威厳」と言われハッとして気を引き締める。


『ありがたく存じます、水澄』

「いいえ!我が家に側近登用の知らせがあった時、すぐに立候補いたしましたの。九条殿の話ではご活躍なされているはずなのに、あまり情報が出回っていないものですから。ああ、そうそう、ずっとお聞きしたかったのですけれど、」

「水澄、そこまでにしたらどうだ。梓様が困っていらっしゃる」


水澄の後ろから北の分家の青年が静かに進み出てきた。
確か彼が輩出された北の分家もカナタ派だったな、と思いつつ視線をやれば、困ったように眉を下げて水澄を後ろに下がらせていて、


「香雪(コウセツ)…、申し訳ございませんでした、姫様」

『いいえ、水澄の意気込みはよく伝わりました』


ホッとしたように水澄が下がると、代わりに香雪と呼ばれた青年が前に出る。
そういえば任命式では一度しか目が合わなかったが、水澄への対応を見るに、面倒見の良い青年なのかもしれない、と梓は興味深げに彼を見る。


「北の分家長が長男、香雪と申します。此度召し上げられた側近の中で最年長です。まだまだ未熟ではありますが、ご覧に入れた通り、水澄を止めることは出来ますゆえ、何かありましたらお申し付けください」

「香雪!?」

『ありがたく存じます、香雪』

「ああ、それと」

『?』

「正直に申し上げます。自分は…、あなた様の叔父にあたるカナタ様が次の当主になるべきだと常々思っておりました」


あまりにも正直に言うものだから面食らった。
九条と水島は警戒するように眉間にシワを寄せ、いつでも刀を抜けるように柄に手を添えるが、梓はそれをサッと手をあげることで制すと目で先を促す。
なんとなく、嫌味や牽制を言おうとしているわけではないことは彼の目から読み取れた。

香雪は続ける。


「ですが、あの日…九州に黒い脳無が出現した日、中継を見ていて、我が目を疑いました」


目があの時の戸惑いを思い出すように揺れる。


「屋上に弓を引く子供が一瞬映ったのです。短い時間でしたし、混乱の中でカメラも揺れていました。帽子も目深にかぶっていて顔がよく見えませんでしたが、あれはあなた様だったのでしょう?」

『……』

「…驚きました、正直、あなた様にそのような力があるとは思わなかった。自分はずっと、カナタ様が相応しいと思っていましたから」

『…確かに、カナタ叔父さんは魅力的ですよね』

「……はい、ですが、あの状況下にいたのがカナタ様であったならば、何も出来なかったでしょう。自分の心に整理がつかないまま、先日、カナタ様は突然家督争いを降りると宣言され、傘下の中でも最も有力な家のひとつである加賀美があなた様の後援をすると公表されました」


香雪が目を伏せつつ話す。
ちらりと他の側近たちに視線をやると、水澄とハルは成り行きを静かに見守っており、西京は眉間にシワを寄せて床を見ている。
西京はカナタ派だから、何か思う事があるのだろうか、無表情だからわからないけれど。と考えているところで香雪の顔が上がった気がして、梓は慌てて視線を前に戻した。


「九州の一件や、先ほどの任命式、そしてこれだけの仮免ヒーローの後ろ盾を得られる人望と実力を見るに、きっとあなたは当主にふさわしいのだと思います。ただ、果たして自分はここにいて良いのか、梓様に仕えて良いのか、カナタ様を押し上げるべきではないのか、まだ感情の整理がついていないのです。申し訳ありません」

『そうですか。では、感情の整理がつくまでそばで見ていればいいではありませんか』


理屈っぽい長い思いは聞き飽きた。
正直梓は派閥などどうでも良いのだ。信頼してくれなくとも、認めてもらえなくとも、守る為に力を貸してくれさえすればそれで良い。

驚いた顔をしている香雪や、一緒にぽかんとしている側近たちをぐるりと見渡す。


『側近として登用しましたが、忠誠を誓えとまでは言っていません。中央からの指示を見るに、守る範囲が広くなりそうな予感がするので、それに協力してもらえればよいのです』


あっさりそう言って肩をすくめた梓に香雪は面食らった。


「…感情の整理がついていなくてもよいのですか」

『人を守ることに手を抜かなければカナタ派だろうがハヤテ派だろうがどうでもいいです。ですが、派閥を気にして人を守る事を疎かにはしないでくださいね』

「ええ、それは勿論」


ホッと息をついた香雪は少し珍しそうな目で梓を見、「変わったお方ですね」と小さく呟いた。
西京も少しだけ口の端が上がっているようにも見える。

無事側近同士の顔合わせが終わり、打ち合わせ通り彼らの指導を九条が請け負ったところで梓の役目は終わる。
ホッと息をついていれば、今後の仕事について側近達に指示を出していた九条が梓を呼び止めた。


「御当主、帰寮されるおつもりで?」


慣れない呼び方と敬語に梓は一瞬顔をしかめるが、側近達のお手本にならないといけない立場は最初が肝心なのだと九条に念を押されたことを思い出した。
側近達が恙無く動けるようになり、信頼できるようになるまでは、九条も水島も泉も、そして梓も、隙を見せることはすべきでない、と。


『はい、先生方の引率でこれから戻る予定です』

「明日からエンデヴァー事務所でのインターンが開始されると聞き及びました」

『そうですね』


いたずらっ子のように口角を上げる九条に、なぜ改めて問われたのかわからないという表情をして肯定すれば4人の側近がぎょっとしたのがわかった。


「エンデヴァー事務所へ、インターンですか…!?」

「No.1ヒーローですよ!?我が一族の御当主が、そのような場に…!」


どうやら驚かれているらしい。キラキラとした目を東のハルトと南の水澄に向けられ、思わず、居心地悪そうな轟と同じ表情で目が合う。
この場で、中央からの指令です、とは言いにくい。

西の西京の表情はあまり変わらないが少し目を見張っていて、北の香雪もぽかんと口を開けていた。


「……、少々、驚きました」

「少々という顔ではありせんね、香雪。わたくし達の主人はまだ皆に活躍を知られていないだけで実はすごいのですよ!貴方がカナタ様を推していらしたことは中立の立場であった南の者としてよく存じていますけれど、きっと姫様のご活躍を見れば、香雪も心の底から姫様派になることでしょう!」

「自分は感情の整理がついていないだけで、梓様派でない訳ではないよ、水澄。それに、この場に立つにあたって、感情はともかく側近として梓様のお力になることは心に決めている」

「あら、そうでしたか。先程わざわざ牽制のような事をされていたのでてっきり不本意なのかと思いました」

「人聞きの悪い。大体、君とて梓様の活躍を自分の目で確かめた訳ではないだろう?何を誇らしげに言っているのだか」


フン、と香雪が鼻で笑えば水澄が悔しそうに唸る。

梓はそれを見ながら、少しお喋りな水澄を止めるのは当分香雪の役目になりそうだな、と苦笑いした。
西京の感情は読めないが、まぁ、なんだかんだうまくいきそうな4人だったので良かったと思う。
九条も少しだけホッとしたように笑っていて、


「御当主、明日からのインターン、ご武運を」

『はい、あとは任せますね』

「ええ、こちらはお任せください。ああそれと、」

『?』

「側近達の実力、情報収集力を測るためにも、抑制していた警察からの出動要請を徐々に解禁していきたいと存じます。よろしいですか?」


試すような目をした九条に梓は少し動揺して片眉を上げた。


『…ちょっと待ってください。今までは、九条さ、いえ、九条と水島、そして泉たち先代派の手が届く範囲で請け負っていましたよね?私が一族の戦力として動けないことに変わりは無いのに、お仕事を増やしても大丈夫なのですか?』

「なぁに、一気に増やすわけではございません。徐々に、と申しましたでしょう?御当主も察しているかと存じますが、中央からあのような命が出るのは異常事態の前触れです。東西南北の意志を御当主に集めるのに、悠長なことは言ってられません。おじょ、いえ、御当主がインターンに全力を尽くされるのであれば、我々も全力を尽くす所存です」


頑張る頑張らないの問題ではないのだ。
需要に対して戦力が間に合うのかが問題である。
思わず顔をしかめるが九条の決意は固そうで、梓は説得するのを諦めた。
彼は人に厳しいが、自分にも厳しいのである。


『…わかりました。くれぐれも無理はしないように』

「はい、ご心配痛み入ります。エンデヴァーの管轄地域の派遣要請を優先致しますので、御当主のご活躍を心から楽しみにしておりますね」

『っ……』


そっちが狙いか!という梓の咎めるような目と、どうだしてやったり、という九条の目がかちりと合わさる中、華やいだ声をあげたのは東のハルトと南の水澄だった。


「なんと!では、我々が頑張れば姫様のご活躍をこの目で見れるということですか!?九条さん、ナイスです!」


テンション高めに喜ぶハルトに水澄が強くコクコクと頷く。西京と香雪の顔はちょっと疲れていた。

ずっと死んだような目でやりとりを見ていた相澤が小さく「能力審査と実力向上とお前の評判上げをインターンに託けて一気に終わらせるつもりだぞ、あいつ」と思わず笑いを零すものだから、『欲張りですよね』と梓も小さく笑った。


『わかりました。くれぐれもエンデヴァー事務所のお邪魔にならないよう、気をつけて事に当たってください』

「「「「ハッ!」」」」


頭を下げた4人の側近達を見て、梓はやっと終わった、と肩の荷を下ろすと友人達と一緒に隠し通路へ向かった。
九条と梓のいつもの関係を知っている彼等は最後のやりとりに笑いを堪えるのが大変だったようで、隠し通路に入った瞬間一斉に笑い始めるのだった。
相澤も「茶番だったな」と鼻でわらっていた。

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