三十万打リク◆×op7
「穿天氷壁!!」

『嵐撃落とし!!』


空から降ってきた声。
ハッと見上げた瞬間には既にパキパキと敵船が広範囲に凍り、竜巻のような風と豪雨が凝縮された雷がドォォンッ!という落下音と共に船の帆を木っ端微塵に砕いた。


「「なんだァ!?」」

「青雉…じゃねェ!?ガキ!?」

「雷みてェなの落ちたが、嵐か!?」

「バカ!上見てみろ晴天だよ!十中八九あのガキどもの能力だ!」

「どうすんだよ、帆がなきゃ逃げらんねェぞ!?」

「とりあえず海に落とせェ!!」


梓と轟は慌てふためく甲板に着陸すると今の隙にと言わんばかりに船内に続く扉目掛けて走った。
モビー程まではいかないが規模の大きな船。
大勢の船員がおり、囲まれれば正直キツイ。


(不意打ちが効いてる間に切島くんのところに…!)

「梓!前来てるぞ!」

『っ、船内に入らせないつもりだ。させるか!渦雷突きッ!』


ーズガァンッ!


威力はマックスではないものの、戦線を切り裂く嵐の一突きは閉じかけていた梓の道を切り開いた。


「お前本当カッコいいな。一手打つ反応速すぎだろ…!」

『いやさっさと蹴散らさないと人増えるしさぁ…!』


攻撃に関しては全く迷いのない梓はぐんぐん進んで扉を蹴破ろうとする。が、嵐を纏った足が扉を蹴破る前に扉が開いた。


『うわぁ!?』

「どわ!?」


バランスを崩して前に倒れ込み、扉を開けた人物に抱き留められ聞き覚えのある声にハッと顔を上げれば、そこには奪還しにきたクラスメイトがいた。


『切島くん!?』

「やっぱお前らか!いきなり寒くなって雷落ちたみてェな音がしたから、それを頼りに逃げてきたんだ!助けに来てくれたんだな!」


ニカっと歯を見せて笑った切島は元気そうで、梓は心底安心したように『無事で良かった!逃げ出せたんだね!』と笑みで顔を破綻させた。


「おう!なんかこの石の手枷嵌められただけで警備ザルでさァ、普通に逃げられた」

『なにこの石…勝手悪いでしょ?斬ろうか?』

「え、石だぞ?斬れるか?」

「こいつ、クラス対抗戦闘訓練で金属斬ってただろ」

「アッそうだった。頼むわ」


そういえば“斬られたくなかったらタングステンでも持ってこい”と男前発言していたことを思い出し大人しくスッと手を前に出すが、
船内から怒号と走り回る足音が聞こえ切島は「げっ」と顔を引きつらせた。


「やべェ、追手が来る!」

「梓、囲まれるぞ」

『えっ、結構な人数の足を凍らせたし雷で蹴散らしたのに…わあ、流石海賊さん達、氷砕いちゃってる…』

「やっぱ戦い慣れてんなァ…!どうする!?」

「この人数相手にすんのは結構やべえな」

『一点集中で突破する!』


言いながら、スパァンッと海楼石で出来た手枷をぶった斬った梓はその流れのまま、真横から襲いかかってきた男の首筋を峰で打った。


ーガァンッ!


「兄貴ィ!!くそ、ガキがちょこまかと…!」

「捕まえろ!全員能力者だ、高く売れるぞ!水かけて弱らせろ!」

『道開くから轟くんブッパして!私たち大振り攻撃が増えるから、切島くん近接戦で轟くんのフォローお願い!』


ハッキリとした口調は自信に溢れているわけではないのに淡々としていて、ふと横を見ればその目は真っ直ぐ一点を見つめ光を宿している。
どうやらA組の戦闘脳にはこの四面楚歌を生き抜く道が見えているらしい。

相変わらず、惚れ惚れする横顔だな。と轟と切島は目を合わせ苦笑した。


「本当こういう時に頼りになるよなァ…!」

「全くだ」

『頼りにしてるのは、私の方だ、よ!海賊さん達…、怪我したくなかったらどいてください!疾風迅雷!!』


ーズガァンッ!

「「「ぎゃああああ!!」」」


今度は横ではなく縦。
体全体を使った袈裟斬りで飛ばした嵐の斬撃は囲んでいた男達の隙間を切り裂いた。
すぐさま轟の氷がズオッ!と氷の壁を作り、モビー・ディック号への退路を作る。


「切島、梓!走るぞ!」

「させるかァァ!!」


ードォォォン!


走り出そうとした3人の前に上から降ってきたのは魚を彷彿とさせる見た目の大男だった。
まるでサメのようなギザギザの歯。よく見ればエラもあるが、人間でもある。


「ッ、んだよこいつ!?デカすぎんだろ!?」

「異形系の個性…、鮫か…!?」

『あ、悪魔の実って鮫にもなれるの!?』

「無知とは恐ろしいな、キャプテンはあの魚人族だぞ!」


「これでお前らもお終いだ!」と凍らされた船員たちが嘲笑う。
確かにとんでもなく鋭い殺気だった。
問答無用で手が震える其れは足にもくる。

本能で一筋縄では行かないことを悟り、切島と轟がジリっと下がろうとしたところで、梓はダンッと地面が抉れるほどの雷を纏って一歩前に飛び出した。


「「梓!?」」

『退け…、お前がいると、あっちの船に戻れないでしょうが!!』

「ほう、この殺気で向かってくるとは相当な実力者か、はたまた命知らずの馬鹿か…どうやら、後者のようだなァ!!」

『疾風じ、』

「梓!!2人を抱えて飛べェェ!!」

『ッ!!』


この船の船長である魚人族の男と攻撃を交えようとした瞬間、空を切り裂くエースの声が聞こえ、梓は咄嗟に轟と切島の腕を掴むとドンッ!と地面を蹴って一気に上空に舞い上がった。
瞬きの間の一瞬で高度が10メートル上がり耳がキーンとするが、次の瞬間、


「火拳ッ!!」


爆砕とはこの事を言うのだろう。
火力を最大に高めて巨大化された炎の拳で放たれたのその必殺技は、梓たちが苦戦していた敵船の甲板という戦場を薙ぎ払い消炭にした。


『「「……え?」」』


ふわりと空中を滞空したまま大破した船の残骸に口があんぐりと開く。
そのまま放心状態で落下しそうになったところを腕を青炎の翼に変えたマルコに支えられた。


「ったく…じゃじゃ馬どもが。まっ…全員無事で良かったよい」

『「「……。」」』

「何、3人揃って鳩が豆鉄砲食らったみてェな顔してんだ。…ああ、エースの火拳の破壊力に驚いたのか。ま、敵船もデカかったから最大火力をぶつけたみてェだな」

「最大、火力って……エンデヴァーかよ…」

「お前らが気ィひいてくれたおかげで真横から必殺技がぶち込めた。図ったわけじゃねェだろうが、ありがとな。特にチビ…いや、梓、よくエースの声を信じて飛んだなァ」

『いや……無意識で…。それより…エース隊長やばい』

「ハハッ、お前ら驚きすぎだろ。俺らからしちゃ、お前らの戦いっぷりに驚いたがねェ。とりあえず、今夜は戦勝の宴だ。さっさと船に帰るよい」


面倒見の良さそうな笑みで優しげにそう言ったマルコに、3人は呆然としつつもコクリと頷いた。

ゆっくり甲板に下され、駆け寄ってくる仲間達と再会する。


「梓さん、轟さん、切島さん…!ご無事で!?」

「おー、ゴブジだよ。なんとかな」

「切島くん、掴まったんだって!?」

「おう緑谷、でも、石の手枷みてェなのつけられるだけで他に拘束とかなかったからすぐ逃げれたし、梓と轟が助けに来てくれたしな。そっちは大丈夫だったか?」

「こっちは、襲ってくる人たちをかっちゃんが爆破したのと、上鳴くんがアホになっちゃったくらいで被害はなかった!轟くんも、梓ちゃんも無事で良かった…!!」


緑谷の安堵に轟が「お前も無事そうで良かった」と頷くが、その隣で梓はじっと海面を見ていた。
サッと仲間全員の無事を確認した後に、すぐに視線が海面にいったことに気づいた爆豪は、眉間にシワを寄せたまま彼女の隣に並ぶ。

再会したら怒鳴って殴ろうと思っていた。
なに飛び出してんだ、1人で突っ走ってんじゃねェ、とゲンコツでもかまそうと思っていたのに、少し様子がおかしい少女を見てその気も失せる。


「どうした」


ぶっきらぼうに聞けば、梓はハッと顔を上げて爆豪を見た後に『あれ…』と海面を指差した。


「あ?」

『敵船の人が、船から落ちて…溺れてはないけど、ガレキに掴まってる…』

「……」

『グランドラインの海は…、海流がひどく複雑でちゃんと泳げなかったよ。あの人たち、このままじゃ死んじゃうかもしれない』

「…しょうがねェだろ。そのつもりであいつらはこの船に勝負仕掛けてきたんだ。第一、切島攫ってんだぞ。ヴィラン同然だろ」

『……』

「オイ、聞いてんのかクソ梓」

「おーい梓、お前やるじゃねェか!気に入った!超気に入った!俺の火拳に合わせてくれたしよォ!ヒーローってかっけェな!!」


おーい!と嬉しそうに手を振りながら駆けてくるエースに爆豪を含め全員が気を取られた瞬間だった。


『助けてって…目、してる』


そう呟いたかと思えば、刀を置いて船縁に足をかけるものだから爆豪は焦った。
慌ててその小さな背を掴もうとするが、梓はとーん、と海面目掛けて飛び込み、エースを含めた全員が「「「はァ!?」」」と驚愕の声を上げた。

近くで見ていたマルコやサッチ、イゾウ達も顔を引きつらせて慌てて船縁まで駆け寄って海を覗き込む。


「あのバカ!何してんだよい!?おいガキどもテメーらのツレは何を考えて…!」

「うわあああやると思った!どうせあの子の頭は守護のことでいっぱいだし、切島救った以上、倒す意味もないけどさァ…!だからって普通飛び込む…!?どうする!?ウチらじゃこの海流泳げないし、足手まといになるだけだよ!?」

「はァ!?守護!?なんだそれ!?」

「あんのバカ…!!」

「爆豪、ちょっ」

「僕も行く!」


梓を追いかけるように立て続けに海に飛び込んだ爆豪と緑谷に、耳郎と八百万は頭を抱えた。


「ヤオモモどうしよう!?」

「お、落ち着きましょう…!私たちは、落ち着かなければ…」


とりあえず、続いて飛び出しそうな切島の腕を掴むと冷静に口を開く。


「爆豪さんと緑谷さんは個性的にもこの海流にも対応できるとして、私たちはそうはいきませんわ。止めても止まらないでしょうし、待ちましょう」

「あ、ああ…」

「八百万、悪いが、ちょっと海面凍らせてくる」


止めようとしている八百万に律儀に一言断りを入れ梓たちを追いかけるように船縁から海面に飛び込んだ轟に耳郎は「そりゃそうなるよな…」と微妙な顔をした。
梓の守護の意志は、問答無用に仲間を引っ張り込む時がある。

それは本人の意思とは関係なく、周りがその強い意志につられるのだ。
轟が降りて行った後、船縁から海面をのぞけば、彼が氷を張り、救助活動の拠点を作っていた。


「もう、無茶苦茶するんだから。ヤオモモ、ロープ出せる?多分あいつら見境なしに救っちゃうと思うよ」

「ええ、出せますわ。そうですわね…野放しにもできませんもの。相手も反撃の意志はあまり無いようですので、手早く拘束していきましょう」


助けたとはいえ流石に野放しにも出来ず、八百万はため息混じりにロープを創造すると、甲板に上がってきた敵船の海賊達を手早く拘束していく。


「乗せていただているというのに、勝手な事をしてしまって申し訳ありませんわ…」

「…全くもって理解はできねェが、ま、助けちまったもんはしょうがねェよい。あの船に乗ってた魚人族の船長や他の猛者どもは逃げちまって、こいつらは力のねェ下っ端…次の島まで牢に入れといても危険はねェだろ」

「はァ…せっかく倒したのにどうして助けちゃうかな…ちょっとやるなァって思ったのに台無し」

「訳わかんねェ嬢ちゃんだねェ。戦闘センスには恐れ入ったが、手前ェの仲間、攫われときながら敵に情けをかけるたァ…」


困った様子で煙管のけむりを燻らすイゾウに周りは全くだ、と困った様子で頷いていて。
耳郎は、確かに彼らのいう通りだと思いつつも、梓の性分を考えれば致し方ないと諦めにも似た感情でふっと口元を緩めた。


「梓は、そういう子だから」

「そ、そういう子ってどういう子だよ?」


小さく呟いた独り言が聞こえていたらしい。
エースに詰め寄られ、耳郎は思わず一歩下がりながらも「言葉のままですよ」と肩をすくめた。


「言葉のままァ?」

「……さっき、呟いてたんです。“助けてって目ぇしてる”って。ウチは、緑谷とかに比べたら、まだ梓との付き合いは浅いけど…、あいつは、本当に人を守る事に固執してるから、」

「ヒーローだから、ってことか?」

「それもあるかもしれないけど…、梓は、無意識レベルで人を守るので。ホント、命が何個あっても足んないんです。怖いよね」

「全くですわ。いつもヒヤヒヤですもの」

「うぇ〜い」

「コイツなんかちょっとうざいな」

「耳郎ひでェ!気持ちはわかるけど笑ったげて!」


こっちの気も知らずに。と耳郎が思わず上鳴を押し退ければ、切島が吹き出してしまう。
そうしている間にも梓たちが救出した敵船の船員たちは1人また1人と甲板に上がって、手早く八百万に拘束されるのだった。

_235/261
[ +Bookmark ]
PREV LIST NEXT
[ TOP ]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -