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侵入してきた敵達に広間内はパニックに陥った。
黒いマントを頭からかぶった敵は性別も年齢もわからないが、5人とも手裏剣のようなものを持っており、仁王立ちしている。


「キャアア!バンディット強盗団だわー!!!」

「誰か!誰か助けてくれェ!!」


我先にと1番大きな扉に駆け出す人々を嘲笑うかのように強盗団の1人が高らかに叫ぶ。


「我らバンディット強盗団!命が惜しくばこの加賀美に眠るありったけの財産を寄越せェ!!」

「やべェ…!」

「九条、バンディット強盗団構成員の素性は!?」

「敵連合に触発されて最近台頭してきた新生敵チームですからすべては知りませんが…、パワー系、スニーク系、様々なメンバーがいると聞きます!その中でも厄介なのが、」


パニックに陥る人々を手で避難させるように扉の方へ誘導しながらそう話すが、


ードォンッ!


後ろで大きな爆発が起こり九条とカナタ、そして加賀美家の2人はハッと振り返った。

そこには、間一髪で雨のベールを作って爆発から全員を守った梓がいた。


「お嬢!?」

『何これどういうこと!?爆発したんだけど!』

「は!?」

『あの5人の内、真ん中の1人が手裏剣を飛ばしてきたんだけどそれを刀で弾こうとしたら爆発したから咄嗟に高密度の雨のベールを…!』

「すげェな咄嗟に防いだのか!コントロール上がってんぜお嬢!それより、厄介な個性って警察で言われてたんがアイツだ。“触れた金属を爆発物に変える個性”起爆のタイミングもアイツ次第!」

『えっ真ん中の人が!?他の4人は!?』

「他は知らねェ、つーか、全員マント着てっから区別つかねェな!俺らで全員相手すんのはちとキツすぎんな…!イレイザーは!?」

『先生は!その扉の向こう、だけど…また来た!九条さん隣に来ないで!!』


真ん中の男が手裏剣を打った。今度は2つ、左右から旋回してくるそれに梓は(どっちかに集中したらどっちかくらっちゃうじゃん!)と冷や汗を垂らしながら抜刀し、瞬時にゴウッ!と刀に嵐を纏わせる。


『ごめん…加賀美さん…、』

「む!?」「お嬢様…!?」

『この部屋めちゃくちゃになるかも…、疾風迅雷!!』


ードガァン!!


雷光が煌めき暴風が吹き荒れ、その斬撃は梓が真横一文字に振り抜いたことで手裏剣2つを同時に弾き飛ばし粉々にした。


「お嬢、頼もしいが、加減を考えろ!」

『そんなこと言われても…5対1だよ!?だったら九条さんが先導して早くこの広間から避難を!』

「それがそうもいかねェ!扉が開かねー!セキュリティシステムが変に作動しちまって、ここをぶっ壊さないと先には、!」


焦った九条の言葉でハッと扉を見れば、人々が群がって「開けてくれ!」と扉を叩きまくっている。
あの扉の向こうにいる相澤と心操だってパワー系ではない。
自分だったらあの扉を壊せるだろうが、その間、この5人の敵が見逃してくれるとも思えない。


(……最悪の事態を避けるためには、)


『私がコイツらを制圧して…扉を、壊すしかない…!!』


梓は腹を括った。

扉の先にはあのイレイザーヘッドがいるから、あの人が、すぐに駆けつけてくれる。だから私1人だけではないと、少しだけ、期待をしていた。

でも、その扉が開かないのであれば、自分は1人だ。
その状況が早めに梓の覚悟を引き出した。


『九条さん…出来るだけ、みんなを、壁の方に』

「あ、あぁ…、いけんのか」

『いけるかは、わからないけど…、やるしかない。上手くやってみる!ああもうこういう時轟くんがいると氷の壁作ってくれるんだけどね!耳郎ちゃんがいればどこに敵がいるか完璧にわかんのにね!でもいないし、しょうがない!』


人の命の際に立っているわりには不思議と落ち着くいつも通りの声音だった。
その声に、人々は、まるで危機に面していないような、絶対に助かると安心できるような錯覚を覚えた。

人を守るように全員に背を向け敵と対峙する。
ちらりとその横顔が口角をあげ、


『大丈夫、みーんな知ってると思うけど、爆発の個性は、見慣れてんだよ』


目がぎらついた、瞬間。
ドンッ!!という音とともに、梓は雷で地面が抉れるほどのスピードで一気に飛び出した。


「なんだお前!?ヒーローにしちゃ、幼いが、!?」

『どうもバンディット強盗団!雄英高校ヒーロー科1年A組…東堂梓です!以後、お見知りおきを!!』


シュパパッ!と打たれた手裏剣数発はバラバラに旋回するが、電光石火の如く現れた梓の刀によってドガァン!と爆発ごと相殺される。
4発、同時に打たれたのに全ての手裏剣に追いつき全ての爆発を相殺し、
ダンッ!と片足で地面を蹴ると雷光の如く一瞬で敵の前に現れ、刀を突く。

嵐を纏う刀は容易く手裏剣を打ち砕いたのだ。


「お嬢…!無理すんな!他4人いんぞ!」

「梓お嬢様…!?嘘だろ、強い…?」

「ふむ…、アイツだけでも片がつきそうだな。俺の出る幕はないか」

「カナタさん、違ェよ…。お嬢は今無理して戦ってんだ!多対1はお嬢にとってあまり経験がねェ、だからこそ、斬撃を飛ばして中距離で戦いてェはず…。でも、俺らがここにいるから、俺らを巻き込まないためにお嬢は、自分が不利な接近戦に持ち込んでんだよ!」


とは言っても近接も相当強ェがな!
と誇らしげに言いつつ扉を押す手を緩めない九条に周りは少しだけハッとした。

振り返れば、爆破を間一髪で相殺し、敵に攻撃をしかけようとする梓がいる。
が、それまで動いていなかったマントを被った4人の敵が動いた。


『は!?』


4人の敵から一斉に放たれたのは手裏剣だった。
8つの手裏剣が四方八方から自分に向かい、梓は一瞬混乱する。


(なんで他の人たちも手裏剣!?え、これ避けてもいいよね!?爆発しないよね!?)


爆発の個性は真ん中の敵だけのはず。
きっと撹乱させるための武器なのだろう。

そう無理やり片付けると梓は後方宙返りて1つ目の手裏剣を避けた、が、


ードガァン!


『げっ!?』


爆発し、体が後ろに吹っ飛んだ。
全身が痛み、ああかっちゃんに爆破されたみたいだと自嘲しつつ次の手裏剣は嵐を纏った刀でぶった切って相殺するが、左右から手裏剣がニュッと出てきて(ああヤバい、)と強烈な痛みを悟る。


(腕は、吹っ飛ばされないようにしなきゃ、)


梓はこの2つの攻撃を避けない選択をした。
きっと、この2つを受けてもまだ攻撃はくる。
無理やり避ければきっと次の数連弾で致命傷を負うだろう。
肉を切らせて骨を断つ、戦闘脳の彼女らしい選択だった。

できるだけ早く、次の攻撃に移れるように刀に嵐を這わせ、動きを止めた瞬間、


「何やってんだ弾け!!」


空間を切り裂くような怒声が窓から広間に響いた。
その声は、4月から随分と助けられた、梓が無意識レベルで頼りにしている唯一の大人の声。
信頼している、担任の先生の声。

弾いたって爆発するのに。いや、先生がいるなら“視て”くれてるかも。
頭は意外と冷静で、

梓は一呼吸置くと嵐を纏った刀を逆手に持ち替え、ガギギィン!と間一髪でふたつの手裏剣を弾いたと、同時、視界に捕縛布が現れ残りの手裏剣を次々と叩き落したかと思うと、一瞬で1人の男が梓の目の前に現れる。

手裏剣は、爆発しなかった。


『先生…、視て、くれてたんですね。助かりました…。それより、どうやってここに、』


ほっと息をつき、頭を下げれば、相澤は頭にぽん、と手を置きクシャクシャと撫でた後、ゆっくりとゴーグルに手をかける。


「警報音が鳴って扉から入ろうにも施錠されてたもんでな、捕縛布使って外壁伝いにここまできた次第だ」

『忍者ですか。絶対来てもらえないと思って腹括ったところでした』

「俺を舐めるなよ。それより、バンディット強盗団とはな。お前の引き寄せ体質もそろそろどうにかしてほしいが。1発食らったか、」

『ん…、でもかっちゃんの爆破に比べたら大したことないです。まだいけます』

「そうか、とりあえずお前下がれ」


ドンっと後ろに押され、梓は首を傾げた。


『どうして…一緒に戦った方が、』

「奴の個性は周りを巻き込みかねん。そして、今は手裏剣だが、警察の情報じゃ銃も扱うと聞く。この場で弾丸が爆発してみろ、死人が出るぞ」

『……でも、相手5人ですよ!しかも同じような個性の…!』

「違う。相手は…2人だ。飛び道具アリの爆弾魔と、その複製品…ってところか」


ギロリとゴーグルの中から相澤が睨めば、残りの4人がたじろぐのがわかる。
そこで、梓はずっと感じていた違和感に気づいた。


『気配も、背格好も似てる…相手が1人、って、まさかこいつらは真ん中のやつの分身体ですか』


つまり、彼らも個性のうちの1つだったのだ。


『幻影…じゃない、手裏剣には実態があった。分身を作れる個性を持った人がいるってことですね…』

「おそらくな。そして、この部屋を監視する気配を感じる。奴がその個性の持ち主だろう。つまり、2対1、俺がここに残り退路を守るのが、一番合理的って訳だ。わかったらさっさと行け」

『……』

「行けっつってんのが聞こえねえのか。東堂…いや、リンドウ、市民を避難させろ。命令だ」

『…はい、せんせ、いや、イレイザーヘッド、追いついてきてくださいね』

「そりゃ、仮免のひよっこに全部任せるわけにはいかないからな。……すぐに行くよ」


彼は、珍しく優しく口角をあげた。
背中を押されるように九条の元へ駆け出す中、後ろから発破をかけるような相澤の声が広間に響く。


「そこのリンドウの家紋をつけた男共!“未熟”で“貧弱”で“当主の器じゃない”現当主が1人で体張ってんのに何ボーッと突っ立ってやがる。ちったァ役にたったらどうだ?なァ、九条?」

「なんだと…!?」

「…ハハッ、俺含めてまるごと挑発してくれちゃって。お嬢、指示出せ!」

『ん、じゃあ全員その扉からどいて!ぶっ壊すから!』


青筋を立てるカナタとその側近たちには梓の指示は聞こえていないようで、九条はとりあえず扉付近にいた人々を「離れて!お嬢が壊すから!」と無理やり引き剥がすが、パニックは人の思考を鈍らせるらしく、次から次にと扉に人が群がってしまう。


「あーもう!お嬢が扉ぶっ壊すから離れろっつってんだろうが金持ちのボンボンどもが!!」

『九条さんその人たち叔父さん派とはいえウチの援助者だからひどいこと言わない!』

「扉を壊すだって!?梓お嬢様がか!?そんなことできるわけ…!」

「この扉がどれだけ頑丈だと思ってるんだ!大の大人が全員でかかっても壊れんのだぞ…!?」

「お主のような貧弱者にこの扉が、」


『…〜〜っ、あーもううるっさいな!!どいてよ!私これ壊せるよ!天蓋のバリアも壊したもん!ファットガムさん褒めてくれたもん!先生が時間稼ぎしてくれてる間にここから出ないと爆発に巻き込まれるかもしれないんだよ!?急ぎたいんだからどいてよぉ!』


お嬢、うるさいって言っちゃダメ。
と苦笑いしている九条をよそに、癇癪を起こしたように地団駄を踏んだ梓は一息でそれだけ言い切ると刀を構えた。


『カウンドダウンします!5秒後にこの扉ぶっ壊します!東堂家は嘘をつきません!5、4、3、2、…』

「「「うわあああ本気だ!?」」」

「みんな扉から離れろ!お嬢様の刀の切っ先に嵐が集まって…!!」


ぶわりと暴風が吹き、青い稲光がバチバチと彼女の持つ刀に宿り、
ギュルルルと風、水、雷が回転し、出力が上がるが、刀のフォルムに沿うように薄く鋭くなっていく。

それは、インターンで天蓋のバリアを壊し、治崎の野望を阻んだ一点集中の大技。


「全員伏せろォ!!」

『1、…渦雷突きッ!!』


ードガァァンッ!


けたたましい音ともに嵐が重厚な扉を抉り、その場を爆風と稲光、そして豪雨のような水が襲う。
人々がその閃光に思わず目を閉じ、身をかがめている間に扉は跡形もなく崩れ去っていた。


『治崎戦よりは、加減しといたけど…ちと巻き込んじゃった。ごめん』


扉近くにいたせいでびしょ濡れの加賀美朔太郎にぺろりと舌を出した少女はこの場にそぐわない明るい声をしていて、
その強い光を放つ目が、暴風が止み土煙が収まった扉の先を見て少しだけ目を見開く。


『あれ…、なんでいるの!?避難は!』

「アンタを置いて避難するわけないだろ。バカなの…っていうか、加減しろよ。俺まで吹っ飛ばされちまうかと、」

『だっていると思ってなかったもん!ごめんって!ちなみに加減はした』


ごめーん!!と少女が駆け寄る先にいるのは雄英の制服を着た紫髪の目つきの悪い少年がいる。
濡れてはいるが無傷のようで、周りが、なぜここに雄英生がと思っていれば九条が2本ある自分の刀のうちの1本をその少年に投げて渡した。


「心操、不測の事態だ。もしもん時はそれ使え!お前も一応、こっち側の人間だからな…この一般人守るために働いてもらうぜ」

「俺まだ状況理解できてないんですけど。しかも個性も使えないっすよ」

「バンディット強盗団を制圧、そんだけだ。広間に現れた敵2体はイレイザーが相手してくれてる。俺らはこの一般人を無事に屋外に送り届けつつ、バンディット強盗団の制圧する!」


九条の話ぶりからするに、この少年も一族の人間らしい。カナタとその部下10名、九条、そして梓と心操がいれば、自分たちも助かるかもしれない、と人々は少しだけ絶望感から解放され始めていた。
広間を出られたことによる安堵感が少しの余裕を作ったのだ。

が、心操はそんな彼らの希望に満ちた目を一瞥すると、ちらりと梓を見下ろし、


「梓が守りたいと思ってんなら俺も手伝うけど、そうじゃないんならやらない」

『へ?』

「何言ってんだ心操!守るんだよ、お前はお嬢の眷属だろうが!お嬢は当主だ、命がけで全員守るのが、」

「だから、前にも言ったじゃないですか。俺は梓だけの眷属だって。別に東堂家に忠誠誓ってないし、守護の意思なんかどうだっていい」


「なっ…蛙の子は蛙とはよく言ったものだ!梓、このような不届き者がお前の眷属だとはな!」

「守護の意思がなんたるかを理解せずに一族を名乗るとは…!!」

「なんて無礼な…!!」


「あ、やべ、俺地雷踏んだ?」

『めっちゃ踏み抜いたよもう君かっこいいなホント!とりあえず被害出したくないから心操手伝って!避難手伝って!この人ら私のいうこと全然聞いてくれないから引っ叩いてでも走らせて!』

「引っ叩いていいの?了解」


梓からの純粋なSOSに意地の悪そうな笑みで応えると、手始めにビービー煩かったオヤジの頭をスパーンっと叩いて黙らせて先導するように走り出した。


「梓、待ってる間に南の方から破壊音が聞こえから北側から逃げた方がいいと思う!」

『了解!とりあえず走ろう、加賀美さん後ろから指示出して!この屋敷広すぎて道わかんない!』

「あ、ああ!」

『九条さんと、叔父さんの部下たちは足の遅い人たちを背負って走って!!』

「言われなくとも…!」「やっておるわ未熟者!」

「何この人たち一々梓の悪口挟まないとやっていけないわけ。つーか…、スニークいないのキツイな。梓、耳郎さんが恋しいでしょ」

『うん今めっちゃ恋しい!だって前から敵きたらトラップあっても飛び込むしかないもん!怖あ…』

「とりあえず、いけるところまで走ろう」

『うん、心操、九条さん後ろは任せたので索敵も兼ねて私は少し前を走るね!』


少しスピードをあげ、刀の鍔に親指を掛け柄に手を添えながら数メートル前に出た少女を周りは追いかける。
数分前まで馬鹿にし、見下し、哀れんでいた現当主が着ている羽織が靡く。背には、彼らが先祖代々崇めていたリンドウの金の家紋がデカデカと刺繍されていた。

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