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バタバタと忙しなく職員室に駆け込んできた担任するクラスの生徒たちに相澤は眉間にしわを寄せた。


「なんだ。騒がしいぞ」


ギンッと睨めばピシッと静かになるが、駆け込んできたメンバーの中にいつも賑やかな葉隠、芦戸は兎も角、ストッパーになることが多い耳郎と八百万もいるものだから珍しいと思う。
そわそわと机のそばに並んだ4人に何か不測の事態だろうか、と相澤が聞く体制に入れば、代表して八百万が口を開いた。


「あのっ、相澤先生にお伝えしたいことがありまして」

「伝えたいこと?」

「相澤先生は、最近の梓さんのご実家のことについては聞き及んでおられるのですか?」

「というと?」

「その、お見合いのことについて…」

「…………………は???」


長い沈黙の後に大きく目を見開いて素っ頓狂な声を上げた相澤に八百万たちは珍しい表情を見たと思いつつ、やっぱり知らなかったのか、と心配そうに顔を見合わせた。

聞こえていたらしいプレゼント・マイクとブラドキングもフリーズして八百万の方を見ている。


「えっ、いまお見合いって聞こえたけど。東堂が!?」

「マイク先生…えぇ、私たちも先ほど本人から聞いたのですが、どうやら政略結婚を見越したお見合いのようで本人も戸惑っていて…」

「マジか!!やべーな東堂一族!!このご時世にお見合い!!やべェ!!イレイザーどうすんだよ!?」

「マイクうるせェ!……え、マジかよ。は?お見合い?東堂が?誰と?」


未だパニック状態で八百万を問いただす相澤に我慢できないとばかりに芦戸が割り込んだ。


「誰かはわかんないけど、っあ!写真持ってくんの忘れた!葉隠持ってないよね!?」

「お茶子ちゃんが持ったままだぁ!えっと、先生、全然かっこよくない男の人でね、先生と同じ年の人なんです!!」

「…………は??」

「ってことは俺とも同い年かよ!!俺があいつと結婚するようなもんかよ!!シヴィー!!」

「おいイレイザー…やめさせた方がいいんじゃないか。とは言っても、本人は乗り気じゃないらしいから…本人にそれを強要する人間を説得するしかなさそうだが…」


傍観していたブラドキングも流石にこれには眉間にしわを寄せていて。
しかし、自分たちは一教師である。ただの学校の先生だ。家庭が決めた家庭の事情に介入することは基本的に許されない。それを本人も了承しているのなら尚のこと。

だから、東堂一族に首を突っ込んだとしても“家庭の事情だ”と突っぱねられて何も出来ないことが多いのだ。この前のインターンがまさにそれだった。
だからこそ、非合理的なことを好まない相澤はあまり首を突っ込みたくないのだが、
たしかにブラドキングの言う通り、梓にそれを強要している人間を説得することも考えなければ流石に彼女が可哀想である。

相澤はしばらく考えて、やっと重い腰を上げた。


「………本人に直接聞く」

「相澤先生!良かった…!」

「先生、あの、梓の本音、汲み取ってあげてください。あいつ、口では仕方ないとか言ってるけど、端々にやっぱり嫌だって感情が漏れてて…」

「耳郎…、心配ないよ。あいつは俺の前では割と本音で話す」


少しだけ自信ありげにそう言った相澤に、あまり想像ができなくて本当だろうか?と耳郎たちは首を傾げるが、2人の関係を時々聴いているマイクはニヤニヤと笑っていた。


(手がかかるとよくボヤいちゃいるが、可愛いんだろうなァ…。自分にだけ弱音吐くんだもんな、そりゃ過保護にもなるわ)





寮に入った瞬間、爆豪に胸ぐらを掴まれた派手にガクガク揺さぶられている梓がいて、相澤を始めとした一同はポカンと口を開けた。


「見合い嫌なんだろ!?この30歳のクソ野郎と結婚したくねーんだろ!?」

『……、え、かっちゃ…なんで、知って…』

「相手がどれだけ偉いやつか知らねェし、家同士のしがらみなんかもあるんだろうが、テメェは嫌なんだよな!?おい、梓、はっきり答えろ!寝ぼけ眼でパチパチ瞬きしてんじゃねェ!!」


一瞬喧嘩かと驚いたが、話の内容に(ああ、爆豪がこの件を知ったのか)(だからってあんな問い詰め方する!?)と女子たちが引いていれば、
くしゃりと梓は顔を歪めた。


『い、…い、やだ』


ぽつりと聞こえた声に耳郎は胸がきゅうっと痛くなる。
寝ていたのを乱暴に起こされて頭が覚醒していないことも相まって、ぼろぼろと梓の目からは涙が溢れてきた。


『…や、だ。…やだよう。…かっちゃん。わたしこの人とけっこんしたくない。…添い遂げたくない…、。かっちゃん助けてぇぇ…断り方わかんないよおぉでも結婚したくないうわあああんん』


その漏れ出した本音に八百万達は胸が痛くなって思わず縋るように相澤を見上げていた。
どうすればあの友人を助けてあげられるかはまだわからないが、この人の助けが必要なのは確かなのだ。


「先生…、どうにかできませんか?」

「相澤先生…梓ちゃんが可哀想で見てらんないよぉ〜!」

「梓さんの後見人である九条さんを説得するか、もしくはお見合い相手の男性に諦めていただくかの二択ですわ。相澤先生、ご協力をお願いできませんか」


相澤は芦戸、葉隠、八百万の縋るような言葉に反応することなく眉間にしわを寄せてめそめそしている梓を見ていた。

苦手なのだ。彼女が突然本心を曝け出すのが。
焦って、動揺してしまう。胸が痛くなるし、どうにかしてやらねばと思ってしまう。
爆豪がぎゅっと抱きしめているのも、きっと早く泣き止んで欲しいからだろう。

自分も経験者だからわかる。
相澤は不意打ちで梓の本音を目の当たりにし少し動揺していた。


(家庭の事情にはなるべく首を突っ込みたくないところだが…これは流石に、)


どうしたものか、とボサボサ頭を思わず掻いていれば、ふと爆豪の肩越しに梓と目が合った。
その涙に濡れた透き通った目が相澤を捉え、そして、また多めの水分を張り始める。


『うう…せんせぇぇ…』

「っ」

「は?先生?」

「あ、本当だ。爆豪、玄関見てみ。相澤先生が来た」

『先生ぇぇぇええ』


爆豪が振り返ろうとした瞬間、抱きしめられていた梓は彼を振りほどくとソファを飛び越え一目散に相澤に駆け寄っていったものだから全員ギョッとした。

まさか振りほどかれるとは思っていなかった爆豪や慰めていたその周りは目が点である。

対して相澤も梓に泣きながら呼ばれたことにぎくっとするが、
それでも、駆け寄って力任せにボフっと抱きついてきた少女を受け止めた。


「わぁ。あの梓ちゃんが」

「相澤先生に抱きついた!?あの東堂が!?泣きながら!?衝撃なんだけど!」

「まぁ…、家のこともあって、相澤先生は1番味方になってくれる大人だって言ってたからね」


『先生ぇぇ九条さんが、泉さんがお見合いの話を前に進めるんですぅ!私はまだ嫌だといったのに、相手は東堂一族を古くから知るスポンサーで、国の要人で、そのご子息も将来は家督を継ぐと、だから一族の事を考えれば結婚もありだと!!』

「お、おう……」

『何度も考え直してくれないかと言いました!!でも、九条さんも泉さんも一度は会ってみるべきだと聞いてくれず!会っちゃったらもしかしたら話がもっと先に進んじゃうかもしれないじゃないですかぁ!そもそも私は相手の方は継承式でお会いして以来、肌が合わないんですよう!相手の方のお父上は叔父さん派で私のこと死ねばいいと思ってるはずだし、でも、九条さんは考えすぎだと!』

「落ち着け、東堂。とりあえず落ち着け」

『ううう…、乗っ取るつもりなんですよ。相手の家は、私が未熟者である事を知ってます…だから、息子を使って私と結婚させ、家を乗っ取ってしまうつもりなんです…!九条さんにもそう伝えましたが、“例え相手がそう企んでいたとしても万が一にもお嬢は殺せないだろう?強いし。逆にカナタさん派の派閥を飲み込むチャンスだぜ”って!そりゃ負けるつもりないけど!でも私そんなことのためにこの人と結婚しなくちゃならないの嫌だぁあああ』


ぼろぼろと涙を流しながら今まで話していなかった事の真相を洗いざらい話し始めたものだから相澤も、周りも固まった。


「「「マジかよ」」」


「え、そういう真相だったの?」「ますます不憫。ガチ政略結婚じゃん」「梓さんのお気持ちはまるで無視ですわね」と耳郎たちが口元をひくつかせ、爆豪は九条たちに対する怒りでこめかみをひくつかせている。


「あんッッッのクソ野郎ォ…!!爆殺してやらァ…!!」

「ちょ、爆豪…爆殺は…いや、なんかもういいや。庇えねえわ、九条さん達のこと。酷すぎ。梓の人生なんだと思ってんだよ…」

「梓ちゃんの人生じゃなくて、24代目当主の人生を大事にしようとしてんだろうな。一族のために。筋は一本通ってんだけどさ…なんつーか、価値観が全く違ェから理解はできねェわ」

「お、上鳴が珍しく冷静」


相澤に抱きついて真相をぶちまけて少し冷静になったらしく、ぐずぐずと鼻を鳴らしながらもゆっくり彼から離れた梓に耳郎は心配そうに近寄った。


「梓、大丈夫?ずっと悩んでたんだね」

『じろちゃん…うん、…どうすればいいか、わかんなくて、』

「よしよし」

『…うう、家のこと、考えれば…わかるんだよ。九条さんたちがチャンスだって、言ってるのも。これを機に、逆に少しずつカナタ派を取り込んで、当主交代論を鎮めるっていう…』

「梓……」

『わかるし、もともと当主交代論を発展させてしまったのは…私が体育祭で、失態を犯してしまったのが原因だから、責任取らなきゃならないってのも、わかるけど…』

「それは…っ」「違っ…」

『自分が私情まみれでわがまま言ってる、てのはわかるけど、うう…先生ぇ』


ぽろぽろと出てくる涙を拭う梓は、戦闘時が嘘のように弱々しい。紡がれる言葉が切なくて、思わず耳郎や八百万が訂正しようと口を挟むが、
それよりも早く相澤が動いた。

しゃがみ、梓よりも目線が低くなる。ゆっくり肩を掴み自分の方を向かせ、パチリと目を合わせると、


「違う。そうじゃない」


キッパリ。
そう否定した相澤に梓は涙に濡れた瞳をぱちくりと瞬きさせた。


『…?』

「違うだろう」

『……』

「お前の主張は、私情でもワガママでもない。正当なものだ。お前が、お前の心を弾圧するな」

『…でも、』

「でもじゃない。蓋をするな。嫌なら嫌とはっきり言え」

『………うう、いやです』

「そうか。さっきの話は全て本当だな?相手の男は古くからのスポンサーである家の嫡男で、その家はハヤテさんの弟であるカナタさん派閥。継承以来、何かにつけてお前を排除しようとする一派ってことか」

『はい…』

「嫡男がお前に興味を持っているのは事実か?」

『そうらしい、です…』

「そうか。相手の家は、お前を嫡男の嫁にもらうことで嫡男の望みを叶えられるし、あわよくばお前を取り込んで傀儡にしカナタに実権を握らせる目論見か。そして、九条はそれを逆手にとって、相手の家をお前派に取り込み、カナタ派を削る狙いか」

『そ、そんなところです…』


慣れた様子で梓の話を整理していく相澤に周りは先生すげぇと度肝を抜いていた。
冷静な彼につられて、梓もゆっくりではあるが落ち着きを取り戻し始めていて、


『あの、すみません…、思いきり抱きついてしまいました……』

「いやいいよ。気にするな」

『ちょっと…今のなかったことに、かっちゃんも』

「出来るわけねェだろ馬鹿かお前」

「それにしても、陰謀渦巻くとはこの事だな。心操は、この事は?」

『知っています…。でも、ものすごく怒ってしまって。いろいろ相談したかったんですけどここ数日まともに連絡取れてなくて』

「なに?」

『外出許可をもらってウチの書庫に入り浸ってるみたいなんです。なにか、調べ物とかなんとか…』


眷属である彼がこの事実を知らないはずもないだろうし、黙っているはずもないだろう。そう思って聞いてみれば案の定すでに行動に出ているようで、相澤は成る程な、と顎に手を当てた。

恐らく心操は、古くから関係があるという相手の情報を探るために、一族の書類を見漁っているのだろう。
敵を倒すためにはまず敵を知ることだと教えてきた甲斐があった。


「東堂」

『はい』

「もう少し落ち着いたら、心操に連絡を取ってみろ」

『え、あ、なぜです?』

「何かしら情報掴んでくるだろ、あいつも必死だと思うよ。俺は、駄目元で九条と連絡を取ってみることにする」


え?情報?なんのこと?
と首を傾げた梓を置いて、相澤は携帯を取り出しながら寮を出て行った。


(相澤先生に相談して正解だったね。最初はあまり乗り気じゃなかったみたいだけど、梓ちゃんが泣いてるのみたら動き始めてくれた!)

(梓にとって、相澤先生は唯一の頼れる大人だもんねェ)



その日の夜、未だ頭がショートしてソファに沈んでいる梓の周りでA組総出で作戦会議が行われていた。
死んだ目で一点を見つめる梓の隣には、事情を聞いて以来なぜか彼女のそばから片時も離れない轟が座っている。

相澤が九条に連絡するといなくなった後、八百万が帰ってきた轟や緑谷に事情を説明したのだが、その後が大変だった。
混乱した轟は梓から意地でも離れないし緑谷は泣くし爆豪は喧嘩するし。

やっと落ち着いたところで、「作戦会議しよう。ぐすっ」という緑谷の提案で爆豪以外が集まったのだ。


「ぐすっ、梓ちゃん気づいてあげられなくてごめんね。最近ご飯あんまり食べないなぁとは思ってたけどそんなに悩んでたなんて!」

『いずっくんまだ泣いてるの!?もう1時間くらい経つよ!?』


死んだ目で天井を見つめていたが轟とは反対隣に座る緑谷が未だぐずぐず鼻を鳴らしているものだからびっくりして思わず彼の方を見れば、仕方ないじゃん!とまた泣き始めてしまった。


『いずっくん泣かないでよう』

「うう、ぐすっ」

「緑谷、泣くなよ。東堂が困ってるだろ」

「轟くんなんで冷静なの!?梓ちゃんがっ、このクソみたいなおっさんとクソみたいな理由でお見合いしなきゃいけないんだよ!?結婚までさせられるかもしれないんだよ!?」

「大丈夫だ。俺はエンデヴァーの息子だから。最悪圧力かけてどうにか」

「エンデヴァーの息子だって言われるの凄く嫌だって言ってたのに当然のように権力振りかざしてる!!」


当然のように携帯を取り出して父親に連絡を取ろうとしている彼に思わず緑谷は「体育祭の時は親父の存在を否定するとか言ってたじゃん!」と叫びたくなった。
周りは引いた目で轟を見ているが、彼はいたって本気である。


「東堂、大丈夫だからな。俺がお前を守ってやるから」

「轟がっていうか、轟の親父さんじゃね?」

「バカ瀬呂黙れ!」

「俺の父親がエンデヴァーであることも、俺の力であることに変わりない。って、東堂が言ってたような言ってないような」


言ってなくね?
と思わず瀬呂は吹き出した。彼を止めた切島も笑いを堪えて肩を震わせている。

冷静なように見えて彼も焦っているようで言ってることはめちゃくちゃだ。自分のプライドで手段を選ばず出来ることすべてで梓の力になろうとしているあたり彼も必死なのだ。


(無理もないよな…、轟は東堂の1番になりたいんだし、)


尾白は一度も梓から目を逸らさない彼の異常な執着心に苦笑する。
無理もない、彼にとって梓は特別である。職場体験以来、相棒を自称してきたこともあり今はその立ち位置が定着しており、
クラス内でも彼は梓依存症患者だと揶揄されてきた。

その梓が、一族の安定のために政略結婚をさせられそうになっていて、しかも泣きながら爆豪と相澤に助けを求めたというではないか。
気が気じゃないに決まっている。
寮に帰ってきてすぐ事情を聞いた彼は、しばらく呆然としていたし、我に返ったと思ったら片時も梓のそばを離れなくなった。

彼女が追い詰められていたことに気づけなかったことや、爆豪や相澤へ助けを求めたのに自分にはそれがなかったことへの悔しさもあるが、それ以上に、どうにかしてやりたいと思ったのだ。

戦闘では己の力で道を切り開き、時には轟を引っ張ってくれるほどの武勇である彼女が、唯一思うように動けず苦しんでいるのが一族のお家騒動であることはなんとなく察していたし、相澤がそれを気にして彼女をお家騒動や重圧から守ろうとしていることは気づいていた。
彼女が唯一跳ね除けられない苦痛を、取り除いてあげたいと思った。笑っていてほしい、と。


「東堂、力になるから、なんでも言ってくれ」

『……轟くんさっきから目が血走ってんだけど。こわいな』

「こら。轟も必死なの」

『耳郎ちゃん、でも、轟くんが力になってくれるのはとても嬉しいけど目が』

「必死だから。アンタが思ってる以上に」

「まぁまぁ耳郎さん、梓さんと轟さんが微妙に噛み合わないのはいつものことですわ。それより、話を先に進めましょう。相澤先生が九条さんを説得できなかった場合の話を」


仕切り直した八百万は顎に手を当てて思案していた。


「相澤先生で九条さんを説得できませんと、もう打つ手は限られてしまいますわ」

「打つ手…、相手側を引き下がらせるのみ、か。しかし相手のこの男は東堂と結婚したいと考えているとか?こいつ自身を引き下がらせるのは難しいんじゃないか」

「障子の言う通り、好意がある者を引き下がらせるのは些か難しいだろう。他に手立てはないのか?そもそも現時点で明瞭な相手の情報が少なすぎやしないか」

「待って常闇くん。そこらへんは梓ちゃんならわかるかも。梓ちゃん、このお見合い相手のお家のこと、詳しくわかる?些細なことでも全部教えてほしいんやけど」

『んん…、あんまり詳しく知らないの。東堂一族は何百年前から地域に根付いて民を守ってきたんだけど、一族の者に救われた家が一族をサポートしたいと名乗りでてくれることがあって、それを九条さん達は傘下って呼んだり、関係各家って読んだりしてる。そういう家は大小さまざまで、数も多くて…。関係が深いところは家の名前と顔くらいは知ってるけど、実際どういう仕事をしている人なのかとかはあまりわからない。お父さんや九条さんは頭に入れてたぽいけど』

「ハヤテさんが頭に入れてたってことはその資料が家にあるんじゃない?」

『あるにはあるよ。ほら、いずっくんも知ってると思うけど、うちの家大きな書庫があるじゃん。その中の一部が、関係各家の詳細らしい。今は泉さんが管理してる。でもその中から加賀美家の文献探すのしんどすぎるよ』

「「「加賀美家??」」」

『あ、うん。加賀美大五郎さんって人がこの家の当主で、この30歳の息子は加賀美…えーっと、朔太郎?多分そんな感じ。継承の儀の時に顔見ただけで。人たくさんいたしあんまり覚えてないんだよねぇ』

「その加賀美家は、東堂じゃなくて東堂の叔父さん派なのは何でだ?絶対お前の方がかっこいいと思う」

『轟くん目がこわい。うーん、古くからある家とかはやっぱり一族への崇拝心が強いのもあってこうあるべきだ!っていう九条さんみたいな考えの方が多いんだ。九条さんはお父さんに仕えていたし私の育て役だったから、ずっとそばにいて助けてくれてるけど…他の人からしたら私は体育祭でかっちゃんやいずっくんに泣きながら助けを求めた時点で守護一族失格だから』

「最初は純粋に一族に恩返しがしたいと思ってた連中も、時が経ってそう捻くれちまったのか。自分たちが信じた守護一族が理想のままであるために」

『うん、切島くんの言う通り。だから、理想を語るカナタ叔父さんに当主を交代したほうがいいんじゃないかと論争が起こってて、でも私がすでに継承したから、掟では私が死ねば叔父さんに家督は譲られる』

「ひっでェ話だよな。その叔父さんは強いのか?」

『…うーん、どうかな。手合わせしたことはないし、わからないけど…よくお父さんのことを戦闘狂って言ってたから、お父さんより強いってことはないと思う。一族に集まる崇拝心に胡座かいてる気がしてあんまり良いイメージはないなぁ。でも、理想はめっちゃ語る。じゃあやってみろよ、ってお父さんがキレてたのは覚えてる。私もなんとなくだけど、あの人に家督を譲ることはしてはいけないって感じてる』

「叔父さんって、前に梓ちゃん家に行った時にいた奴だろ?なんか話だけ聞くと、上っ面だけのやつに聞こえるよな。だってさ、あの規律や一族を何よりも重んじる九条さんが叔父さんに対してけっこー激しい口調で話してたよな」

「ああ、上鳴ちゃんは叔父さんに会ったことがあるのね」

「おう、あの時は混乱してたからあんまり気にしてなかったけど、九条さんが叔父さんに対して『この家の当主には相応しくない。器が見合わない。あなたが継ぐことが大いなる意思への裏切りになる』って啖呵切って家追い出されそうになってたぜ」

「そーそー。そのあと梓が割り込んで、叔父さんたちを追っ払ったんだよね」

『そうだっけ?あの時めっちゃ追い詰められてたからあんまり覚えてない…』


腕を組んで唸るがやはり思い出せないようで梓は考えるのをやめて轟の方を見た。


『さっきの話の続きだけど、叔父さんは外交が上手いんだよ。理想を語るし、見た目も私より強そうに見えるし、噂じゃ私がどれだけ弱く未熟かを語っていると聞くし、実際敵連合にも攫われちゃったしね。というか飛び込んだんだけど。古くからの関係であればあるほど、カナタ叔父さん派になっちゃうよ』

「そうか。……叔父さん派閥のやつらは可哀想だな。自分たちが排除しようとしている現当主が、こんなに強くて優しくて可愛くてかっこいい事に気付いてないんだな」

『うん、ん゛?ふつうに頷いちゃったけど轟くん私に対する評価高すぎる』


どストレートすぎて少し顔を赤くして轟から逃げるように緑谷の方へよれば、彼はなぜか目をぎらつかせて梓の肩をガッと掴むと自分の方へぐいっと向けた。


「梓ちゃん!いまの轟くんの言葉で思いついたんだけど!その加賀美家に、梓ちゃんの凄さを知って貰えば良いんじゃないかな!?そして梓ちゃん派にしてしまえば九条さんの目論見である叔父さん派を削るってことも出来るし!!」

「え、デクくんまって!それやったら、この人ますます梓ちゃんと結婚したくなるんやない!?」

「お見合いは破談させるんだ!まだ破談にさせるための考えは思いついてないけど!破談にさせてかつ、梓ちゃん派にしてしまうのが、梓ちゃんの為だし一石二鳥だと思う!だって、ただ破談にさせてしまったら、ますます叔父さん派に傾いてお家騒動は梓ちゃんの劣勢が続いてしまうし」


力説する緑谷に推され、梓は圧倒されるように目をぱちくりとさせた。


『私派にしつつ…破談にさせるって、どうやって…』

「それは、まだわかんないけど!でも、そうするためにはその家の事を知らなきゃならないと思う」

『…知るったって…』

「お前ん家、行っても良いか?」


戸惑っていた梓に追い打ちをかけるように轟が2人の会話に割り込んだ。それに緑谷もコクコク頷く。


「うん、書庫に入って加賀美家について調べてもいい?」

「お、俺も行きてェ!」

「ウチも!」

「皆さん、大勢で押し掛けてはご迷惑になりますわ!」


パッと手を挙げた切島と耳郎の他にも、行きたいと声が上がり梓が目を白黒させる中じゃんけんでメンバーが決まった。
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