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スタートの合図が鳴ったと同時、梓はパァンッと音が鳴る程のスピードで抜刀するとそのまま嵐を纏わせ横一文字に振り抜いた。


ーズガァァンッ!!


岩山下部に横並びしていたロボが一気に破壊され土煙が巻き起こり風が吹き荒れる、その中を一気に身軽さを武器にタンッタンッと飛び跳ねて舞うように上部のロボを次々と刀で一刀両断していく。

そして、残り2体。刀をくるんと持ち替え上から突き刺すと同時、左手で発生させた雷を残りの一体にぶつけドォン!と損傷させた所でストップウォッチが止まった。


《こ、これはすごい!クリアタイム16秒!!惜しくも先ほどの少年には及びませんでしたが2位!2位の記録です!》


司会の興奮した実況も相まって一際歓声が大きく上がった。
「すげぇ!」「あの子見かけによらず派手な個性だな!」「個性もそうだが、あの身体能力はなかなかだ!」と拍手喝采の中、当の本人は不機嫌そうにむすっとしたままとーん!と地面に降り立って、


『かっちゃんに勝ちたかった…』

「100年早ェわ、ばァか」

『むう』


勝ちたかったらしい。1位の爆豪はご満悦だが梓は悔しかったようで彼の胸元をグーでパンチしている。


「あの子すごいわね!」

「女子のエースなんです!」


麗日が誇らしげににこにこしていれば、カシャン!とフェンスの音を鳴らして梓がその上に立って『よっ』と手を挙げている。


『耳郎ちゃんたちに連絡しようと思ってたんだー。かっちゃんと切島くんとパビリオンをまわってるから合流しませんかーって』

「ふふ、大歓迎ですわ。ああ、そういえば、切島さんたちもエキスポへ招待を受けたんですの?」

「いや、招待されたのは雄英体育祭で優勝した爆豪。俺はその付き添い、東堂は、まぁ…言い方悪いけど九条サンから攫った。そっちは?これからみんなでアレ挑戦すんの?」

「やるだけ無駄だ!俺の方が上に決まってんだからな!」

「うん、そうだね、うん」

「でも、やってみなきゃわからないんじゃないかな」

「うん、そうだね…って」

「だったら早よ出てミジメな結果出してこいや!クソナードが!!」

「ひぃ!梓ちゃん助けて!」

『ほらほらかっちゃんそんな威嚇しないの!かっちゃんは髪型ぴっちりでジーンズ履いてたから知らないと思うけど、いずっくんのフルカウルは凄かったんだから。機動バツグンだから』

「アァ!?好きであんなカッコしてねーわ!!行く先間違えたっつってんだろ!!」

「梓ちゃん助けてとは言ったけど火に油注がないでぇぇ」

『えっお水を注いだつもり…』

「いきなり水注いだらパーンッ!てなるから!なってるから!ほら!かっちゃんの顔が般若!」

『わあかっちゃん可愛いお顔が台無しだよ』

「頬っぺた触んじゃねー!!」


緑谷に掴みかかる爆豪とその間に滑り込んで宥めるどころか逆に激昂させた梓にぽかんとしていたメリッサだったが3人がやいやい騒ぎ始めて三つ巴になったのを見て思わず吹き出したものだから、周りのクラスメイトたちは少し顔を赤くした。


「すみません、うちの幼馴染トリオが…」

「雄英の恥ずかしいところが…」

「ふふっ、恥ずかしいだなんてとんでもない!とっても面白いわ。そう、あの2人はデクくんの幼馴染なのね。ふふ、とっても仲良し」

「「どこが?」」


取っ組み合いをしている3人を見て何故そう思ったんだ。耳郎と麗日は頬を引きつらせてそう言った。





結局参加することになった緑谷は、フルカウルを発動し腕を痛めないように注意しつつも全てのロボを粉砕した。


《これもすごい!16秒!第2位です!》


『おお、一緒か』

「んー…おしい!」

「さすがだな、緑谷くん」

『まさか、かっちゃんと梓ちゃんの記録にここまで迫れるなんて』

「だー!クソありえねー!もっかい突き放したらあ!」

『えー!それがアリなら私ももっかい!かっちゃん抜かす!』

「無理に決まってんだろバァカ!!」


また始まった取っ組み合いに耳郎があきれた目を向けていれば、パキパキと聞き覚えのある音と冷気を感じた。
A組揃って後ろを向けば、先ほどの岩山が氷に覆われていて、《ひゃーすごいすごいすごーい!じゅ、14秒!現在トップに躍り出ました!》と興奮気味のアナウンスが響く。


『と、轟くんじゃん』

「ほんとだ、轟くんだ」


赤白ツートンカラーにここまで大氷壁は彼しかいないよな、と全員納得していれば横から1位を掻っ攫われたのが気に入らなかったらしい爆豪が爆発音とともに彼に詰め寄った。


「てめえこの半分野郎!」

「爆豪」

「いきなり出てきて俺すげーアピールかコラ!!」

「緑谷たちも来てんのか。あ、東堂だ。東堂がいる」

「無視すんな!なにアイツに目ぇ輝かせてんだふざけんな!だいたいなんでテメーがここにいんだよ?」

「招待受けた親父の代理で」

「あの次の方が待って…」

「うっせ!次は俺だ!」


暴走し始めた爆豪だったが、飯田の「みんな止めるんだ!雄英の恥部が世間に晒されてしまうぞ!」という指示で取り押さえられ、無事回収された。


「ふふっ、あ、ごめんなさい。雄英高校って楽しそうだなと思って」

「少なくとも、退屈はしてないですわね」

「たしかに」

『いっつも騒がしいもんねぇ』

「アンタが原因の場合もあるでしょうが」

『あ痛っ、耳郎ちゃんご勘弁を』

「っていうか、家は?大丈夫なの?さっき爆豪が誘拐したとか言ってたけど」


思い出したようにそう切り出した耳郎に、気になっていたらしい麗日と八百万、そして事態を把握していないメリッサの視線が梓に注がれた。
少し気まずそうにたすき掛けしている紐をいじりながらへらりと笑う。


『んん…ほんとは、当主として招待受けてるから高官や関係者への挨拶回りをしなきゃいけなかったんだけど、ね。空港に着いたらかっちゃんと切島くんが待ち伏せしてて、腕引っ張ってくれて、ダメだってわかってるんだけど…一緒に遊ぼうって言われて誘惑に負けちゃった』


逃げちゃった。きっと九条さんカンカンだよ。
と気まずそうに地面を見るものだから、耳郎は何も言えなくなってとりあえず項垂れている彼女の頭にぽんっと手を置く。

麗日と八百万も、クラスメイトの肩に乗る重荷が少し垣間見得て気の毒そうな顔をしていた。
その時、


「あなた、もしかして…あの、守護一族の、東堂一族の24代目当主?ハヤテ様の次代の?」


少し興奮混じりの声を出したのはメリッサだった。
何故彼女はそれを知っているのだろう、とびっくりして耳郎や麗日が振り返れば、メリッサの目はキラキラと輝いていて梓に詰め寄る。


「貴女が東堂家の、24代目なのね!ああ、そうだわ、この紋章。リンドウの家紋…ああ、鍔にもリンドウがあしらわれてる!そう、貴女が!」

「え、メリッサさん?梓ちゃん家知っとるん?」

「ええ!もちろん知っていますとも!かつて個性がなかった時代より、代々人を守ることを生業として生きてきた守護の一族!刀で、槍で、銃で、己の体で、その時代に合わせて意思を全うしてきた…超常社会になって、戦闘向きの個性に恵まれなかったにも関わらず、彼等の守護精神は生き続けた、無個性の星!私、文献で貴女たちの存在を知って、本当に感銘を受けたのよ!まさかこんなところにいただなんて!」

『ひぃ、この反応初めて。こわいこわい。期待しないで怖い。っていうかこの人誰』


まるで憧れのアイドルに会えたかのような反応に思わず1歩2歩3歩と後ずさるが、メリッサがグイグイくるものだから梓は逃げるように耳郎の後ろに回った。


「ちょ、梓?メリッサさんもおちついて!こいつそんな大層な存在じゃないから!りんごモンスターなだけだから!」

『え、りんごモンスター?耳郎ちゃん私のことそんな風に思ってたの!?』

「午前中には挨拶にくるはずなのに従者しかこなかったってパパが言ってたわ。お忙しいと聞くし、もう会えないと落胆してたけど、会えるだなんて!とっても嬉しい!」

『ひぃごめんなさい!遊んでましたごめんなさい!耳郎ちゃんこの人誰!!』

「この人はメリッサさん。緑谷の知り合いらしくてさ、一緒にまわってたから合流したんだよね。ここのアカデミーの生徒らしいよ」

「そうよ!そして私のパパはデヴィット・シールド。知ってるかしら?ノーベル個性賞を受賞した世界的にも有名な科学者なんだけれど」

『……ああ!なんか紙に書いてあった!ええっと、』


懐からくしゃくしゃの紙(覚えておかなければならない要人リスト:九条作成)を取り出して『うわ、挨拶行く予定の人だ!ごめんなさい!』と半泣きで謝り始めた梓に耳郎と八百万も顔を青くした。


「こいつがすみません!」

「悪気があって約束を破ったわけではありませんの!ただ!」

『ただ、遊びたくて!』

「バカそういうのは正直に言わなくていいんだってば!お腹痛くてとかにしときなって!」

『耳郎ちゃん声が大きい!もうその言い訳使えなくなっちゃったじゃん!』


がばっと頭を下げた3人にメリッサは少しだけ驚いたように目をぱちくりとさせるが、次の瞬間にはくすくすと笑っていた。


「ふふ…一緒に謝ってくれて、しかも庇ってくれるなんていいお友達ね。当主さま」

『え。その呼び方は嫌だ』

「あら、ごめんなさい。ふふ、一部文献では伝説のように語り継がれてる一族だから、どんな方が来るのかと楽しみにしてたけど、いい意味で期待を裏切られたわ。デクくんや、響香ちゃんたちと同じ年の普通の女の子なのね」

『……』

「少しだけ安心しちゃった。ねぇ、梓ちゃんと呼んでも?」

『え、はい。…えっと、九条さんや博士には、』

「安心して。連絡なんてしないわ!だって、貴女のことを大好きな友達たちが、貴女のためを思って連れ出してくれたんでしょう?一族ではなく、貴女自身を思って。その気持ちを無下になんて出来ないわよ」


からりと笑ったメリッサに、梓はやっと安心したように引きつった頬を元に戻した。

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