3人で最新のヒーローアイテムが展示されているパビリオンを周りつつ、九条に見つからないように周囲に気を配る。
それでも、展示品への興味やワクワクが優って、梓は目をキラキラさせながら爆豪の腕を引っ張った。


『かっちゃん、これみて!』

「あ?」

『ほら、このグローブ、個性のコントロールが効くようになるんだって!』

「あー」

『こっちは視界が広がるんだって!』

「おー」


るんるんと動きまわる梓の姿を見守るように目で追う爆豪が珍しすぎて切島は腹を抱えて笑うが、間髪入れずに殴られ黙った。

しばらく見てまわったところでベンチに座り、一息つく。


「喉乾いたな。俺、飲みもん買ってくるわ。東堂、爆豪、なにが良い?」

「炭酸」『いいの?じゃあ、りんごジュース』

「オッケ。ちょっと待っとけ」


にかりと笑って居なくなった切島に有難いなぁと頬を緩めていれば隣に座っていた爆豪も「便所行ってくる」といなくなってしまって、一瞬で梓は1人になった。

ここから動くなよ。と爆豪に念を押されたため動くつもりはないが突然手持ち無沙汰になりキョロキョロと辺りを見渡す。


(一気に暇になった…。九条さんそこらへんにいないよね…?九条さんに見つかる前に耳郎ちゃん達と合流したいところだけど。っていうかこの格好目立つからヒーローコスに着替えたいなぁ。暑いし)


耳郎ちゃんどこにいるんだろ、と携帯を見るが九条からの着信履歴がえげつないことになっており顔を青ざめさせて懐にしまう。見なかったことにしよう。
と、その時、ベンチの空いている両隣に2人の男が座った。

何故周りのベンチが空いているのに自分の隣に座るのだろう。しかも挟むように。
スリだろうか?と警戒するが、「お嬢ちゃん…かわいいねェ…」と鼻息荒めに太ももに手を置かれ梓は『うえっ?』と変な声を上げた。

誰?知り合い?と顔を見るがニヤニヤしているだけのおじさん達で、身なりを見るにどこかの高官だろう。
高官だろうが不快なものは不快といわなければ。梓はスリスリと太ももを触る手を払いのけようとするが、もう片側に座る男がそれを制した。


「おいおい、お嬢ちゃんが怯えてるじゃないか。いひひ、もっと穏便に」

『…手ぇ離してください。あ、ちょ、足さわんないで』

「キッと睨む目も可愛いねェ」

「あっちに休憩スペースがあるからそっちに行かないか?」


近くに顔を寄せられて気づいた。酒の匂いがする。
きっと酔っているのだろう。なんてたちの悪い酔い方だ、梓は思い切り顔をしかめるとぎゅっと握る手に力を込めた。
たとえ男であろうと、こんなだらしのない体型の奴らに力負けするわけにはいかないと、腕を捻ってやろうとする。が。その必要はなかった。


「テメェら……何、手ェ出してんだ」


怒りに満ち溢れたドスの効いた声が上から降り、ハッと顔を上げればこれでもかと目をギラつかせ殺気を増幅させた爆豪がいて思わず梓と男2人は揃って『ヒィ…!』と声を上げた。


「少し目ェ離すとコレか。俺は落ち落ち便所にも行けねーんかコラァ!!」

『か、かっちゃんごめっ』

「テメーじゃねーよ!テメーは俺の後ろに隠れてろクソが!!」


ぐいっと引っ張られ背に匿われ。
思わずぴたりと背中にくっついていれば、爆豪の手がジジジ、と爆発前のくすぶるような音を出し始めていて焦った。


「テメェらみてーな人間の底辺なんかこの俺が爆殺してやらァ!!」

『か、かかっちゃん!だめだ!爆殺はだめ!相手は、どこかの高官だよ!』

「だからなんだってんだよ!梓、てめー、足触られてたろうが!爆殺に値すんだろ!」

『しないよ!?何言ってんの!?』

「するわボケ!!」

『そりゃ確かに気持ち悪いとは思ったけど!でも!爆殺はちょっと!』

「つーかお前なんで足触られてんだゴラァ!!しっかり抵抗してやり返せや!!」

『やろうとしたところにかっちゃんが来たんだよぉ!!』

「お前ら何喧嘩してんの。すげー目立ってるぞ」


ジュースを抱えた切島に後ろから声をかけられハッとしてベンチを見ればすでに男2人は逃げていて。
お前のせいで逃した!かっちゃんが怖い顔するから!と取っ組み合いを始めた2人に切島は慌てた。


「待て待て待て待て!さっきまで仲良くしてたのにいきなりどーしたんだよ!?」

「切島止めんな!!」

『かっちゃんえり掴まないでよ!』

「何があったんだよ!?」

「こいつが変質者に足触られて嫌そうな顔してやがったくせに抵抗もせず挙げ句の果てには爆殺止めようとすっから!」

『だから抵抗しようとした時にかっちゃんが現れて爆殺とかいうから!相手が偉い人なのにそれはまずいって止めようとしたんだよ!』

「えええええ…ちょ、マジ?東堂大丈夫?」

『大丈夫。べつに触られただけだし袴の上だし』

「え、いや、触られるってなかなかやべーぞ?顔覚えてんなら探して警察に突き出すか?」


事情を知って顔を青ざめさせた切島に『ほんとに大丈夫だよ』とこくんと頷くが、どうやらあまり納得していないようで「お前の長年の苦労が少しわかったわ」となぜか爆豪に若干同情するものだから梓は首を傾げた。


「……これから、俺もしっかり見張るわ」

「………、おう」

『なに?なんの話?』

「「お前の話だよ」」


そろってため息をつく2人に梓はなんなんだと憤慨した。




その後、
ぶらぶらと3人で歩いていれば、隣のスペースで大きな土煙が上がり、同時に歓声が聞こえた。


「「『お?』」」


気になってオープン会場を見渡せる観客席に行けば、その盛り上がりの理由がわかった。
岩山にランダムに並ぶ敵を模したロボットを個性を使って倒していくアトラクション、“ヴィラン・アタック”である。


《クリアタイム、42秒!第8位です!》


「お!すげェ面白そうじゃん!やろうぜ!飛び入り参加も認めてるみてーだ!」

「ハッ、全員蹴散らしてやんよ」

『あははは!なんだこれ、めっちゃ楽しそう!』


クラスの中でも割と好戦的な3人が揃えばこうなる。切島が3人分のエントリーをしてくれて、切島、爆豪、梓の順番でチャレンジすることになった。


《さぁ、次なるチャレンジャーは…飛び入り参加のこの3人!まずは、1人目の君!前へ!》


司会にマイクで呼ばれ、湧き立つ歓声の中切島が前に出る。


『切島くん頑張れー!!結構、配置がバラついてて難しそうだぞー!』

「ハッ、余裕だろ」

「俺はお前らより機動力に劣るからなァ…。でも、まぁ、やるからには上位狙いてーよな!」


《それでは、ヴィランアタック!レディー…ゴー!!!》


スタートの合図が鳴り、勢いよく切島が飛び出し軽快に岩山を登る。最短距離で一気に敵ロボを壊していき、最後の1つが壊れた瞬間、飛び入り参加で健闘した彼に対する歓声が湧き上がった。


《クリアタイム33秒!第8位です!!》

『おお、凄い歓声…。プロヒーローも何人か抜いてる!切島くん凄っ』

「ハァ?アレくらい余裕だろ。ソッコー抜かしてやる」

「ははっ、もうちょっといけると思ったんだけどなァ」


ぱしん、と爆豪とタッチして交代をして自分の隣に立った切島は悔しそうで「やっぱ、機動力は課題だな」と肩を落とすものだから梓は目をパチクリとさせた。


『全機、素手で一撃って凄いと思うけど』

「…そ、そうか?」

『うん、正確だしパワーも凄い』

「やめろよ。なんか照れる」

『あはは、ちょっと顔赤い』

「うるせーぞ。それよりほら、爆豪のが始まるぜ。あいつの個性、このアトラクション向きだし、もしかしたら1位狙えるかもしれないぜ!」


《さぁ、次なるチャレンジャーは…》と司会に紹介され前に出た爆豪を切島が指差し、周りの注目も集まる中、開始の合図がなる。


《それではヴィランアタック!レディー…ゴーーー!!》


BOOOM!!と激しい爆発音とともに飛び出した爆豪は器用に両腕を攻撃や機動やと使い分けると一気に岩山を駆け上がり、最後に「死ねー!!」というヒーローに有るまじき叫びとともにロボを派手に屠った。


《これはすごい!!クリアタイム15秒、トップです!!》

「『まじか!!』」


相性が良いとは思っていたが、まさかトップとは。
スタッと降りてきた爆豪に梓と切島が嬉しそうに目を合わせ、いえーい!と飛び跳ねてハイタッチをしていれば、彼の目がふと観客席に向いた。


「あれ?あそこにいるの緑谷じゃね?」

『え、いずっくん?なんでいるの?』

「あっあはは…って梓ちゃんまでいる!?なんで!?」


突然現れた幼馴染に目を瞬かせると観客席のフェンスに駆け寄り『私は、家の事情で』と説明を始めるが、それを遮るようにガシャンッ!と激しい音がなった。


「なんでテメーがここにいるんだァ!?」


原因は爆豪が緑谷を威嚇するようにフェンスに飛びついたからだった。


「や、やめようよ。かっちゃん、人が見てるから」

「だからなんだっつーんだ!!」

「ひぃい」

「やめたまえ爆豪君!!」

「テメーに用はねーんだよ!こんな所でまで委員長ヅラすんじゃねえ!」

「委員長はどこでも委員長だ!」



『わあ、飯田くんまでいる』

「そっか、あいつもヒーロー一家だもんな。招待状もらってそうだな。お、東堂あそこ!耳郎達がいるぜ!」

『え!?ほんと!?どこ!?あ!じろーちゃーん!!』

「えっ、梓!?なんでここに!?家の事情で殆ど会えないかもって!」

『かっちゃんと切島くんが誘拐してくれたのー!!』

「「「誘拐ぃ!?」」」


ヒートアップする爆豪と緑谷と飯田の揉め事をよそに呑気に不穏な単語を叫びながらぶんぶん手を振る和装の少女に耳郎と麗日、八百万は思わず素っ頓狂な声を上げていた。

“誘拐”だなんて一体この2人は何をしたんだと見れば、爆豪は顔を引きつらせて梓を振り返っていて切島は「そうだけど!そうじゃないっていうか!いやそうなんだけど!」と謎の動揺である。
どうやら梓の言い方が不味いわけではなく、本当に誘拐に近いことをしたらしい。


「ひぃ〜…ヒーローが誘拐とかヤバイわぁ」

「爆豪さんだけなら兎も角、切島さんも共犯だなんて、」

「つーか、誘拐ってナニ。どういうこと」

「誘拐じゃねえ!!九条のクソ野郎からアイツを攫っただけだ!!」

「それを誘拐と言うんじゃ…」


彼女の家の事情を鑑みれば、爆豪がそういう手段を取ったとしてもあり得なくはない。とりあえず梓は楽しそうにしているし、また後で詳しいことは聞けば良いか、と耳郎は楽観視するとフェンスから身を乗り出した。


「梓!何してんのー?自由になったんなら、一緒にまわろうよ!」

『うん!ちょっとまって、これにエントリーしてるから!』


指差すのは先程爆豪が挑戦したヴィラン・アタックというタイムトライアルのアトラクションである。
どうやら次は梓の番らしい。


「あの子もクラスメイト?不思議な服ね、日本の侍みたい。あれがコスチュームなの?」

「はい、梓…東堂梓っていうんですけど、あの服装はちょっと訳ありで。ヒーローコスではないんです」

「そうなのね…。ふふ、あの子も挑戦するのね」


にこにこと耳郎達に手を振る梓に「よく笑う子ね」とメリッサがつられて笑っていれば、《さぁ、次のチャレンジャーは日本の伝統衣装を着た女の子!!》とマイク越しにアナウンスが入り、少女は慌ててセンターに向かった。

ヒーローコスチュームとはまた違って目立つ和装を着た華奢でゆるふわな雰囲気を持つ少女に観客席からの注目が集まる。
一見強そうには見えないが、友人である前2人が好成績を残したこともあり、興味が集まっていた。


《準備はいいかしら!?》


羽織を腰に巻き襷掛けをし、少し着崩していた袴の袂から檸檬色のリボンを取り出すとシュルルと慣れた様子で髪を縛ってポニーテールにし、
緩かった目がゆっくりと鋭くなっていく。


「わぁ、刀を使うのね」と目を輝かせたメリッサに耳郎が得意げに「はい、ああみえて…うちのクラスのトップ3の1人ですよ」と笑えば、驚いたように目を見開いた。


《それでは…ヴィラン・アタック!》


腰には使い込まれた打刀が2本。左手親指を鍔にかけ、ゆっくり腰を落とし、柄に右手を添え一呼吸置く。

その映像が大画面に流れ、妙な緊張感を作り、空気が変わった瞬間、司会の元気な声で《レディー…ゴー!!》とスタートの合図が鳴った。

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