場所を移し第二戦。
呆然としている爆豪を気にしつつも梓はIチームとして尾白と葉隠と共に配置についた。
「梓ちゃんの幼馴染やばいね。昔っからあんなに仲悪いの?」
『うーん…確かに良くはないんだけど、あそこまでかっちゃんが目くじら立てることもなかったんだよね…いつも上から目線で鼻で笑う感じだし』
「爆豪くん感じわるっ」
『あはは!そうそう、意地悪な時があるの。優しい時もあるんだけどね』
「優しいときあるの?あんまり想像つかないんだけど」
葉隠とお喋りをしていれば「もうすぐ始まるぞ」と尾白に声をかけられ梓はうん、と肯いた。
『負けられないね。相手は強そうだし』
「俺、東堂さんがこういう戦闘訓練の時にどういう立ち位置が得意なのかがわからないんだけど」
「確かに尾白くんのいう通り、梓ちゃん、体力テストでは個性使いづらそうだったもんね」
『あー…、単純な個性操作はちょっと下手なんだけど』
気まずそうに頬をかく梓の口角がゆっくり上がり、『でも、これは得意』と腰に挿した木刀にてがふれられ、尾白と葉隠は「「ほう」」と声を揃えた。
「かっこい!」
「近接格闘では頼りにしてもいいってことかな」
『うん、むしろそれしかできない』
「かっこい!梓ちゃんギャップありすぎるよ!掌からお花出しそうな顔をしてるのに!」
『どんな顔だよ』「葉隠の言ってることはわかるよ」
思わず尾白が吹き出す中、梓に触発された葉隠が「私もちょっと本気出すわ。手袋もブーツも脱ぐわ」と、そわそわと脱ぎ始める。
『わぁ、透ちゃんどこにいるかわかんない』
「えへへー透明人間だからね!それにしても、私達のチームだけ3人なんだね!人数の関係とか言ってたけど、ハンデとかないのかな?」
「あ、ハンデとして、1人しか確保テープを持てないらしいよ」
話聞いてなかったの?と苦笑いしている尾白に葉隠と一緒にごめん、と笑う。確保テープは尾白に持ってもらった。
《それでは、第2回戦いくぞ!》
オールマイトの号令で始まって、すぐだった。
ーパキィンッ!!
梓達3人が建物内に侵入した瞬間、ヒーロー側である轟焦凍が建物全体を一瞬で凍らせたことによって全員行動不能になった。
《動いてもいいけど、足の皮剥がれちゃ満足に戦えねえぞ》
思わずモニタールームでも瞬殺かよ、と気の毒な雰囲気になる。
「仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず尚且つ敵も弱体化!」
「最強じゃねェか!」
誰もが一瞬で勝負がついたと思った。
が、しかし、
「いや、まだ終わってないぞ!」
オールマイトの声で、モニタールームは「「は?」」と全員画面に目を凝らす。
尾白と葉隠は足を氷漬けにされている。そして、梓も同じように足を凍らされていたはず。
『うわぁ!?つめたっ!』と最初に悲鳴をあげていたばすなのに。
ーダダダッ
同じように足を凍らされていたはずの梓が階段を駆け上がっているのを画面で見つけ、モニタールームは騒然となった。
「え?あ、あれ!?東堂動けてんぞ!?」
「嘘!階段登ってる!さっき、確実に足を凍らされてたのに!」
「一気に核のあるホールまで行ったぞ!障子は建物外だし、轟と一騎打ちかよ!梓ちゃんそれはやべえって!」
「一度チームメイトを氷から解放してからの方が良いのでは…」
が、梓は止まらず腰に挿していた木刀を抜くと一瞬で雷を纏わせ、
《ヴィランのお出ましだよ!たーのもー!!》
核と、行動不能の尾白と、轟がいるホールに繋がる凍った扉を派手に叩っ斬った。
ーズガァンッ!
真っ二つに崩れる扉。
驚いて固まるのは尾白と轟だけではない。モニタールームにいるオールマイト達も唖然としていた。
ー
『ヴィランのお出ましだよ!たーのもー!!』という頼もしい声とともに碧い雷光が煌めき、氷漬けになっていた扉がけたたましい音ともに粉砕した。
「、東堂さん!なんで」
『尾白君お待たせ!ここから先は私が相手だよ、とろろき君!』
「轟だ。お前、凍らせたはずなのになんで」
いつも表情を変えない轟ですら、大きく目を見開いている。
無理もない、同じチームの尾白ですら状況を飲み込めていないのだから。
だが、2人の思考をぶった斬るように木刀をバチバチいわせながら梓が『種明かしは後でよくない??』と構えたことで、轟は眼光を鋭くし、考えるのをやめた。
確かにそうだ。
今は授業中、目の前の敵役のクラスメートを倒し、核を奪還するしかない。
「悪いが、一瞬で終わらせるぞ」
轟がダンッと足を踏み込めば、凄まじいスピードで氷が梓を襲う。
ーガガガッ!
『っおっと』
梓は俊敏なステップでそれを難なく避けると回り込み一瞬で轟との距離を詰め、木刀を振り下ろした。
ーガァン!
一瞬氷で受け止められるが雷を纏った木刀は氷を粉砕しながら轟への距離を詰めていく。
ーズガガガンッ!
氷の量はどんどん増えるが、梓の刀身スピードも比例して上がっていった。
もはや木刀とは思えない鋭さの剣撃が幾重にも重なる。
攻撃規模は轟の方が上なのに、身体的な戦闘力は梓が圧倒する。
加えて、砕いた氷の破片が風に巻き上げられ空に舞う。それは不安定にゆらりと揺れると、
『やッ!!』
飛び上がった梓はその風の中に飛び込み刀を振り下ろし、
刹那、轟を襲うのは氷混じりの衝撃波。
ーザァンッ!!
「ッ!くそ!」
轟は咄嗟に大きめの氷壁を出し防御することで間合いを発生させた。
「はぁ…はぁ…」
轟は息が切れているのに梓は息が乱れず、
木刀をぎゅっと握り直すと背筋を伸ばし、轟を見据える。
個性では圧倒的に轟に分があるはず。
ただ、純粋に梓は戦闘スキルで彼を上回った。
「お前、なんなんだ」
個性把握テストではあまり目立っていなかった。
嵐の個性といいつつ、ソフトボール投げでしか個性を見せていなかった。
轟は、勝手に、個性をうまく扱えない格下だと思っていた。
(格下…違う、ただの格下じゃねえ、)
確かに個性をうまく扱えないのだろう。
だが、格下ではない。そこを補う圧倒的戦闘センス。
爆豪にも類稀なる戦闘センスがあるとは思ったが、彼女はまた色が違う。
きっと彼女は無個性でも強い。
轟は目の前にいる東堂梓を格下に見るのをやめた。
(こいつは、普通じゃねえ)
恐らく自分と同じ、普通な人生を歩んでいない。
轟は初めてクラスメートに一目を置いた。
(こいつは強い。考えを改めるが、それでも、)
同じ年のヒーローを目指す人間に負けるわけにはいかない。
轟は目つきを鋭く前を見据え、大きく透き通った目でこちらを見る梓と目があった。
(なんだ?)
口角が上がっている。
この状況で笑っているのか?
『使ってよ、ひだり』
「は…?」
『炎だせるんでしょ?』
挑発か。轟は顔をしかめた。
「東堂、だったか?お前、個性把握テストん時とはえらい違いだな。隠してたのかよ」
『除籍かかってるのに隠すわけないよ。個性を体力テストに活かすことができなかっただけ!』
「…」
『でも、戦闘(コレ)は、出来る。相手が誰だろうと負けられないんだわ』
木刀に雷を纏わせる。
「負けられんねえのは、俺も同じだ」
轟の右半身に一層の冷気が起こり、梓は警戒しつつ激しくバチバチ鳴る木刀に風を纏わせる。
大振りで、嵐を起そうとした、その時だった。
《ヒーローチーム、W I IーーN!!》
『へっ!?』
まだ負けてないのに、ここからなのに。
あ、そういえば核!思い出したように振り返れば、障子が核を回収していた。
そうだった、葉隠も尾白も行動不能で、障子が屋外にいるのを忘れていた。
『あーーーしまったー!!』
「ごめん東堂さん!何度か声かけたんだけど、」
バツの悪そうにしている尾白に梓も同じような顔をする。
『ううん、轟君に夢中だったから聞こえてなかった!ごめんね!戦闘音もうるさかったし、もうちょっとやりようはあったのに』
木刀に纏わせていた雷と風をブンッと振って消すと、くるんと持ち直して腰に納め、
『はぁ、負けたぁ』
悔しそうにへにょりと眉を寄せ、
戦闘時が嘘のようにゆるゆるの瞳で尾白に謝る梓は何か言いたげな轟を残して足早にモニタールームに戻った。
モニタールームに戻った後はクラスメートたちの歓声を浴びるのだった。
(梓アンタめっちゃすごいじゃん!)
(どこまで個性でどこまで自力だったんですの!?)
(剣道とかしてたのか?)
(梓ちゃん雷の操作自由自在かよ!まじか!)
ー
放課後、
教室に戻った一行は、保健室に行った緑谷の帰りを待つことになった。
のだが、
教室の後ろの方、棚の前で不穏な空気が流れていた。
「てめェ、知ってたんか。デクに個性があったこと」
『え?入試の日に発現したって聞いたけど』
「はァ!?なんでテメーは知ってんだ!」
ピリピリとした声を出す爆豪に周りは冷や冷やするが、梓は慣れっこのようでうるさそうに耳を押さえている。
『たまたま入試の日に会って、教えてもらったんだよ。かっちゃん何をそんなにカリカリしてんの』
ーダンッ
梓の胸ぐらを掴んで壁に押し付けた爆豪にクラスがざわついた。
「お、おい爆豪!やめろって!」
「なに、女に手ェあげてんだ」
咄嗟に切島と、近くにいた轟が止めに入るが爆豪の耳には入らない。
「デクは、ついこのあいだまで道端に落ちてた石っころだった…!お前だって!ずっと俺に守られときゃよかったんだ…!!」
それに驚いていた梓の目が吊り上がった。
『なにそれ。いずっくんは昔からずっと強かったよ!かっちゃんだってそれに気づいてたけど、個性がなんちゃら言って知らないふりして格下に見てただけじゃんか!それに、私には私のやらなきゃいけないことがあるんだから、今更色々言わないでよ!』
「んだと!?てめェ、少し強くなったからって調子にのんじゃねーぞ!!無個性のくせに!」
『個性あるよぉ!あと胸ぐら掴むなぁ!』
いつのまにか言い争いから取っ組み合いの喧嘩に変わってしまい、切島も轟も狼狽えた。
爆豪に掴みかかって頬を引っ張る梓に、胸ぐらから手を離さない爆豪。
『元気がない理由がわかった!格下だと思ってたいずっくんに負けたからだな!かっちゃんプライド高すぎだから面倒なんだよ〜!』
「うるっせェ!秒で傷えぐんのやめろっつってんだろーが!てめーもキチガイじみた鍛錬やめろ!個性の調節の方覚えろ無個性が!」
『うっ、わかってるよ!でも難しいんだもんかっちゃんのバカ!』
「テメーの方がバカ!」
しばらく言い争いをしたあと、
互いにもう知らない!と顔を背けるものだから、思わず切島は肩を震わせてこっそり笑ってしまった。
(爆豪がガキみてーに突っかかってる!)
プライドと自尊心の塊のような彼が、感情をさらけ出してぶつかるものだから珍しくてほかのクラスメート達も最初は驚いていたものの、少しずつ生暖かい笑みを浮かべ始めている。
『ふん!かっちゃんもっと牛乳飲んだほうがいいよ!』
「カルシウム取れってか!」
『そうだよ!イライラマンめ!私もう帰る!』
「はぁ!?俺の方が先に帰るに決まってんだろクソ梓!」
「あっ、梓、緑谷待たなくていいの?」
『そうだった!やっぱ私帰らない!』
テメーいつもデクばっか贔屓してんじゃねぇぞ!
と謎の不満を言いながら爆豪は帰っていった。
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