お昼休み。
『いずっくん学級委員長なんてすごいねぇ!』
「本当にまさかで僕自身がびびってるよ。梓ちゃんは0票だけど、誰かに入れたの??」
『うん、飯田くん!なんかメガネだし!』
ニコニコと偏見で物をいう梓に緑谷は苦笑した。
確かに彼が委員長になるのは自分がなるよりもいいかもなぁと漠然と思っていれば、
「東堂さん、デクくん!食堂行かん?ここの学食、クックヒーローランチラッシュが作ってくれるからすんごい美味しいんだって!」
飯田くんも誘ってるんだけど、と
緑谷が仲良くなった麗日お茶子から声をかけられ梓はパァっと顔を輝かせた。
『いいの?いくいく!』
即了承すれば緑谷も麗日もにこっと笑ってくれる。
梓は嬉しくなって張り切って財布を持った。
のだが、教室から出る寸前、轟が目の前に立った。
なんだろう?と首を傾げている梓の隣で緑谷が遠慮がちに梓を庇うように「と、轟君、何か用かな?」と聞くが、
「いや、緑谷じゃねえ。東堂、少し話がしてえ」
『なに、とろろきくん』
「梓ちゃん轟くん!とろろじゃない!」
わかってる、噛んだの!と少し顔を赤くする梓の腕を轟が掴んだ。
いいか?と聞かれれば、拒否する理由もない。
『…んー、いずっくん、麗日ちゃん、また今度でいい?』
「う、ええけど、大丈夫?」
『え?べつに決闘するわけじゃないよ!いずっくんも何微妙な顔で黙ってるのさ』
「なんか、行かせたくない。でも、梓ちゃんが決めたことなら仕方ないね」
少し名残惜しそうな緑谷にごめんね!と笑って梓は轟についていった。
ー
とりあえずご飯を食べようという話になり、学食でそれぞれランチを頼むと空いている席を見つけて向かい合わせで座った。
「悪いな、あいつらと一緒に食べる予定だったんだろ」
『べつにいいよ。轟くん、そばか!いいね』
「東堂のは、親子丼か」
『うん、めっちゃ美味しそう。あ、話って何?食べながらでもいい?』
「あぁ」
頷いた轟の表情は、相変わらず何を考えているかわからなかった。
「昨日の戦闘訓練でやり合ったとき、東堂の戦い方に驚いた。お前の個性は使い様によっては強力な武器になるのに、何であそこまで刀と武術に長けてるんだ?俺だけじゃなく、ほかの奴らもだが、皆個性強化に重点を置き、個人の身体能力をあげるやつは少ない。それだけの個性を持っていながらなんで、」
『んーと、つまり轟くんが聞きたいのは、個性のみで戦えるのに何でそこまでの剣術を身につけてるかってこと?』
「まぁ、端的にいうとそうだな。個性に慢心すんのは駄目ってのはわかってるが、お前は個性を使いこなせていない中であの武術だろ。異色だぞ」
昨日の彼女の戦い方は轟にとって衝撃だった。
言い方は悪いが、とても旧時代的な戦い方に思えたのだ。
あれだけの個性があるのに、何故自らの体で戦ったのか。そもそも、何故あそこまでの戦闘技術があるのか。
純粋な疑問だった。
『んー、私、最近まで無個性だったんだ』
親子丼を一口パクリと食べながら言ったその言葉に轟は蕎麦をもぐもぐしながら目を見開いた。
『物心ついた頃から、無個性でも戦えるようにならなくちゃいけないって。手の届く範囲を守りたいと思うなら、死ぬ気で腕を磨けって言われてたんだ』
「なんでだ」
『えー?うちの家訓?みたいな?強くならなきゃ意味ないの。守れないでしょ?』
「守るって何をだ」
『人とか物とか全部だよ』
ヒーローという職を知ってからはヒーローになりたいと思うようになったなぁ、かっちゃんは大反対でめっちゃ怒られてたけど。
笑えば轟はキョトンとしていた。
「よくわかんねえ家訓だな。親が厳しいのか?」
『厳しい、のかな?たしかに、一般的な親のようなことはしてもらったことはないかも。あまり顔を合わせることもないし』
「両親共、同じ考えなのか?」
『うん、そうだったよ。お母さんは10年前に病気で死んじゃったけど』
「…わりい」
『あはは!べつにいいよー!』
轟は気まずそうに蕎麦をすする。
が、しばらくの沈黙の後、やはり気になるのか、
「東堂の剣術や身のこなしは、親父さんに稽古をつけてもらったのか?」
「あー、うん、お父さんは忙しいから時々だよ。殆どお父さんの部下の人たちと、永遠に刀を交えるだけ!ウチは代々剣術流派を組んでいなくて、実戦剣法による叩き上げなんだ。だから、誰かに教えもらうというよりは出来るだけ実戦に近い戦いの中で自分の型を見つけて磨くって感じかなぁ』
「…だからあそこまで戦い慣れしてんだな。無個性の間ずっとヒーローになるためにそういう訓練をしてたからあのスタイルなのか」
『うん、色々あって最近発現したんだけど、まだ上手く使いきれてなくてさ、放出の微調整とか轟くんを見習わなきゃだ』
肩をすくめる梓に轟は頭を振った。
格下だと、自分はほかのクラスメートとレベルがちがうんだと思っていた。
自分は強力な個性持ちで、親も有名で、複雑な家庭事情だ。
今まで自分と同じような境遇な同級生に出会ったことがなかったからこそ、似て非なるが同じ非凡さを持つ彼女に親近感を持った。
「俺、お前のことをもっと知りてえ」
正直に伝えれば、梓はキョトンとした後に笑った。
『なら、轟くんのことも教えてよ。なんで左使わないの?そのやけどどうしたの?轟くんの親はどんな人なの?』
「お。質問ぜめだな」
さっきまで轟くんが私にしてたことだよ〜
と笑う彼女に、それもそうかと答えようとした時だった。
ーヴゥーーーーー!!
けたたましいサイレンが鳴った。
『えっ?なに!?』
警報と共に聞こえるのは侵入者情報とセキュリティレベルの上昇。
慌てて立ち上がった所を人ごみに押し流された。
『うわっ!?』
「東堂ッ!」
轟が手を伸ばすが届かず、
脱出しようと横に逃げるがそこにも人が密集していて、小柄な梓はあっという間に頭まで人ごみに埋もれた。
(く、くるしい!なんだこれ!何が起こって、)
「あっ!東堂!?」
頭まで人ごみに埋まってるので首が回らないが、聞き覚えのある声だった。
腰を掴まれ、乱暴にぐいっと引き寄せられたことで誰かの胸に後頭部がぶつかった。
『ぐぇっ』
「大丈夫か!?」
『だ、だれ?あ、切島くん!』
ごめんな、硬かったか!?
と慌てて頭を摩ってくれるが、一層人ごみが押し寄せてきて益々密集度が上がる。
「梓ちゃんすっぽり頭まで埋まってたな!息できなかったろ!っとと、狭ぇ!」
『上鳴くんも!』
このままでは一番小柄な梓が潰されてしまうと焦った切島は彼女を上鳴と挟むように間に入れた。
「踏ん張れよ上鳴…!」
「できっかな…」
この人ごみに負けずに立っていられるだろうか。
顔をひきつらせるが、自分と切島の間で苦しそうにしている梓を見て上鳴は気合を入れた。
が、誰かにぐいっと力任せに押し退けられ「ん!?」と上鳴は変な声を出した。
その誰かは間にいた梓を引き寄せるとぐいっと抱き込む。
「何埋もれてやがんだてめェは…!」
「「爆豪!?」」
『かっちゃん!?』
切島と上鳴は驚愕した。
人混みを察知してさっさと逃げた爆豪が戻ってきたことにも驚いたし、梓を抱き込んでいることにも驚いた。
恐らく彼はこの子を助ける為だけに戻ってきたのだろう。
「クソチビが!」
『なんでそんなに怒ってるの!あ、かっちゃんこの騒ぎなに?』
「知るか!動くな!いてーだろ!」
『痛あ!』
人混みの中で相変わらずじゃれ合っている。
それにしても、爆豪にとってこの子ってただの幼馴染じゃねーんじゃね?
うすうす感づきはじめた切島と上鳴だった。
(ぷはぁ!やっと解放された!かっちゃんありがと!切島くんと上鳴くんもありがと!2人がいなければ私は多分この世にはいなかったと思う)
(ぷはっ、大げさだなー!大げさといえば、梓ちゃんに対する爆豪の慌て様もおおげ、痛ぁ!)
(上鳴、おまえ学習しないよな)
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