今日は初めての戦闘訓練だ。
入学してからというもの、父は顔を合わせる為に戦闘で負けるなとプレッシャーをかけてくるものだから、今日の朝食はあんまり喉を通らなかった。
「梓、なんか表情固くない?」
『ん、ちと緊張してる』
「ああ、戦闘訓練初めてだもんね。痛いのヤだし、ちょっと緊張するよね」
共感してくれる耳郎には申し訳ないが、(痛いのはいいんだけど、ちゃんと戦闘で勝てるかとか、うまく立ち回れるかが心配なんだよな)と
梓は少し息苦しい気持ちで支給されたコスチュームを着る。
「ふぅん、梓のコスってシンプルで無駄がなくってイイね」
『耳郎ちゃんこそ』
梓のコスチュームに対する要望は2つだけだった。
肩甲骨の間らへんに東堂の家紋である林道の花ををあしらい(父からの命令)、腰には刀をさす為のベルトがある。
ちなみに、ベルトを斜めに使えば大きな刀を背負う仕様にする事もできる。
あとは、雷に強く水を弾く生地で動きやすければなんでも良かった。
のに、
『いずっくん、みてこれ』
「梓ちゃん!?!?」
ハイネックのノースリーブとショートパンツ。手も足もがっつり露出したそのコスチュームに、今まで道着や袴で鍛錬してきた梓は少し戸惑いを隠しきれないまま幼馴染の緑谷に声をかければ、顔を真っ赤にして動かなくなった。
「ヒーロー科最高」
「ハッ、梓ちゃんちゃんと要望書書いた!?」
峰田から隠すように慌てて梓に詰め寄れば、バツの悪そうな顔で『家紋とベルトと生地だけ』と肩をすくめていて、
「ダメだよ、ちゃんと書かなきゃ!九条さんたちには相談しなかったの!?」
『九条さんと水島さんと一緒に考えたんだけど、そもそも全員個性なんてないからよくわっかんなくて…』
「もう!なんでこういう時にあの人たち役に立たないんだ…世話係なのに…!今度、僕と一緒に変更書書こ?」
『んー、とりあえずこれでやってみて、勝手悪かったらお願いしよっかな』
「勝手悪いよ!僕が!」
『えっ、なんでいずっくんが、あいた!!』
緑谷と話していただけなのに、後から来た爆豪にスパンと頭を叩かれ梓は眉を寄せた。
なんで叩くの!何ででもねェよ!
なんででもなくない!うるせェ!変更しろ!
いつものことたが、小学生レベルの言い合いをし始めた2人に、かっちゃんも心配なんだろうなぁと緑谷は心の中で同調する。
『なんかかっちゃん最近機嫌悪くない??』
今日に限らず高校生になってから八つ当たり多いんだけど、と
不機嫌そうにぶつぶつ呟いた梓に、多分その原因僕です、とは言えない緑谷だった。
ー
初めての対人戦闘訓練は、ヒーローと敵に分かれて2対2で戦うチーム戦だった。
始まった1回戦は、自分の幼馴染対決で、梓は興味津々で画面を見つめていた。
「制限時間は15分、核の場所はヒーローには知らされず奪還。もしくは確保テープかー。梓、2人とも幼馴染なんでしょ?どう思う?」
『えーー、どうだろ。かっちゃんが強いのはみんな知ってることなんだけど、いずっくんも強いと思うんだよね。非凡っていうか』
「ふぅん、互角ってこと?」
『単純な戦闘力はかっちゃんだけど、戦いって技術だけじゃなくて戦略が大きく左右するでしょ?その点で、いずっくんが一矢報いるんじゃないかって思ってる』
「へぇ、緑谷って結構考えるタイプなんだ」
『うん、いずっくんのブツブツは凄いよ。まさに深謀遠慮。ほんと、敵には回したくないタイプだな』
定点カメラで動き回る2人を見ながらそう言えば、耳郎は、そう?緑谷って気が弱そうだし強そうには見えないんだよねーと首を傾げた。
クラスメート達は耳で2人の会話を聞きつつ、視線はカメラに釘付けである。
何を言っているかは聞こえないが、どんどん2人の表情と攻撃が白熱していく。
そして、爆豪が右手の籠手についているフックに指を掛け、引っ張った瞬間、大きな爆発が緑谷を襲った。
梓達のいる建物も大きく揺れる。
「授業だぞコレ!」
「緑谷少年!!」
「梓ちゃんの幼馴染やばくない!?いつもあんなんなの!?」
『んー、かっちゃんいつもより余裕ない。何焦ってんだろ??』
「「焦ってんのか!?あれで!?」」
「先生止めた方がいいって!爆豪あいつ相当クレイジーだぜ。殺しちまうぜ!?」
『えっ、とめたらだめ!』
切島がオールマイトに進言したのを見て梓は慌てて2人の前に飛び出した。
「止めなきゃやべぇって!幼馴染のお前の目から見ても、爆豪はいつもと違うんだろ!?」
『ちがうよ!でも、かっちゃんはなんていうか、みみっちくてずるがしこいから、そういう計算?はちゃんとするよ!意外とクレバーなんだ!』
「みみっちくてずる賢いって、結構言うね東堂少女」
確かに切島の言うことにも一理あるが、オールマイトは梓の言葉に背中を押されるように、爆豪にクギを刺しつつも授業を続行した。
オールマイトからの注意を受け、2人の戦いは接近した肉弾戦になり始める。
「目くらましを兼ねた爆破で軌道変更。そして即座にもう一回…考えるタイプには見えねえが、確かにアンタの言う通り意外と繊細だな」
『でしょ?』
「感性を殺しつつ有効打を加えるには左右の爆発力を微調整しなきゃなりませんしね」
「才能マンだ才能マン。やだやだ」
「でもこれ、リンチだよ!テープを巻きつければ捕らえたことになるのに!」
「ヒーローの所業に非ず」
「緑谷もすげえって思ったけどよ、戦闘能力に於いては爆豪は間違いなく、センスの塊だぜ」
目の前の戦いがどんどん白熱していく。
梓は何故そこまで爆豪が緑谷を嫌うのか、わからなかった。
『…こんなに仲悪かったっけ』
確かに2人でいるところは幼少期以来見たことないけれど。
何故そこまで爆豪が緑谷を徹底的に潰そうとするのかがわからなかった。
どんどん目に見えて爆豪の表情に余裕がなくなっていく。まるで、目の前の現実から目を背けたいみたいに。
そして、
「ヒーローチーム…、ウィーーン!!」
幼馴染対決は、ついこの前まで気弱な無個性だった緑谷に軍配が上がった。
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