学校内は文化祭の準備で活気に満ち溢れていた。
「今日は休日だけど寮制になったこともあってたくさんの人が準備を進めてる」
『わぁ、色んな人が色んなことするんですねぇ』
学校内を歩くならば、と制服に着替えた梓はエリを背負い緑谷と一緒に通形の後ろを歩く。
ビッグ3の1人と1年の中でも目立つ梓と緑谷、そして可愛らしい女の子が一緒に歩いていれば目を惹くというもの。
案の定目立ち、通形の友人達に声をかけられた。
「通形じゃん」
「子ども!?しかも後ろの子…1年の嵐の!休学っておまえ…!まさかそういう…」
((にこっ))
「いや何か言えよガチっぽいな!嵐の子もノリ良いし!」
「冗談はおいといて、今年のI組はすげェからおめーもぜったいこいよ!ほら、君たちも」
『わぁ!』
「すごい立派なフライヤー!」
通形の友人である経営科の3年生に貰ったフライヤーを読みながら、またふらふらと生徒達が準備している間を抜ける。
「まだ一か月前なのに慌ただしいですね!」
「みんな去年よりも凄いものを…プルスウルトラの精神で臨んでるんだよね」
『凄いなぁ、ねぇいずっくん、あれ見て』
梓が指した方向を見れば、ぐわっとドラゴンが現れ緑谷はおっかなびっくり叫び声を上げた。
「うわぁ!!?」
『あははっ、いずっくん驚きすぎ』
「すンません…ってA組の緑谷と東堂じゃねェか!」
「アレアレアレー!?こんなところで油売ってるなんて余裕ですかァア!?」
ドラゴンを作っていたのは同じく1年のB組の面々だった。申し訳なさそうに悪い!という鉄哲の隣で物間が嬉々として絡んできて梓は思わず吹き出す。
『物間くん通常運転!』
「君も相変わらずド派手に世間賑わしちゃってるみたいだね!」
「エリちゃん平気!?」
「ふってきた人かと思った」
『ふってきた人?ああ、リューキュウさんか、確かに似てる』
「東堂、この前ニュース見たぜ!緑谷も!悔しいけど大活躍だったみてェだな」
「相変わらずトラブルメーカーやってるみたいだね!その子は妹かい?随分余裕だねェ!」
『いいや、まだまだだ。この子はインターンの時に知り合ったエリちゃんて子。エリちゃん、この人たちは私の友人だよ。この異様に絡んでくる兄ちゃんもね、根は悪い人じゃない』
「異様に絡んでくるってなんだ!」
心外だね!とこれまた絡んでくる物間にエリは眉を下げ「梓ちゃん…怒られてるの?」と心配そうにくっつくが、『いつもこんな感じなの!怒られてないよ』と物間無視でエリと話をするものだから緑谷は吹き出し、物間は無理やり梓の視界に入ろうとエリ側に行く。
「オヤオヤ無視かい!?いいのかい!?」
「あっ、東堂ちゃん来てる」
『おおーつぶらばくん!』
「やっと名前覚えたか!おーい、泡瀬!東堂ちゃん来てんぜ!」
「円場どいてくれないか!?彼女はあの気にくわないA組のトップ3だ、僕が釘を刺さなければ!東堂さん、聞いたよ。ライヴ的なことするんだってね!?」
声をかけに来た円場を押しのけてズイッと前に出る物間に梓と緑谷は双子のように同じ格好で後ろに下がる。
少しひいた2人に物間は挑戦的に口角を上げると指を指し、
「いいのかなァ!?今回ハッキリ言って君たちより僕らB組の方がすごいんだが!?」
『へぇ、何するの?』
「ロミオとジュリエットとアズカバンの囚人〜王の帰還〜、B組の完全オリジナル脚本、超スペクタクルファンタジー演劇!準備しといた方がいいよ!B組に喰われて涙する、その時のためのハンカチをね!」
「いつもに増してめっちゃ言ってくる…!」
アハハハ!!と笑う物間の後ろから泡瀬が角材でバコン!と殴り、申し訳なさそうに手を挙げた。
「東堂、久しぶりだなァ!元気か?ごめんな、緑谷も。拳藤がいねーからハドメがきかねー」
『泡瀬くんも元気?物間くん気絶したけど大丈夫?』
「拳藤さん…物間くんとセットのイメージあったけど…」
「おう、元気だよ。いつもの事だから気にすんな。拳藤は今回は別だ。あいつは、ミスコン出るのよ。無理やりエントリーさせられて。東堂や八百万が出るんじゃねえかってB組で話してたんだが、どうなんだ?」
『ミスコン?そんなのあるんだ?出ないよ、負けるの目に見えてる』
「先生、ミスコンの話なんて一言も言ってなかった」
お前が出たら強敵だって拳藤言ってたぜ、と笑う泡瀬に円場も確かに!と頷くものだから何を言っているんだと梓は首を振る。
『百ちゃんだったら良いとこまで言ったんじゃないかな。それにしても、B組の出し物面白そうだね。時間が重ならなかったら観に行くよ』
「おう、物間じゃねーけどお互い気張ってこーぜ!じゃ!」
またねー、と
泡瀬を始めとする見送ってくれるB組の面々に手を振り、通形に続いてその場を後にする。
「いきなり雄英の負の面を見せてごめんよ、エリちゃん」
「?」
「ミスコンといえばそうだ!あの人も今年は気合入ってるよ」
「あの人?」
「去年の準グランプリ、波動ねじれさんだよね!」
『波動先輩!エリちゃん、波動先輩も救けに行ったメンバーの1人だ!とっても綺麗な人だよ』
通形の案内で、ミスコン用の撮影をしているという校舎内の備品室へ向かう。
部屋には波動とその友人、そして撮影係の天喰環がいた。
『わぁ、波動先輩きれいだね』
「ねェねェ何でエリちゃんいるの?フシギ!何で何で?楽しいねー。ああ、梓ちゃんもいる。ねェ、ミスコンでないの?出るよね?」
『出ません!』
「へっ、てっきり出るかと思ったよ。華やかな君なら良いところまでいく」
『環先輩、私に波動先輩のような華やかさはありません。目がチカチカするほどの雷なら出せますけど』
あははー!と笑い飛ばす梓に天喰はそういうところだよ、と久しぶりに見た太陽にまぶしそうに目を瞬かせる。
「それにしても、個性も派手だし…その、お顔も…プププロポプロ…」
『プロポーション?』
「そ、そんな先輩でも準なんですね」
『いずっくん直視できてないじゃん』
「そー聞いて!聞いてる!?毎年ねェ、勝てないんだよー。すごい子がいるの!ミスコンの覇者、三年G組サポート科絢爛崎美々美さん」
「『す…凄い』」
「今年はCM出演で隠れファンが急増しつつある拳藤さんも出る。波動さんも気合が入ってる。梓ちゃんが出ないのは不幸中の幸いだ。大勢の前でパフォーマンスなんて…考えただけで…いたた…お腹痛くなってきた…」
『環先輩が出るわけじゃないのに』
「最初は有弓に言われるまま出てみただけなんだけど…何だかんだ楽しいし悔しいよ。だから今年は絶対優勝するの!最後だもん」
波動の決意に通形と天喰が出来るさ、と頷く。
エリは梓に背負われたままじっと波動を見上げていた。
「……」
『エリちゃん…どうしたの』
「…ん、なんでもない」
『……波動先輩、綺麗だね。きっと優勝できるね!』
こくん、と頷く。
「じゃ、次はサポート科に行こうか」と先導する通形の後を追って、波動と天喰に手を振り梓達は部屋を出た。
その後、サポート科に行った後、ある程度校舎内を回り、梓達は休憩のために食堂に来た。
りんごジュースをエリに渡しながら前の席に座れば、エリの隣に緑谷と通形が座る。
「まーこんなもんかなァ。慣れ…っていうか、どうだった!?」
「……よく、わからない…。けど、たくさん…いろんな人ががんばってるから、どんなふうになるのかなって…」
エリの答えは前向きだった。
この感情が何かはよくわからないが、頑張っている先にあるものがどんなものなのか見たい、と。
悲しみではないその感情に3人が嬉しそうに目を合わせていれば、テーブルの端から「それを人はワクワクさんと呼ぶのさ!」と聞き慣れた声がした。
「有意義だったようだね」
「根津校長、ミッドナイト先生!」
ものすごい勢いでチーズ食べる根津に思わず梓は吹き出すが、彼は続ける。
「文化祭、私もワクワクするのさ!多くの生徒が最高の催しになるように励み、楽しみ…楽しませようとしている!」
「ケーサツからも色々ありましたからねェ」
「ちょっと香山くん。じゃ!私は先に行ってるよ。君たち!文化祭、存分に楽しんでくれたまえ」
(警察?)
聞こえた単語に首をかしげるが根津はサッサッと行ってしまって、気になって残されたミッドナイトを見れば彼女は肩をすくめた。
「詳しくは言わないけど…校長頑張ったみたいよ。上ともめてその結果、セキュリティの更なる強化。そして、万が一警報が鳴った場合、それが誤報だろうと即座の中止と避難が開催条件になったの」
「厳しい…」
『誤報でも…!』
「勿論そうならないためにこちらも警備はしっかりするわ!学校近辺にハウンドドッグを放つし」
「放つ…!」
「そうそう、A組の出し物、職員室でも話題になってたよ。青春、頑張ってね」
「『はい!』」
ミッドナイトに激励され元気よく返事をした2人にエリはそわっとすると、つぶらな瞳で見上げ、
「デクさんと梓ちゃんは、何するの?」
「僕たちはダンスと音楽!踊るんだよ!」
『私はね、色々する!エリちゃんもびっくりだよ〜』
「僕たち、エリちゃんも楽しんでもらえるように頑張るから必ず見にきてね!」
そして、休憩時間が終わり、
梓と緑谷はエリに別れを告げ練習に戻るのだった。
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