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緑谷、切島、麗日、蛙吹が寮に帰ってこれたのは夜だった。
玄関戸を開けた瞬間、待ち侘びていた様子の峰田と目が合い、


「帰ってきたァァ!!奴らが帰ってきたァァァ!!」


それを合図にワッとクラスメート達が集まる。


「大丈夫だったかよォ!?」

「大変だったな!!」

「ニュース見たぞおい!!」

「まぁとにかくガトーショコラ食えよ!」

「皆、心配してましたのよ」


わらわらと集まってきたクラスメート達に矢継ぎ早に話しかけられ緑谷達は一瞬面食らった。
が、確かにあれだけ大きなニュースになっていれば心配にもなるか、と納得していれば、耳郎が緑谷の後ろを覗き込んでいて、


「じ、耳郎さん?」

「あれ…緑谷、梓は!?」

「あ、梓ちゃんは今日の夕方に目が覚めたみたいで、夜には帰ってくるって先生言ってたから大丈夫だよ」

「そっか…よかった、焦った…」


耳郎がほっと胸をなでおろす隣で
引き気味の表情で緑谷と切島に「それにしてもお前ら毎度凄えことになって帰ってくる。怖いよいい加減!」と上鳴が悲鳴をあげる。


「無事で何より」

「ブシかなあ…無事…うん」

「お茶子ちゃん梅雨ちゃん〜!!」


梓ちゃんにはあとでぎゅってする〜!と言いながら2人を抱きしめる葉隠に八百万が優しい目で背を撫で、
わいわいと質問が始まり、そこで飯田が派手に割り込んだ。



「皆、心配だったのはわかるが!!落ち着こう!!報道で見たろう。あれだけの事があったんだ」


あれだけの事。そう言われて最初に思い出すのはナイトアイの事。
恐らくニュースでは、オールマイトの元サイドキックであるナイトアイの殉職も伝えられているのだろう。

空気が神妙になる。


「級友であるなら彼らの心を労わり静かに休ませてあげるべきだ。身体だけでなく…心も、擦り減ってしまっただろうから…」


飯田と轟は突入前、食堂での緑谷の涙を見ていたからこそ思うところがあった。
が、


「飯田くん飯田くん」

「ム」

「ありがとう…でも…」


笑っていろ、とナイトアイの最後の言葉がよみがえり、きっとこの一件で一番心をすり減らしただろう通形がナイトアイの死や自分の個性消失を乗り越えようと笑っていることを思い出す。

そんな状況で、自分だけくよくよしてなんていられない。

彼は少し眉は下げているものの、前を向き少しだけ笑って


「大丈夫」

「……。」


本当か?と見定めるようにジッと飯田の視線が刺さり、「じゃあいいかい」と一旦断りを入れると、


「とっっっっっても心配だったんだぞもう!!僕はもう君たちがもう!!」

「おめーがいっちゃん激しい」

「ラベンダーのハーブティーをお淹れしますわ!心が安らぎますの!」


八百万がぷりぷりとハーブティーを淹れに行く中、蛙吹はうつむき気味の麗日が気になっていた。


「お茶子ちゃん…大丈夫?」


彼女は地面を壊して地下に降りたあの時、
血を流し疲弊した梓と空中ですれ違いざまにナイトアイを託された。
そして、瀕死のナイトアイを抱え救急車へ走った。

その手に抱えた事で、彼女もまた心に傷を負っていた。
もっとやれる事があったんじゃないかと、考えて、これから自分がどうしたいか1日考えて、
出た答えは


「私、助けたい」


はっきりと言葉にしてそれが心にストンと落ちる。


「梓ちゃんと、すれ違って…あのリンドウの花が見えて、全部が終わった時にあの子を抱えたんよ。みんな守るために必死で、傷だらけやったけど、エリちゃんは救えた。…私は梓ちゃんみたいにはなれないかもしれんけど、梓ちゃんと同じ、全部助けたいって思った」

「うん……」


聞こえていた切島も神妙な顔をする。
「なんで言ってくんなかったんだよ!俺たちもー仰天だったよ!」と瀬呂に肩を組まれ「ワリィ、カンコーレーしかれてたんだよ」と謝っていれば、彼の神妙な顔に芦戸が気づいたようで、


「大丈夫?」


聞かれて、思い出すのは地下での激戦だ。
梓の事を思い出し、胸が苦しくなり、切島が「…まだまだだわ」と力なく笑った、その時。

ガチャリと玄関戸が開き、共同スペースにいた全員の視線がそこに集まった。
残りの1人が帰ってきたのでは、とソファに座って輪に入らなかった爆豪も、突っ立っていた轟もハッと玄関の方を見る。

予想通り、のそりと疲れた様子で入ってきたのは梓だった。


「か、帰ってきたァァァ!!」


峰田に叫ばれビクッと肩をあげた梓は自分に向かってわらわらと集まってくるクラスメート達に「あはは、ただいま」と疲れた笑いを見せる。

が、切島を視界に入れた瞬間、その笑みがハタ、と固まった。
目が合い、彼女の目がいつもより多くの水分を含んでいるのに気づく。


「梓ちゃん、もう体は大丈夫なの!?」

「心配したんだよ」


駆け寄る緑谷や耳郎の言葉も耳に入らないようで、
梓は靴を乱暴に脱ぎ捨てるとリュックを背負ったまま駆け寄ってきたクラスメート達をかきわけ、そして、


『切島くん!!』

「!?」


勢いよく切島に抱きついた。
「えええ!?」「何で切島!?」「何があった!?」と周りがざわざわと悲鳴をあげる中、梓を受け止めた切島もパニックだった。

が、


『無事でよかった…!!ありがとう…!乱波の前に、一歩踏み出してくれて!!私が、天蓋のバリアを崩すのが遅くて、あのままだったら、ファットさん死んでた…!!ごめんっ、無理させたァ…!!』


あの状況。あの空気を知っているものしかわからない言葉。彼女の想い。
話で粗筋を聞いていた麗日や蛙吹、緑谷もぐっと黙り込んでいて。

切島もドギマギして頬を染めていたものの、梓にそう言われあの時のことを思い出し泣きそうに眉を下げる。


「お前が、天蓋の、バリアを破ったから…踏み出せたんだよ。あの時に、戻っちまうのが怖くて…けど、あいつの攻撃、最初に受け止めらんなくて、何もできないのかって…怖くて、」

『……ん、』


背伸びをし、自分に抱きつく梓の背に手を回す。


「けど、お前が、頑張ってたから…」


思い出すのは、天蓋に対する彼女の言葉。

背丈ほどの大太刀と何度も放つ嵐の斬撃に身体が軋んでいるはずなのに。


《貴様、何故そこまで。貴様では我のバリアは破れん》

《はぁ…!?そりゃ…守るために決まってるだろっ!!たとえ、この身が!朽ちても、死んでも退けないんだよバカ!!一歩でも退いたら、守れなくなる…!!》

《守るため…あの少年をか?あの少年はもう二度と立ち直れまい。恐怖に染まった目をしている》

《その恐怖の理由を知りもせずよく言うわ!!》


恐怖の理由。梓はその理由を知っていた。
そして、振り返って呼びかけるでもなくただ背を向けて天蓋に立ち向かう彼女を見て、
壁を乗り越え、バリアを破った梓の背が、切島の背を押したのだ。


「ごめんな…、ぜってぇ退かねェって、約束したのに…一歩踏み出すの遅くなっちまった…」


切島の目に多くの水分が張る。
溢れそうになる涙をぐっと堪えると、


「ありがとう、梓…お前、最高にヒーローだった!」

『それを言うなら君もだ!もう、あの時…血だらけでマジで、死んだかと』

「死んでねェよ」


ゆっくり切島から離れ、梓は目に溜まった涙を拭いながら彼を見上げるといたずらっ子のような笑みを浮かべる。


『…痩せたファットさん、かっこよくてびっくりしたねっ』

「…ああ!最初、誰かわかんなかったな!」

『うん、あのやっばい2人相手にホコタテ勝負勝ててよかった〜…』


ほう、と安心したように胸に手を当てる梓と、重荷が取れたような吹っ切れた笑みを浮かべる切島にやっと周りはざわつき始める。


「び、びっくりした…、修羅場始まるかと…」

「なんか…、色々あったんだな…お前らも」

「2人で戦ったのか?」

『いや、3人』


障子の質問に答えた梓の後ろ。
ふらりと爆豪が現れ、切島は顔を引きつらせ周りもヤバイと一歩下がる。
が、時すでに遅く、梓の頭にハリセンがスパーンッ!と入る。


「馬鹿かテメーは!!誰彼構わず抱きついてんじゃねェ!!」

『痛ぁ!?』

「最近いっちょ前に考え込むことが多いと思っちゃいたが…梓のくせに俺に隠し事してんじゃねェ!!」

『し、仕方ないじゃん!緘口令敷かれてたんだもんっ』

「梓ちゃん酷いよ…。僕だって、梓ちゃんと一緒に治崎と戦ったのに…僕のこと無視して切島くんの方に行くなんてさ。僕あんなに頑張ったのに、梓ちゃんと語り合ってぎゅーってしたかったのになんで」

『いずっくんのブツブツがヤバい。だってさぁ、いずっくんが無事なのは見てたけど、切島くんはあれっきりだったからずっと気がかりだったんだよう』


「お、珍しい。東堂が緑谷と爆豪どっちにも怒られてるのってなかなか見ないよね」

「三奈ちゃん、たしかに珍しいけど緑谷ちゃんの台詞はちょっと怖いわ」

「こうなると、もう一人も依存症患者が気になるよねぇ」


葉隠がサッと視線で轟を探す。
彼はすでに動き始めており、まあまあな勢いで押しのけられた切島が「うおっ」とよろける中梓の真ん前に立つと、


「無事か?痛いところないのか?大変だったのか?」

『お、おう、轟くん、突然現れた。うん、脇腹ざっくりやって強めの治癒だったからまだ体怠いけど痛みはないよ。大変ではあったけど…そんなことも言ってられないっていうか…』

「切島と、緑谷と一緒に戦ったのか?」

『ん、切島くんとファットさんと一緒に八斎衆2人とやり合って、そのあと私だけ先に進んだ人と合流して、いずっくんと一緒に治崎と戦った』

「……どうだった?」

『え?死ぬかと思ったけど』

「俺とやる時と、比べて…」


切なそうな訴えるような目が梓を見下ろす。
ぐっと握る拳に力が入っていて周りは思わず固唾を飲んで見守ってしまった。


峰田(嫉妬!?嫉妬か!?)

葉隠(クラス屈指のイケメンが…嫉妬してる)

上鳴(嫉妬っていうか…心配?梓ちゃんの相棒枠取られたくないんだ)

障子(東堂がどう答えるか見ものだな)

瀬呂(答えによっては切島か轟、どっちか傷つけるだろ!?どーする、東堂)


きょとんと轟を見上げる梓の口が開く。


『えー…、場合によるでしょ。乱波・天蓋戦は私と轟くんじゃ無理だったよ。そんでもって、治崎戦は私といずっくんだけじゃなくて、ナイトアイさんや通形先輩、エリちゃんがいなきゃ勝てなかった』

「……」

『何をしょぼくれてるのか知らないけど…、轟くんは最高にヒーローだよ?君とだったらどんな敵でもそれなりに戦える気がするし』

「そうか…?」

『うん、だって、轟くんは私から目を離さないから。私の動きに合わせてくれるもん。めっちゃ安心するよ』

「はいイケメン。平和的解決」


パン、と手を叩いて場を仕切った葉隠に周りは満場一致で頷くのだった。


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