98突入
事前会議でエリが本拠地にいると伝えられた。

ナイトアイが構成員のその後を見た結果、八斎會邸宅には届出のない入り組んだ地下施設が存在し、その中の一室に今回の目的であるエリが匿われていることが確定したのだ。
加えて東堂一族からの構成員の個性詳細の開示。

有益な情報が集まったとして、とうとう突入が決まり、ヒーローやインターン生たちはコスチュームに着替えると、警察署前に集合していた。


「んー、梓ちゃんどこやろ?」

「警察の人と話してるわ」


そこには九条や水島もいて、東堂一族として参加するのか、と緑谷が物珍しげに見ていれば九条と目が合い手を振られる。


「わ。」

「デクくん、どうしたん?」

「九条さんが手振ってきたからびっくりして」

「わ、ほんとや。あの2人も参加するんやね!」

「和装に羽織…あれが東堂一族の正装なのかしら。梓ちゃんもいつものヒーローコスチュームの上に羽織ってるもの」

「本当だ、かっけー!あの背に大きく書かれてる花ってリンドウだよな?梓のヒーロー名だ」


梓はぺこぺこと警察に頭を下げるとタタタッとこちらに向かって走ってくる。


『みんなおはよ』

「おはよ、梓ちゃん!警察の人と何話してたの?」

『いずっくん、私は挨拶してただけだよ。ほとんど水島さんが話してた』


一応当主だけどぺーぺーだからほんっとお飾りだわ〜、と苦笑気味に自分の無力さを嘆く梓に緑谷達はしょうがないよ、まだ仮免だもん、と慰める。

しばらくして、ナイトアイから今日の突入についての説明が始まった。


「隠蔽の時間を与えぬためにも全構成員の確認、補足など、可能な限り迅速に行いたい」

「決まったら早いスね」

「君、朝から元気だな…」

「緊張してきた。梓ちゃん、九条さんたちも突入するん?個性使えないんやろ?」

『ん、でも突入するよ。さっきラジオ体操して準備してたし』

「なんか緊張感ない準備やね」

「探偵業のようなことから警察との協力…知らないことだらけ」

「ね!不思議だね」

「こういうの、学校じゃ深く教えてくれなくて新人時代苦労したよ。守護一族についてはついこの前まで迷信だと思ってたしね」


リューキュウにウインクされ、ついウインクで返したら「梓ちゃんそういうのじゃない」と緑谷にツッコまれ切島が笑った。


「はは、笑ったら緊張解れてきた。けど、やっぱプロみんな落ち着いてんな。慣れか?」

「……皆……グラントリノがいないよ…どうしたんだろ」

「あの人は来れなくなったそうだ」

「塚内が行ってる連合の件に大きな動きがあったみたいでな。悔しそうだったよ、だがまァこちらも人手は充分。支障はない」

「そっか…」

「八斎會と敵連合一緒に捕まったりしてな」

「『それだっ』」


敵連合も捕まってくれれば梓の外部インターンが始まる。
ルンルンする彼女の後ろ、相澤はのそっと現れると「おい」と梓と緑谷を呼んだ。


「あいっレイザヘッド」

「俺はナイトアイ事務所と動く。東堂もだ。意味わかるな?」

「はい…!」

『はーい!』

「九条達は、」

『あの人らは、私よりも遥かに場数を踏んでるので、たぶん自分たちで勝手に動くと思います。目的は一緒なので任せるつもりです』

「そォか」


そろそろ出動だ。
ざわざわしていた警察署前に刑事の声が響く。
場は緊張感を増していた。


「ヒーロー、多少手荒になっても仕方ない。少しでも怪しい素振りや反抗の意志が見えたらすぐ対応頼むよ!相手は仮にも今日まで生き延びた極道者。くれぐれも気を緩めず各員の仕事を全うしてほしい!出動!!」


死穢八斎會の本拠地に向かって、一同は出動を始めた。




午前8時30分、死穢八斎會邸宅前。
警察、ヒーローがずらりと並んでいた。


「令状読み上げたらダーーッ!!と!行くんで!速やかによろしくお願いします」

「しつこいな、信用されてねえのか」

「そういう意味やないやろ、いじわるやな」

「フン…つか、守護一族がなんだか知らんが、ヒーロー免許も持ってねえ、個性も使えねえ奴らが俺らと並んで何ができるってんだよ。責任やら何やら言ってたが、当主がガキじゃ頼りになんねえな」

「お嬢、あそこのお兄さんに言われてら。ここはちょいと頑張って一番前に」

『いや無理無理無理』


ロックロックに嫌味を言われても全く気にしていない九条がこの期に及んで悪ノリをする中、警察がインターホンに手を伸ばす。
その間もロックロックは苛立ちが収まらない。


「そもそもよぉ、ヤクザ者なんてコソコソ生きる日陰者だ。ヒーローや警察見て案外縮こまっちまったりしてな」

「そりゃあ…ないだろうなァ!!」


九条が叫び、門の近くにいた2人の警察を後ろにぐいっと引っ張るのと、
死穢八斎會の八斎衆の1人である活瓶力也が敷地内から門を殴って吹き飛ばしたのは同時だった。


ーガァンッ!!


「何なんですかァ。朝から大人数でぇ…」

「助けます」


九条が引っ張りきれなかった数名が空に吹き飛ばされたのを見て相澤が捕縛布を伸ばし、緑谷がフルカウルで救助する。


「オイオイオイ待て待て!!勘付かれたのかよ!!」

「いいから皆で取り押さえろ!!」


突然の奇襲に場は慌てふためき、混乱していた。
その隙をつかんばかりに


「少し元気が入ったぞー…もぉ〜」


活瓶は右腕を個性で少し巨大化しながらもう一振り、拳を警察に叩きつけようとするが、


ーガキィンッ!!


けたたましい音と共に警察に届く前に水島の大太刀によって受け止められた。


「あいつ…受け止め…っ!?」

「ッ…おーおー八斎衆が1人、活瓶力也、元気だなァ!触れた相手から活力奪って自分のものにしちまうんだっけか…!」


自分の背丈ほどの大太刀で活瓶の拳をガァンッ!と弾き返すと勢いを殺すようにバク転する。
ひらりと羽織が靡く。金糸の家紋が太陽にきらりと照らされ、彼が作った一瞬の隙により、混乱は消えた。

リューキュウはここぞ、とすぐに前に出ると


「離れて!!」

「何の用ですかァ!!」


一瞬でドラゴンに変身したリューキュウによって、3発目の活瓶の攻撃は受け止められた。


「とりあえず、ここに人員を割くのは違うでしょう。彼はリューキュウ事務所で対処します。みんなは引き続き仕事を」


はい、今のうちに!と活瓶を地面に叩きつける彼女のお陰で敷地内への突入が始まった。
「ようわからん、もう入って行け行け!」とファットガムを始めヒーローが先陣を切る。


「梅雨ちゃん!麗日!頑張ろうな!」

「また後で!」

『2人とも、生きて会おう!!』


梓は切島や緑谷と共にそれを追いかけた。

敷地内はすでにわらわらと湧いてくる組員たちによって臨戦態勢だった。


「おォい!なんじゃてめェら!」

「勝手に上がり込んでんじゃねー!!」

「ヒーローと警察だ!違法薬物製造・販売の容疑で捜索令状が出てる!」


敵意むき出しの組員たちが建物から出てきて次々と個性を使って攻撃してくるため、正面玄関までの道のりが異様に長く感じる。


「知らんわ!」

「っと、おとなしくしといて!」


ヒーローを筆頭に戦闘が始まるが、彼らも極道者なのだ。一筋縄ではいかない状況にロックロックは「でけえ奴といい…怖くねえのかよ!」と焦りの声を漏らした。


「おォ何様じゃ!待て待てなんじゃてめェら!!」

「捜査だって言ってるでしょ!」

「暴れないでください!」

「道をあけて!後先考えずに暴れると後悔するよ!」


入り乱れ混乱する現場。
九条は面倒そうに抜刀しながら「組総出で時間稼ぎかよ…なんて破滅的な」と呆れ混じりにため息をつく。

これでは時間がかかる一方だ。
誰が先に行き、誰がこの場を相手するのか、早く判断を下して一歩を踏み出さないければいけない。
彼がザッと見渡して思案しようとした時、


『どいてッ!!』


ードンッ!


いつもはのんびり可愛らしい声が鋭く響き、雷が正面玄関まで一直線で貫いた。


「「うぉ!?」」

「なんじゃァ!?」


間一髪で組員たちは避けたものの、その一撃によって正面玄関への最短通路が開ける。

梓はその隙を縫うように一瞬で正面玄関への距離を詰めると同時、


『この人たち全員、足止めしといて』

「「!!」」


彼女が指示を出す先は勿論自分たちしかいない。
九条と水島は一瞬驚いたもののすぐに挑戦的に口角をあげて、


「「任されたァ!!」」


はじめての24代目からの戦場での指示に2人はテンション高めに敵陣へ突っ込むのだった。

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