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会議が終わって、緑谷達はビルのロビーに集まっていた。
エリと遭遇した時のことを切島達にザッと説明をする。


「そうか、そんなことが…、悔しいな」

「デクくん…」


厳しい顔で俯いている緑谷と通形。
切島はその悔しさがわかるからこそ何も言えず顔をしかめた。
重苦しい空気が流れ、誰も言葉を発さない。


「…通夜でもしてんのか」


エレベーターを降りてきた相澤が少し驚いたような顔で近づいてくる。


「先生!梓ちゃんは、」

「あ、学外ではイレイザーヘッドで通せ。まだ上で九条とナイトアイと内容を詰めてる。つっても、九条がひたすら喋ってるがな」

「まさか、梓ちゃんがあそこまで関係してたなんて…知らなかったです」

「ん、まァ、出来れば前に出させたくなかったんだが、九条も聞かねえし東堂もひかないからな。いや、それにしても、今日は君たちのインターン中止を提言する予定だったんだがなァ」

「えぇ!?今更なんで!!」

「連合が関わってくる可能性があると聞かされたろ。話は変わってくる。東堂も参加させるつもりなかったんだが…あいつと、緑谷、おまえらは…まだ俺の信頼を取り戻せていないんだよ。喧嘩したしな」


面倒そうに頭をかきながら相澤はよいしょ、と緑谷の前に座る。


「残念なことに、ここで止めたらお前と東堂はまた飛び出してしまうと、俺は確信してしまった。東堂にはもう言ったが、」


相澤の目がじっと緑谷を見つめる。
彼の拳がとん、と胸にあたり、


「俺が見ておく。するなら正規の活躍をしよう。わかったか、問題児」


相澤の言葉に背を押されるように天喰も顔を上げると友人である通形に声をかけた。


「ミリオ…、顔を上げてくれ」

「ねぇ、私知ってるの。ねぇ通形、後悔して落ち込んでてもね、仕方ないんだよ!知ってた!?」

「…あぁ」

「気休めを言う、掴み損ねたその手はエリちゃんにとって、必ずしも絶望だったとは限らない」


顔を上げさせるように相澤の手がくいっと上を向く。
立ち上がりながら、


「前向いていこう」


東堂はもう前向いてるぞ、と。
彼にしては珍しい、励ますような言葉。
思わず緑谷は立ち上がって「はい!!」と声を張り上げた。
その相澤の言葉に鼓舞されたのは緑谷だけではなく、切島もガタンっと立ち上がると


「俺…イレイザーヘッドに一生ついていきます!!」

「一生はやめてくれ」

「すいァっせん!!」

「切島くん声デカイ…!」


その時、またガーッとエレベーターが開き、
相澤を含め全員がそちらを向けば、羽織を九条に預けながら梓が小走りで近づいてきた。


『先生、みんな』

「梓ちゃん…」

「おう、イレイザー、世話んなったな!」


九条に明るく話しかけられ相澤は嫌そうに眉間にしわを寄せる。
一応九条は梓の保護者的立ち位置だが、保護者への対応とは思えないその表情に思わず麗日は「あいざっ、イレイザーヘッド、なんであんなに怒ってるん?」と緑谷に聞くが彼にもわからないようで、


「さ、さぁ…なんでだろ」

「お嬢、お疲れさん。荷物持って帰っとくな」

『あ、うん。よろしく。あと、水島さんは…』

「まだ事務所張ってる。イレイザー、後は…ってめっちゃ睨んでる」

「俺はまだ、東堂を表に引っ張り出したことに納得していないんでな」


苦虫を噛み潰したように言った相澤に梓は苦笑いをし九条は何のことやらと肩をすくめた。


「事情が事情なもんでな…ってもう、アンタには説明したろ」

「その説明に納得出来てないからな」

「前も言ったが、八斎會の変化を見極められなかった責任、これは家庭の事情だ。お嬢が了承したら担任の先生が何言おうが、これは決定事項なんだよ」

『…九条さん、言い方』

「家の事情は百歩譲って分かるとするが、まだ仮免しか取っていない東堂が出張る理由はなんだ。九条、お前で十分だろ」

「当主が出ると出ないじゃ言葉の重みが違う」


梓を間に挟み言い争いを始める2人にクラスメートとビッグ3の3人は彼らの関係を察した。

梓を気遣いつつも東堂一族としての責任や使命を第一に考える九条と、東堂一族のことを理解した上でそれを好ましく思わない相澤とでは水と油なのだ。
その場にいる全員、どちらかといえば相澤派なのでじとりとした目を九条に向ける。

が、彼はその視線に気づいているはずなのに都合よく無視すると、


「お嬢、また新しい情報が入ったら連絡するな」


と梓の頭をぽん、と撫でて足早に次の現場に向かっていった。
残された梓は彼の背が見えなくなると、はぁーっと大きなため息をつき、椅子に座っている緑谷をおもむろにぐっと押すと少し空いたスペースに無理やり一緒に座る。

1人用の椅子に半分ずつ座った仲良し幼馴染に、やっと切島は表情を和らげた。


「お疲れさん」

「梓ちゃんだっけ!?ねぇ、東堂一族のこと聞いたよ!さっきリューキュウに聞いたんだ!リューキュウも初めて見たって言ってた!」

「梓ちゃん、大変だったみたいね。だから昨日夕食が進んでなかったのかしら」

「緊張で吐きそうな顔ってあんな顔になるんやって思ったよ」

『ははは…、禿げるかと思った』

「梓ちゃん、なんで僕に言ってくれなかったの」


椅子は半分分けてくれたものの、緑谷の表情は険しかった。
が、梓はなんてことないと肩をすくめると、


『それを言うなら、いずっくんも。エリちゃんのことずっと抱えてたでしょ』

「…そうだけど」

『お互い、不明瞭すぎて話せなかったってことだよ。でも、目的ははっきりしてるから、さっきも言ったけど前だけ向いて、エリちゃんの今と未来を全力で救うのみ』

「…ん。」

『それが、エリちゃんだけではない、たくさんの人を守ることにつながるからさっ。これは東堂理論なんだけどね』

「、壮大だなぁ」


あんな会議の後なのに、周りの不安を吹き飛ばすようにからりと笑う彼女に、天喰は何度目かわからない、太陽だなという感想を持つのだった。

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