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ケッと苛立ちをこめたため息を吐いたのはロックロックだった。


「ガキがイキるのもいいけどよ。推測通りだとして若頭にとっちゃその子は隠しておきたかった核なんだろ?それが何らかのトラブルで外に出ちまってだ、あまつさえガキんちょヒーローに見られちまった!素直に本拠地に置いとくか?俺なら置かない。攻め入るにしてもその子がいませんでした、じゃ話にならねえぞ。どこにいるのか特定出来てんのか?」

「確かにどうなの、ナイトアイ」

「問題はそこです。東堂家23代に続いて24代目も幹部の人を任されている水島君曰く、未だ少女は本拠地にいるとの事ですが、それもまだ確定ではないし、本拠地のどこにいるのかまではまだわからない。一度で確実に叩かねば反撃のチャンスを与えかねない」


ちらちらと緑谷や切島、麗日、蛙吹の視線が梓に向かうが彼女は眉を下げてボーッと前を見ていて、上の空を相澤に気づかれてパシンと頭を叩かれている。

ナイトアイは続ける。


「そこで、八斎會と接点のある組織、グループ及び、八斎會の持つ土地の情報を東堂家から流してもらいました。みなさんには各自その場所を探っていただき、拠点となるポイントを絞ってもらいたい!」

「なるほど、それで俺たちのようなマイナーヒーローが…、見ろ、ここにいるヒーローの活動地区とリストがリンクしてる!土地勘のあるヒーローが選ばれてんだ」

「オールマイトの元サイドキックな割に随分慎重やな!回りくどいわ!こうしてる間にもエリちゃんという子、泣いてるかもしれへんのやぞ!」


ファットガムの言葉にピクリと反応した少女に相澤は大丈夫だと背中を叩いた。
ナイトアイの方針に東堂一族として九条水島と話し合い同意したのを知っていたから。

ナイトアイの事情、そして現状の不明確さを考えるに九条たちの下した決断は仕方のないこと。


「我々はオールマイトにはなれない!だからこそ分析と予測を重ね、救けられる可能性を100%に近づけなければ!」

「焦っちゃあいけねえ。下手に大きく出て、捉え損ねた場合火種がさらに大きくなりかねん。ステインの逮捕劇が連中のPRになっちまったようにな。むしろ一介のチンピラに個性破壊なんつー武器流したのもそういう意図があってのことかもしらん」

「考えすぎやろ。そないな事ばっか言うとったら身動き取れへんようになるで」


ファットガムの厳しい言葉に「んん、」と唸る梓を見かね、相澤は先日から疑問に思っていたことを聞こうと手を挙げる。


「あのー…、一つ良いですか。どう言う性能かは存じませんが、サー・ナイトアイ。未来を予知できるなら俺たちの行く末を見れば良いじゃないですか。このままでは少々、合理性に欠ける」

『あ、せんせ、それ水島さんも言ったらしいけどできないらしいですよ…』


小声で耳打ちする梓に何でだと思っていればナイトアイ本人に「それはできない」と言われ相澤は首を傾げた。


「私の予知性能ですが、発動したら24時間のインターバルを要する。つまり1日1時間1人しか見ることが出来ない」


ナイトアイの予知性能は確かに制約が多いが、それでも十分なもののように感じた。
相澤はなぜ彼が頑なに拒否をするのかがわからなくて眉間にしわを寄せると


「いやそれだけでも十分すぎるほど色々わかるでしょう。出来ないとはどういうことなんですか」


ナイトアイの表情が曇る。


「例えば、その人物の近い将来、死。ただ、無慈悲な死が待っていたら、どうします…。この個性は性能の確率を最大まで引き上げた後に勝利の駄目押しとして使うものです。不確定要素の多い間は闇雲に見るべきじゃない」

「ナイトアイよくわかんねえな!いいぜ、俺を見てみろ!いくらでも回避してやるよ」


ロックロックが自信満々に声を張り上げるが、


「ダメだ」


少し掠れた重い声。
ナイトアイの拒否に、その場にいた誰ももう一度予知をということは出来なかった。

空気が沈むような沈黙。
ため息混じりにリューキュウが口を開く。


「とりあえずやりましょう。困っている子がいる、これが最も重要よ」

「娘の居場所の特定・保護。可能な限り確度を高め早期解決を目指します。そこで、死穢八斎會の素性、全貌を掴む為にもここからは、」


ナイトアイの視線が梓を貫く。
その時、ガチャッと扉が開き、少し息を切らした和装の男が入ってきた。


「あー、すんません。ナイトアイ、遅くなっちまった」


下駄をカツカツと鳴らしながら入ってきた男、九条。
彼のことを知るナイトアイ、ファットガム、相澤は相変わらずの気の使えなさだと呆れた表情をするが、緑谷や切島はぽかんとしていて、九条のことを知らない蛙吹に、麗日が「梓ちゃんとこの人や」と小声で説明する。

彼は真っ直ぐ、相澤の隣に座って頭を抱えている梓のそばまで歩いてくると、


「お嬢、どこまで話は進んだ?」

『〜ッ、九条さん、目立ちすぎ…』


「おいおい、こいつァなんだ。ナイトアイ!関係者なのか?」

「いきなり入ってきて…プロヒーローではなさそうだが」


注目が集まる。
早くしろとナイトアイの視線が刺さり、梓は心臓をバクバクとさせながら唸ると、

心配そうにこちらを見るクラスメートに背中を押されるようにガタンと立ち上がった。
背に大きな家紋の入った自分専用の羽織を受け取り、雄英の制服の上にふわりとそれを羽織る。

それは、対外的な場で着用が義務付けられている当主の羽織。
顔色を悪くしつつもそれを羽織った梓は


『ここからは、私達…東堂一族が請け負います』


キッと周りを見る目。
肝が座ったその表情に周りはざわついた。


「こりゃ驚いた。なんでまた黙ってた」

「は?お嬢ちゃんが東堂?イレイザーヘッドんとこのインターン生じゃないのか」

「梓ちゃん応援しとるで、頑張り」

「俺んとこのインターン生で間違いありませんよ。インターン生であり、ナイトアイに依頼されて説明にきた24代目当主です」

「すんませんね!事情が事情なもんで当主自ら公に出てますが、べつにこれを機に表舞台に出るっつー訳じゃないんで!事情が事情なんで!」


ケラケラ笑いながらナイトアイの後ろにあるスクリーンにデータを映そうと九条は荷物からパソコンとプロジェクターを出してセッティングし始める。
その間、梓は相澤とともにカツカツとローファーを鳴らしてスクリーン横に立った。


「梓ちゃん…、どうしたの」

「顔色が悪いわ」

『いや、だってめっちゃ緊張してるもん。…っし、改めまして、東堂梓といいます。さっきまではイレイザーヘッドのインターン生として話を聞いていましたが、ここから先は…東堂家24代目当主として、ご説明させていただきます!』


首元に光る家紋の入った首飾りをぎゅっと握りながら梓は自分に刺さる見定めるような視線に向かい合おうと前を向いた。


『ご存知の方も多いかもしれませんが、東堂一族は昔から極道者について、警察とともに取締や監視の役目を担っています。そこで、今回怪しい動きが見られる死穢八斎會について、どういった特色のある団体なのかをご説明します…、小さな組織で知らない方も多いと思うので、』

「お?あれ?ん?ちょ、イレイザー!手伝って!俺パソコン苦手なんだわ。水島と泉さんが全部やってくれたんだよね」

「なんで俺が」

「これ繋げばいいのか?ん?」

「自分でやれ」


担任の先生と保護者の会話だとは思えない其れに、随分相澤先生の棘が増えたものだと緑谷は顔を引きつらせる。
自分だって梓を無理させる九条のことはあまり好きではないが、相澤ほど露骨に嫌な顔はしたことなかった。

梓も微妙そうな顔をしながら続ける。


『死穢八斎會の組長は、侠客、義理人情を大事にする昔ながらの極道で、法に反する点では褒められたもんじゃないですけど、決して、薬の製造や販売、敵とつるむことはありませんでした。指定敵団体という呼び名すら嫌っていたほどに。ナイトアイさんの説明にもありましたが、その八斎會が変わってしまった。おそらく組長の力はもう及んでいない…若頭である治崎の天下です』

「そ!んで、治崎の目的は…恐らくこの世の混乱に乗じた死穢八斎會の復興…復興って言っていいのかねェこれ。んー、規模を大きくして支配者になりてェってところか。ん、イレイザー、これ繋げばいいのかな?」

「どけ。煩わしい」


眉間にしわを寄せながら相澤はドンッと九条を押すと、代わりにプロジェクターとパソコンを操作し始める。

そして、スクリーンに死穢八斎會の組織構成が映った。
梓は説明を続ける。


『ん、と、先ほどナイトアイさんが言っていた通り、治崎の目的については不明瞭な部分が多いんですけど…東堂一族の考えとしては、治崎は…知能犯であり思想犯だと思ってます』

「思想犯?」

「一体どういった思想だ」


リューキュウとロックロックの問いに梓はうん、と頷くと


『治崎は、ヒーローのことを英雄症候群と揶揄していたらしいです。そして治崎とその側近や八斎衆はペストマスクをつけています。つまり、治崎は自分以外の思想を持つ、ヒーローなどを病気と考えている節があると考えます』

「もしかしたら、個性そのものを病気として考え、その病気を治すーって考えもあるかもしれねェ。個性は人類が患った病気の一つである、と唱える古い学説は確かにあるからな。ここからはなーんの証拠もない東堂家の仮説だが、個性で成り立つ社会を根本的に変える壮大な思想を持ってんじゃねえかって思ってる。んで、個性を壊す薬と、奴の能力である修復で、世の市場を独占しようとしてんじゃねえかって」

「それは、考えすぎとちゃうんか。九条」

「考えすぎで結構。うちはあくまで大局を見る。そうやって、時代の流れを見てきた。東堂一族はそう考えた、それだけ頭の片隅に入れといてくれりゃいい」


なんや腹立つ言い方やな〜とファットガムは眉間にしわを寄せるが、九条の隣に立つ梓が泣きそうに唇を噛んでいるのを見て思わず黙った。
彼女は一歩前に進むと、


『本来、私が、死穢八斎會の不穏な動きをもっと早くに気づかなければいけませんでした。それが東堂の役目ですから。でも、気づけなかった。まさか、若頭がそんな思想と行動力を持ってたなんて、こういう事態になるまで気づけなかった。ごめんなさい』


一息で言って頭を下げた梓に周りは唖然とした。
誰もそんなこと思っていないのに、ヒーローである自分たちも同じような状況なのに。
その表情に東堂の歴史と重圧を感じ、思わず息を飲めば、セッティングを終えた相澤が梓の頭をぐいっと上げさせる。


「お前のせいじゃないし、それをいうなら俺たちプロヒーローにも気づけなかった責任がある。頭を下げるな」

「…せやで、梓ちゃん。いらんところまで先代の真似せんでええねん」


ファットガムの優しい目に梓は相澤に頭を上げさせられながら少し泣きそうに唇を噛むと、フゥッと息を吐き出し、


『過ぎたことは戻らない…、もしエリちゃんが苦しんでいるとしたら、過去に巻き戻ることはできないので、、先を見据えます。エリちゃんのこれからを守ります。そして、私の守りたいと思う人たちが住む世界を、守るために』

「お嬢…」

「梓ちゃん…」


先ほどまで悔しげに揺れていた目が先を見据える。
敵意のある光で燃えていて、


『東堂一族は常に先を見る。守護一族といえど、全てを守ってこれた訳じゃない…常に最善を推し量り、未来を守るために何をすべきか、大局を見ると、今の東堂一族の出来ることは、』


パッとスクリーンが展開する。
数名の顔写真が映り、九条はニヤリと笑うと、


「死穢八斎會の若頭派、八斎衆の個人情報をここで提供する!うちは、全面戦争を宣言する」


そして、九条による八斎衆の解説が始まった。


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