雄英高校の受験日。
緑谷とばったり会った梓は、久しぶりに会ったなぁと目を瞬かせた。
『いずっくん一緒いこ!』
「あっ梓ちゃん!」
駆け寄ってきた緑谷も嬉しそうな顔をしており、2人で目を合わせるとニコニコと笑い合う。
『なんか久しぶりだ!私もずっとこの日のために鍛錬してたし、いずっくんも鍛錬してたんだよね?』
確かにこの数ヶ月、緑谷はオールマイトにあった日から鍛練漬けの日々だった。
クラスが違うせいで学校以外では顔を合わせる機会のない梓と会うのは久しぶりな気がして、パァッと顔を輝かせると頷く。
「うん、僕も、この日のために頑張ったんだ」
この子と一緒に雄英に通いたい。
強くなって、この子の隣に並びたい。
辛い鍛錬の中、緑谷を奮い立たせた1つの要因でもある。
ちらりと見る梓の横顔は、試験前のせいか緊張気味で、
「梓ちゃん、僕、君に話さなきゃならないことがある。君も話してくれたから、」
受験する前に、梓にだけは知っていて欲しくて、緑谷はドキドキしながら口を開いた。
ー
『へっ、いずっくん個性発現したの!?』
「う、うん」
数ヶ月前、珍しく梓が体調を壊し、お見舞いに行った時に告げられた『個性を継承した』というカミングアウト。
それから数ヶ月経った今日の朝、緑谷はオールマイトから個性を継承した。
梓の経緯を聞いた時に突拍子も無いなと思ったが、まさか自分も同じように個性を継承する事になるとは。
奇跡のような偶然だなと思いつつ、
オールマイトとの約束の手前、継承したとも言えないので発現したということで誤魔化した。
『本当!よかったね!!ま、お互い個性なくてもヒーローになる気満々だったけど、やっぱあった方が便利だよね〜』
人の事を言えた義理では無いが、継承した事で彼女も中々ヘビーなプレッシャーを背負っているはず。
それなのに、なんて事ない顔で笑うものだから、自分も一緒に気が楽になる。
やっぱり太陽みたいなだなぁ、と釣られたように緑谷は一緒になって笑った。
「まだかっちゃんには話してないんだ。梓ちゃんだけ」
『ふふ、無個性同士、いろいろと痛みがわかるもんね。なんかいずっくんが晴れ晴れしててよかった!』
「ありがと。でも、梓ちゃん、プレッシャーとかないの?そんないわくつきの個性、」
『???』
「んーー、満を持して東堂家からヒーロー排出って感じじゃんか。ハヤテさんもかなりプレッシャーかけてるんじゃない?」
『あーー、』
頭をかいて苦笑いする幼馴染に緑谷は顔を曇らせる。
「大丈夫?きついこと言われてない?」
『うーん、、プレッシャー?圧?なんかわかんないけど息苦しくなっちゃうときがある』
「やっぱり。僕でよかったら力になるから話して!」
弱音を吐くところを見たことがないからこそ、心のどこかで溜め込んでないか心配だった。
梓は困ったような顔で少し下を向くと、
『ううん、大丈夫。継承したし、やるべき事はしっかり見えてるから。いずっくんこそ、最近ボロボロだったけど大丈夫?』
「僕は大丈夫だよ!それより梓ちゃんが、」
『だーいじょうぶ!』
「ぐっ」
遮るように言われ思わず口を噤む。
相変わらず意地っ張りで強くて優しくて自由な子。
嘘が下手だから、無理しているのもわかる。
無個性だったから、少しだけ気持ちもわかる。
少し先を進む梓の服を引っ張った。
「梓ちゃん、僕ね、君が思っている以上に君の事が大事なんだ!」
『なんだいきなり』
「幼稚園児のころ、個性がないってわかって、ヒーローになりたいのになれないんだって絶望した。でも、同じ状況の梓ちゃんは、ヒーローになるってずっと言ってたでしょ」
『うん、かっちゃんにすんごい怒鳴られまくってたけどね』
「僕にも、なりたいんならなろうって言ってくれた」
『うん、なるんでしょ?』
「うん!…無個性の時、ヒーローになれるって言ってくれたの、君だけだったよ」
『…そうなの?』
「それに、梓ちゃん見てたら無謀なことでもできる気がしてきちゃうんだよなー!能天気すぎて」
『あれっ、さっきまで褒めてくれてたのに悪口になってる』
「ごめんごめん。だから、今度は僕が君の助けになりたいんだ。元無個性同士、気持ちもわかるかもしれないし!」
両手をぎゅっと握る。
小さいけど、日々の鍛錬により硬くなった手。
自分よりも一回り小さい、可愛らしい女の子。
きょとんと見上げる彼女ににっこり笑えば、
『いずっくん、もうヒーローみたいだね』
つられたようににへらと笑った。
結局弱音は吐いてくれなかった。
(梓ちゃんヤバイ!時間ギリギリだ!)
(わぁ!いずっくん走ろ!!)
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