実技試験会場は幼馴染2人とは別だった。
仮想敵ロボットを行動不能にすることでポイントを加算していくシンプルな試験に梓はひとまず安心していた。
個性のコントロール試験なんかだったら、絶対に落ちていたと確信するほど彼女の個性はまだ自分自身に馴染んでいないのだ。
“嵐”だなんて暴れ馬個性のテストよりも、単純戦闘が試験科目になったのは、梓にとってある意味分が良かった。
とはいえ、
(キンチョーしてきた、、)
ぴょんぴょんと飛んで硬くなっている体をほぐしてはいるが、心臓ばくばくである。
単純戦闘のほうがマシだとはいえ、自分はまだ継承した個性を大して使えてはいないし、いつも対人訓練をしているが機械を相手にすることはない。
それに、
(雄英落ちたらお父さんに殺される…!)
一番の要因はそれだったりする。
出かける前に守護の意志うんぬんと死ぬほどプレッシャーをかけてきた父親を思い出して身震いする。
一度大きく深呼吸をすると、余計なことは考えないように梓は頭を振る。
「ねぇ、」
『大丈夫大丈夫、いけるいける…』
「ねぇってば、ハンカチ落ちたよ」
緑谷並みにブツブツ言っていればポンと肩を叩かれハンカチを渡された。
『あっ、ごめんなさい!ありがとう』
「いいえー。ずいぶんキンチョーしてるね」
ま、ウチもだけど。
落し物を拾ってくれた耳が特徴的なショートカットの女の子は、控えめに笑う。
その笑みが屈託無くて、梓は上がっていた肩をふと下ろすとつられたように笑った。
『キンチョーする!ロボット相手に戦ったことないし』
「だよねぇ、さっすが雄英。試験から規格外だわ」
『うん、説明聞いた時まじかよって思った』
ウチも同じ、とからから笑う女の子につられて笑っていれば、試験開始のカウントダウンが始まった。
『やば、はじまる!ハンカチありがとっ』
「いいっていいって」
『それじゃ、こっからはライバルだけど、お互いがんばろ!』
「あはは、サバサバしてていいねェうん、ウチも頑張るからアンタも頑張ってね!」
名前も知らない女の子ではあったが、梓の緊張をほぐすには十分だった。
ー
試験が始まり、周りがスタートダッシュを決める中、梓は近くに転がっていた鉄パイプを引っ掴んだ。
(コントロールできないから武器に纏わせないとちゃんと使えないんだよね…!)
自分に襲いかかってきたロボットの関節部分目掛けて雷を纏った鉄パイプを振り下ろす。
ーガァンッ!
(お、意外と脆いぞ)
一体目を自分の体術+雷で難なく倒せたことで、梓の緊張は完全に解けた。
体が軽くなった。
自然と口角が上がり、視野が広がる。
そこからは、瞬く間だった。
そして数分後、試験終了のホイッスルが鳴り響いて梓はやっと足を止めた。
『な、なんとか合格ラインは行けた気がする…』
風を操るのはあまり得意ではないし、放出できる程の水分が無かったため、攻撃は専ら落ちていた鉄パイプに雷を纏わせ、剣技で倒す、今一番得意なスタイルだった。
合否はまだわからないが、一応筆記でも実技でも自分のベストは尽くせたので、これで落ちたらしょうがない、と
梓は使っていた鉄パイプをぽいっと投げ捨てると、折中の制服に着替える為、更衣室に向かおうとした。
と、その時、
「ちょっと待って!!」
ガッと腕を掴まれ振り向けば、金髪の少年が眉を下げて申し訳なさそうにこっちを見下ろしていて、梓はぽかんと口を開けた。
『?』
「さっき!助けてくれた子だよな!?」
金髪の男の子に引き止められ、はて、と首を傾げる。
身に覚えがないのだ。
何人か危ない子を助けたけど、この子はその中に入っていただろうか。
「ほら、さっき俺の頭の上に瓦礫が落ちてきそうになった時!君が風でびゅん!って吹き飛ばしてくれたじゃん」
『あーー、うん。大丈夫だった??』
言われて思い出した。
雷で粉砕したら彼に石が当たると思い、慣れない風を一か八かで使った時だ。
上手く行ってよかった、と今更ながらに安堵していればその彼は勢いよく距離を詰めてきた。
「俺は大丈夫!けど、君腕から血ぃ出てるって!」
『あっこれかすっただけ!』
「まぁまぁざっくりやってるよ!?助けてもらったお礼に救護室に連れてくわ!」
少し強引な子だなぁと思いつつも、手当てをしてくれるのはありがたいので梓は素直についていった。
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