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Merry Christmas for you


*Side Story

こちらは2013年X'masのコラボ企画『Merry Christmas for you』のプロローグとなります。ななお様が書いてくださった一編です。
このお話から分岐して当サイト作品『A Heart for You〜ジェノワーズ(全3話)』へと続きます。えんじぇるシリーズの番外線となっております。
他4サイト様のお話へはHAKUOUKI→SEASONS EVENTにて企画ページに飛べますのでそちらでお楽しみください。


***


12月某日、某所にて。

街の至る所からクリスマスの音が、匂いが、光が漂う。
ここはセレクトショップの並ぶ小綺麗な裏路地。
その中に、昼間なのにイルミネーションがピカピカと光る手作り感満載の看板を目印に一人、また一人と若い女性が建物の中に吸い込まれて行く。
ブラックボードの看板にチョークで書かれているのは、「X’mas ケーキ教室!」の文字。
今年のクリスマスは家族や恋人、友人、もしくは自分用に手作りケーキを作ろうと意気込む女性が一日体験教室に訪れたのだ。

受付を済ますと、懐かしい家庭科室のように調理台が並ぶ部屋に通される。
ドアに貼り付けてある名簿を見ればランダムにグループが振り分けられていて、ほとんどの参加者が席についていた。
長方形の調理台の右側の前の席から1、2、3と時計回りで番号がついた席は6つ、6人で1グループになっている。
その中の1つ、Cと書かれた札の調理台に集まったのが本日のヒロイン達である。
早速、全員初対面のCグループ…1つ空席があるのが気になるが、覗いてみよう。

グループの中で一番早く会場にやってきたそよ。
大学生の彼女は見る限りこのグループの最年少で、初対面の面々を前に少しオドオドしている。
だけれども、滲み出るほんわかとした雰囲気はしっとりとしたシフォンケーキのようだ。
この教室は大学の掲示板に貼ってあったチラシで知った。
元々お菓子作りは得意なのだが、有名なパティシエが講師とあってスイーツ好きには堪らない
条件に飛びついたのだ。
同棲中の恋人の原田と過ごすクリスマスに手作りケーキは必須、今年はどんなケーキを作ろうか考えるのは最近の楽しみの一つだ。

そんなそよに場の空気を和まそうと話し掛けているのが、沖田探偵事務所の助手として働いている舞。現在、事務所の所長であり探偵の沖田に絶賛片思い中。
彼女の明るい笑顔は、イチゴたっぷりのショートケーキを彷彿させる。
普段あまり料理をしないためお菓子作りは未知の領域なのだけれど、手作りケーキなんて女の子らしい一面を覗かせればライバルを差し置いてあの気まぐれな沖田もイチコロ…にできるだろうか、そんな淡い期待を抱いている。

2人の向かいの席、端から順に佳乃に飛鳥になまえ。
特徴的なのは佳乃だろうか、なんてったって今月臨月を迎えた大きなお腹を抱えている。
さっきからほぼほぼ3分置きに鳴る携帯の持ち主でもあり、バイブが震える度に甘さ控えめのベリータルトのような大人の雰囲気を漂わせる美人顏が苛立ちで歪められる。
夫である土方が過保護で…やれ体は冷やしていないか、やれいつ終わるんだ、やれやっぱり家にいた方がとひたすらメールを送ってくる。
業を煮やした佳乃はお腹を庇いながら携帯をバッグの奥底に仕舞い込んだ。


「あ、大丈夫ですか?」
「え?あぁ、ご心配なく。妊婦生活も長くて慣れてますので」


触ってもいいですか、そう前置きして隣から恐る恐る手を伸ばしたのは飛鳥だ。
真面目そうな目元が温もりに触れてしっとりと緩んだ、人の子ではあるけれど生まれてくるのが待ち遠しい、そんな表情はシュトーレンを彷彿させる。
こんな穏やかな気持ちになれるのも、最近よりを戻した恋人の不知火の存在があるからかもしれない。辛いことも悲しいこともあったけれどそれはそれ、仕切り直しで迎えるクリスマスは家でゆっくり過ごしたくて、そこに手作りケーキなんて甘いものを付け加えようと意気込んで受付を済ましてきた。

そんな2人の横に座るなまえは、大きなお腹をちらりと盗み見ながら妄想の中でその姿を自分と重ねていた。というのも、同棲中の恋人(人というと語弊がある。詳しくは分岐後にて)の斎藤と結婚が現実味を帯びてきたのだ。
とはいえ、それに浮かれる前に恋人でありながら小姑のような斎藤の料理の腕が立ちすぎるという問題に、クリスマスぐらい自分がケーキを作ってやりたいとこの教室に飛びついた。
時間を確認しようと取り出したスマホを滑る指、黒い画面にクリームを塗る前のジェノワーズのような思わず唇を寄せたくなる綺麗な頬が写った。

ケーキ教室開始まであと3分と迫った時、空席だったCグループの6つ目の席が慌ただしく埋まった。
時間ギリギリに駆け込んできたのはななお。必然的に注目を浴びてしまい、照れ笑いの零れた表情はシュガーパウダーたっぷりの甘いガトーショコラのイメージだ。
熱くなった頬を冷まそうと風を送る左手の薬指には真新しい結婚指輪が光っている。
今年のクリスマスは最愛の夫である山崎に新婚らしく甘い手作りケーキを作ってあげたいと思ったものの、彼女もまたお菓子作りとは縁遠く。偶然見つけたケーキ教室の広告に本日の遅刻ギリギリと同じく締め切り寸前に飛び込んだのだ。

こうして参加者全員が集まり、定刻通りに現れた本日の講師が壇上に上がった。
キリリと結い上げられた髪の毛とは対象的に優しく微笑む姿はカフェモカプリンのような大人の上品な甘さを感じる。
ゆっくりと恭しく頭を下げるパティシエールにつられ、会場に並ぶ各々の黒や茶の頭がぺこりと下げられた。


「皆様、本日はクリスマスのケーキ教室にお集まり頂き誠にありがとうございます。本日お作り頂くのはクリスマスの王道、ブッシュ・ド・ノエルです。1グループで2台作りますが、材料は基本のものからアレンジのものまで多数ご用意しております。1台はレシピ通りに、もう1台はアレンジを加えてなどグループの自由ですので、仲良く話し合いながら作ってみてくださいね。それでは早速始めましょう」


流しで手を洗って持参したエプロンを纏えば、慣れている人もそうでない人もさぁやってやるぞと手に力が入る。
各調理台に運ばれた材料は、基本からアレンジまでの言葉通り多種多様だ。
その中にあった小さな小瓶を、そよが持ち上げた。


「これ、なんでしょうか?」
「んー、なんですかね…あ、ブランデーだ」
「ということは、お酒ですね!わぁ、とっても気になります」


裏に貼られたラベルを覗き込んだ飛鳥は英文の中にBRANDYの文字を見つけた。
顔を輝かせたそよは早速瓶の蓋を開けてブランデーの香りを強く吸い込んだ。
思ったとおり、大人の香りがする。そして、こんな香りを嗅ぐたびに思い出すのは恋人の原田のことだった。
年齢の差もあるのだろうが、彼女の目に映る原田は何かと余裕たっぷりの大人の男で、それが愛おしくもあり時には悔しくもあって、その度に背伸びしたくなる。
今年のクリスマスも、また一つ素敵な大人になれますように。
とはいえ、鼻の奥をグッと押されるような強い香りに飲んでもないのに頭が酔ってしまいそうだ。
ふらふらと無言で差し出された小瓶を受け取った飛鳥も、普段飲まないブランデーの香りに鼻先を引っ込めた。


「や、やっぱりきついですね」
「でも、とーっても好きな香りです!左之助さんみたい…」


ふにゃふにゃと答えるそよの姿はもう酔った人で、何事かとこちらを向いた人影が2つ、ブランデーの小瓶めがけて駆け込んでくる。


「ブランデーか、うちあんまり飲まないから見るのも久しぶりっ」
「どうですかね、ここはアレンジの方を酒入りにしては?」
「いいかもいいかもー!」


どうやら酒が好きらしいななおとなまえは、これはどこのブランデーだいつのものだと瓶をくるくる回しながら詮索する。


「あ、あのっ!皆さんっ」
「「「「へ?」」」」
「ケーキ作り、始まってますよ」


舞に言われて周りを見れば、すでに説明を始めたパティシエールの姿を見つけ、慌てて持ち場に戻った。
他のグループは既にボウルの中で泡立器をカシャカシャと鳴らしている。
遅れを取り戻すにも何から始めればいいのだろうか。


「まず、ボウルに卵と砂糖を入れて、軽く泡立つくらいまで混ぜるんです」
「さ、さすがです、佳乃さん」
「いえ、前に貼り出されてますので」


前に、と指差された方を向けば、いつの間にか黒板が大きな模造紙で覆われていた。


力を合わせて、美味しいノエルを作りましょう!


1.ボールに卵と砂糖を入れて軽く泡が立つくらいに卵をほぐしながら混ぜる。
2.ハンドミキサーで白くもったりするまで泡立てる。
3.ふるいにかけた薄力粉とココアを2.のボウルに数回に分けて加え、ゴムベラで切るように混ぜる。
4.別のボウルに牛乳とバターを入れてレンジでチン。
5.4.を3.のボウルに加えてしっかり混ぜれば生地の完成。
6.紙を敷いた鉄板に生地を流し平らにする。平らにしながら鉄板の底をポンポンと叩いて気泡を抜く。
7.生地を予熱しておいた1180度のオーブンで12、3分ほど焼く。
8.チョコレートクリーム作り。溶かしたチョコレートに生クリームと砂糖を加えて混ぜ合わせる。
9.焼き上がった生地を鉄板から外し、ラップをピッタリかけて乾燥しないように冷ます。
10.生地の焼き面を綺麗に剥がし、チョコレートクリームを巻き始め厚め・巻き終わり薄めに塗り、くるくる巻く。
11. 巻き終わった生地をラップでぎゅっと包み、巻き終わりを下にして冷蔵庫で冷やす。

〜休憩〜

12.冷えたら両端を切り落とす。片方は斜めに切って、ノエルの上に乗せる切り株に。
13. チョコレートクリームを全体に塗ってから切り株を乗せて、切り株にもクリームを塗る。
14.表面にフォークで模様をつけ、全体にココアを降り、お好みのフルーツやオーナメントで飾りつけすれば完成!



模造紙にはブッシュ・ド・ノエル完成までの道筋が示されている。
早速ボウルの中に割り入れた卵と砂糖を周囲のグループに負けじとカシャカシャとかき混ぜていく。
主婦組を始め、それなりに料理をした経験があれば卵を混ぜるなんて普通のことなのに、ケーキを作ってるというだけで全く別の行程に思えるのは何故だろう。
2台分のノエルを作るということで手分けしながら2つのボウルと向き合えば、お互い初対面ながらも段々と連帯感が生まれてくる。
お菓子作りが好きなそよと、何かと手際のいい佳乃に引っ張られ、グループの作業は着々と進んでいく。


「え、さっきまで混ぜてたのに今度はハンドミキサー使うの?」
「なまえさん、お菓子作りにミキサーのきめ細かさは大事なんですよ」
「さすがそよちゃん!うちなんて、はじめさんに言われてやっとミキサー買ったばかりなのに」


ハンドミキサーを初めて使うなまえは、低速で2、3分と説明されたところをつまみを間違えたのかけたたましい音を立ててボウルの中身を飛び散らした。
そんなミスも、手の空いた者がふきんで拭ってやれば跡形もない。
それでも、その光景を斎藤が見ようものなら「貸してみろ」とミキサーを奪った挙句全部自分でしてしまって「まったくあんたは…」とまた変なレッテルを貼られてしまうのだろう。
なんでも出来る恋人に劣等感が微塵もないわけではないけれど、たまには自分の家庭的なところを見せてあげたい。きっと彼は顔を真っ赤にして隠せてない照れ隠しをするんだ。
とはいえ早速ミスしてしまった手前、ここがケーキ教室で良かったとハンドミキサーの扱いに戸惑いつつなまえはふうと息を吐いた。


「はじめさんっていうんですか、恋人の方?」
「うん。ちょっと…いろんな意味で人間離れしてるんだけどイケメンくんでね」
「はじめ、ねぇ」


ありふれた名前なのかもしれない。若干名が同じ名前の知り合いを思い浮かべ、そのどれもがなまえが照れ臭そうに言う通り顔は整っている。
今となっては懐かしい記憶なのだけれども。
人間離れしているというのが気になるところだが、ボウルにふるいの網目からココアと薄力粉が雪のように落ちてくるのを眺めていればそれも忘れてしまう。
そういえば、今年のクリスマスはホワイトクリスマスになるのだろうか。
今日の空も晴れ渡っていて、風は冷たいのになかなか冬景色を見られそうになかった。

ゴムベラで切るように混ぜる、この行程がなかなか力がいる。
薄力粉の重みでもったりとした生地は腕まくりをしてぐいぐいと混ぜ込んでいく。
力を入れようとすればするほど前のめりになって、ゴムベラを握っていた佳乃の顔が僅かに歪んだ。
お腹が調理台に当たってしまうのだ。


「……ふぅ」
「佳乃さん、大丈夫ですか?赤ちゃんもいますし、少し座った方が」
「はい、すみませんがそうさせてもらいます」


身重の佳乃は椅子に腰掛けて混ぜ合わされている生地のタネを眺めた。
秘書として働いているのだから体力には自信があったが、子どもをお腹の中で育てるのには随分体力を使う。
参加すると決めた以上途中で作業を投げ出したくないのだけれど、今更「本当に大丈夫なのか?」と車の中で問いかけてきた土方を軽くあしらったことに若干後悔している。
過保護過ぎて嫌気が差すことはもちろんあるのだけれど、それも自分のことを思うあまりなのだ。
自分が秘書として土方や他の人間を注意深く見るように、彼の目はきっと自分に向けられている。
帰ったら少しぐらい過保護に付き合ってあげようか、綺麗に混ざった生地を喜ぶ今日限りの戦友たちに混ざって口元を緩めた。

レンジで温めた牛乳とバターをボウルに混ぜてまたぐいぐいと混ぜれば生地は完成。
優しい黄色の生地はツヤツヤと蛍光灯に当たって光っている。
これを鉄板に流し込んで平らにして、オーブンの中でオレンジ色の熱に晒せば黄色の生地はふわふわの大きなスポンジに生まれ変わる。
まだ熱い生地をつっつけば、指先に感じる熱。
それを閉じ込めるようにラップで包んだ。
焼き始めと同時にスタートしたチョコレートクリーム作りも生地が冷めた頃には2台分たっぷりと出来上がっていた。
このクリームを塗ってくるくる巻けば、クリスマスの王道のノエルにまた一歩近づく。


「いいですか、皆さん。あまり一気に巻かないでください。ゆっくりですよ、ゆっくり」


デモンストレーションにとパティシエールが生地を巻いていく様はさすがプロの腕前だ。
ノエルといったらこの行程が一番大事といっても過言ではなく、それに臨む舞はごくりと唾を飲んだ。
ゆっくり慎重に、ゆっくり慎重に。
頭の中で呟きながら手前の生地を浮かせると端っこを慎重に巻き込んでいく。
巻き始めのクリームの量はがっつりと塗られていて、形を整えながら進めていく舞の指にクリームが飛び出してくる。

『舞ちゃん、クリームついてるよ。僕が取ってあげる!』
『ちょっ、総ちゃん!?』

そう言って手を掴んだ沖田は、取ると言ったのに何故かその手を口元に運んでいく。
チロリと覗かせた赤い舌が拒む隙もなく指を這い、余すところなく舐め上げる仕草は……
なんて妄想をしかけて舞はぶるぶると頭を振った。
どういうつもりなのか、思わせぶりな態度を平気で取るのが沖田で、それに恋をしてしまった自分がいる。
今はケーキ作りに集中するんだ、そう自分に言い聞かせれば、頭の中で笑っていた沖田の像が沖田探偵事務所で優雅に寝そべる黒猫のエリーに姿を変えた。これはこれで複雑である。

なんとかそれらしく巻き上がった生地はラップで包まれてCグループと書かれたトレーに乗せられ冷蔵庫の扉の中に大事にしまわれた。
ノンストップで調理台の周りを駆け回っていた6人は、休憩時間のアナウンスと共にペタリと椅子に座り込んで安堵のため息を吐いた。


「お菓子作りって、こんなに疲れるのね」
「でも、ななおさんは主婦ですし毎日お料理してるんでしょう?そっちの方が大変そうです」
「んー、でもさすがに慣れると手抜きになるけどねっ!旦那には内緒だけど」


慣れた家事と慣れないお菓子作りじゃ大違いだとななおは笑った。
それに、毎日朝から晩まで働いて疲れた顔で帰ってくる夫の山崎の方が遥かに大変だと思う。
彼の場合、元々責任感が強く自分のことは後回しにしてしまうのだから尚更。
今頃、一人で過ごす休日を満喫しているだろうか、ソファーで静かに本を読む姿が目に浮かぶ。
世間が浮かれムードに包まれるクリスマスぐらい、日々の疲れを癒してあげたい。
休憩時間に合わせて出された紅茶を飲みながら、今年のクリスマスのテーマはおもてなしと決めた。
旦那のために嫁は頑張りますと意気込めば、遠く離れた場所で誰かさんが小さくくしゃみした。

さて、休憩時間が終わって冷蔵庫で寝かせておいた生地を取り出せば、あんなにふかふかだった生地がしっとりと、また、ちゃんとくるくる巻かれた状態で調理台に戻ってくる。
2台のノエルの両端をそれぞれ切り落とせば切り口はぐるぐると渦巻いていた。
ここからはクリームを塗ったり飾りをつけたりの時間で、どのグループもわいわいがやがやと楽しそうにノエルを飾り立てていく。
表面に塗られたクリームにフォークですーっと筋を付けながら、上手くいかずうねった線が以前の不知火の髪の毛みたいだと飛鳥は苦笑した。
それこそよりを戻す前は彼の自由奔放な性格に苦しんだ時期もあったけれど、不知火のためにとケーキ作りを学んでいる自分も、些細なことから不知火を思い出してしまう自分も、結局のところ不知火が好きで好きで堪らないのだ。
朝に弱い彼はあの性格に似合わずあどけない寝顔を見せてくれる。だいぶ短くなった癖っ毛を今朝も内緒で撫でてきたところだ。
手作りケーキを見せたらどんな顔をするだろう、どんな言葉をくれるだろう。
不知火を思い出しながらフォークを動かせば、心なしかまた線がうねった気がした。



「できた?」
「…よしっ、できた!完成ですよ!」


Merry christmas!と書かれたチョコの板を置けば、6人で作ったノエルが誇らしげに並んだ。
どちらも見た目は同じものに仕上がったけれど、1台は普通のノエル、もう1台は序盤に発掘されたブランデーがななおとそよの悪戯な笑みによってしこたま投入されている。
それにスマホのカメラを向けながら少し早いクリスマス気分を味わう。
画面を覗く表情は、一生懸命作ったケーキの生地やチョコレートクリームのように甘い。


「あのっ!」
「どうかしました、なまえさん?」
「みんなで写メ撮りません?せっかくだし、記念だし」


照れ臭そうに笑ったなまえにつられて、うんうんと頷く他のメンバーたちにも笑顔が咲きこぼれた。
どうやら他のグループも全員で写真を残そうとしているらしく、回ってきたスタッフに頼めば快く承諾してくれた。


「いきますよー、はい、チーズ!」


パシャリ。思い出が小さな箱の中に刻まれる。
その場で明るさの調整や編集を加えていく舞の手元を覗き込めば、高揚した気分通り満面の笑みだったり、穏やかな笑みを浮かべるグループが2台のノエルと共に鮮やかに写っていた。

運ばれてきた皿とナイフとフォーク、出来上がったばかりのノエルが早速切り分けられるのは寂しくもあり、手作りのケーキの味はどんなものかドキドキする。
パクリと口に入れれば、チョコレートクリームの甘みがしっとりとした生地と混ざって頬が溶けてしまいそう。
それと同時に舌の上に感じた柔らかさは手作りならではの温もりなのかもしれない。
ここにいる6人全員が、クリスマス本番は自分の力でケーキを作るのだ。
この幸せを、今度は大切な人と噛みしめるのだ。
ちゃんと作れるかしら、いいえ、作れたじゃないか。
だから大丈夫、きっといいクリスマスに出来るはずと笑い合った表情の奥には皆同じ思いを抱いていたのかもしれない。


「一緒に作ってくれて、ありがとうございました」


自然と零れた感謝の気持ちが、背中を押してくれる。
この会場を出た先にある、大切な人と過ごす大切な時間に向かってきっと背中を押し合うんだ。

さて、楽しいケーキ教室も閉幕を迎える。
壇上に上がったパティシエールがまた恭しく頭を下げた。
ここに紡がれる言葉は、クリスマスとケーキにまつわるお話への近道だ。


「皆様それぞれにクリスマスの過ごし方があると思いますが、手作りのケーキがクリスマスをより一層素敵な時間にする手助けになればと思います。それでは皆様、

ケーキと共に素敵なクリスマスをお過ごしくださいませ……


次からの3話はクリスマス番外編『A Heart for You〜ジェノワーズ』

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MATERIAL: blancbox / web*citron


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