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斎藤さんのシンデレラ


あるところに愛らしく気立てのよいシンデレラという娘がおりました。
両親と幸せに暮らしていましたが、お母様が急な病で亡くなりシンデレラは大変悲しみました。



*****



ある日、お父様が新しいお継母様と二人のお姉様を連れてお戻りになった。

「シンデレラ、このような者どもしか見つからなかったが、我慢しろ」
「おい風間、ふざけるんじゃねえ。なんで俺がお継母様なんだ(怒)」
「うるさい。他にキャストがいなかったのだ。致し方なかろう。俺とて本来は貴様と夫婦役なんぞ、御免蒙りたいところだ(怒)」
「ちょっと、土方さんが意地悪な継母なのは解るけど、なんで僕が意地悪なお姉様なのさ?」
「ああ? なんか言いやがったか、総司」
「総司は元から意地悪なんだからいいじゃん。俺が意地悪な下の姉って方が、納得いかねえよ」
「平助は消去法でしょ。どう見ても王子様ってガラじゃないし」
「全くゴチャゴチャとうるさい人間どもだ。俺は里に帰らねばならん。お前らのくだらん遊戯に付き合っている暇はない」
「だったら、初めっから出て来んじゃねえよ。とっとと鬼の里に帰りやがれ」
「ふん、土方、次に相まみえる時を覚えておけ。では、シンデレラの事は貴様らに任せたぞ」
「えっ、風間、逃げる気かよ?」
「俺の出番が終わっただけだ。貴様らだけで、せいぜい頑張るがよい」

お父様は鼻で笑って鬼の里へ帰って行ってしまわれた。
シンデレラは絶句して三人を凝視する。
突如現れた男達、もといお継母様と姉上様達を見つめて、言葉もなく呆然と立ち尽くした。

「で……取り敢えず、俺達は何をしたらいいんだ?」
「うーん、この子をいじめればいいんじゃないかな?」

総司が鼻の上に意地悪そうな皺を寄せると、平助がくくくっと笑う。

「それは、総司の得意分野じゃん」
「なんか言った平助? 斬られたいの?」

総司の右手が刀のつかにかかる。

「うへえ、刀に手えやるなよ、総司。一君じゃあるまいしっ!」
「あの……」

シンデレラがおずおずと口を挟む。

「皆さんは、えっと……、」
「ああ、勝手に盛り上がっちまってわりいな。あー、お前がシンデレラだな? えー、俺が今日からお前のお継母さんだ。この態度のでかいのと阿呆っぽいのが、お前の姉さん達だ」
「土方さん、ひでえ! てか、もっと凄まねえと駄目なんじゃねえの? 意地悪な継母なんだからさ」
「俺はそういうのは苦手なんだよ」

平助が言うと土方は眉間に皺を刻み、声を潜めた。
そんな二人を横目に総司がすまして言ってのける。

「じゃあさ、シンデレラちゃんは取り敢えず床拭きして、ごはん作ってよ。僕の洗濯物すごーく溜まってるから、それもやっといてくれない? 下帯もちゃんと手洗いしてよ。あと僕、乾燥機の匂い嫌いだから、ちゃんと太陽に干してね」
「総司、てめえ容赦ねえな」
「ごめんな、シンデレラ。お前に恨みがあるわけじゃねえんだけどさ、俺達そういう役回りだからさ。うまい飯たのむぜ♪」
「……が、頑張ります」
「まあ、よろしく頼む」
「は、はい」

トークについてゆけず、シンデレラは小さく返事をするしかなかった。


ある日シンデレラが朝食の後片付けをして、掃除機をかけていると総……上の姉がやってきた。

「ちょっとシンデレラ。僕の新しい下帯が一枚足りないんだけど、どこにやったの」
「下帯……ですか」
「明日は舞踏会なんだよ」
「舞踏会?」
「うん、お城の王子がお嫁さんを探してるんだってさ。どうせ一君だし、僕は別に興味ないんだけどね。まあ行くからには新しい下帯つけたいじゃない。何があるかわかんないし」

一君……?
新しい下帯が必要ないったい何があると言うのだろうか。
そこへ土方……ではなく継母がやってくる。

「総司、てめえ恥ってもんを知らねえのか? 下帯くらいてめえで洗いやがれ」
「いちいちうるさいよ、土方さん。せっかくやってくれる人がいるんだからいいじゃない」

下の姉、平助もやってきてシンデレラに説明した。

「なんだかさあ、国中のお嫁さん候補の若い女の子を集めて盛大に開かれる大イベントらしいぜ」

お嫁さん……?
女の子…………??
シンデレラの頭の中には様々な疑問が渦巻く。思わず掃除機のノズルを落としてしまい、ドカッと音を立てて土方の向こう脛に当たった。

「痛えなおい! てめえ、何しやがる!」
「あ、すすす、すみませんっ」
「弁慶の泣き所っつってな、脛は痛えんだよっ! ちったあ気をつけやがれ」
「別に彼女わざとじゃないのに、土方さんも結構意地悪だよね」

総司がくっくっと笑う。



その頃、城では。
王子が自室で剣の手入れをしているところへ大臣が入って来た。

「おう、さいと……じゃねえ、王子。明日のパーティーの事だがよ」
「…………」

パーティーの出席に難色を示す王子は返事をしない。

「なあ、王子よう。気が進まねえのは知ってるがそこはだな、こうスパッと割り切ってだな」
「新八、あんたの言いたい事はわかる。しかし俺はパーティーなどと言うものは好まぬ。ましてや会ったばかりの女子を結婚相手に選ぶなどしたくない」

王子は手入れの手を止めず、大臣を見もしない。

「だがよう、これは近藤さ……国王の決めた事なんだぜ?」
「む、それは……、」
「綺麗なお姉ちゃんが向こうからウヨウヨ寄って来てくれるってのによ、なんだってそんなに嫌なのかね? これだから色男ってえ奴は……ブツブツ……」
「何か言ったか、新八。よく聞こえぬが」
「い、いや、とにかくだな、これは任務だ。任務と思ってだな、ひとつ頼むぜ。斎……王子」

王子は端整な相貌を歪め、長い前髪を掻き上げながら溜め息をつく。

「国王がお決めになったのならば、従うしかあるまい……」


翌日、朝から風間家のウォークインクローゼットには男三人……もとい風間家のお継母様とお姉さまが集まっていた。
シンデレラは裾上げやウェストのサイズ直しの為にかり出されている。

「俺、何着てこうかな! あっ、こっちは土方さん向きだな。なんつーか、大人のドレスっつうか」

平助がイギリス飾りのついた、赤いビロードのドレスを土方に宛がう。
その手を振り払いながら土方が眉間に皺を寄せた。

「ああ? 俺も、行くのかよ?」
「当たり前じゃん、土方さんは俺らのお母さんなんだぜ? 俺にこのドレス、どうかな? シンデレラ、どお、どお?」
「平助……何、なり切ってんだ……」

あちらの鏡の前では総司が、色とりどりのドレスをとっかえひっかえ広げ胸に当てている。

「困ったなあ。どれも僕には似合い過ぎて決められないや。ねえシンデレラちゃん、どう思う?」
「総司……てめえもかよ……」

土方が遠い目をする。
総司の周りにはレースやフリルをふんだんに使った綺麗なドレスが沢山広がり、華やかな羽飾りのついた帽子もある。
シンデレラはうっとりと溜め息をついた。

「どれも素敵です……」
「やっぱりこれにしようかな。どう、似合う?」

総司が金の花模様のマントとダイヤモンドを散りばめた帯のついたドレスを手に取って胸に当てる。
シンデレラは総司に気づかれない程度に顔を引き攣らせた。

「と、とても、お似合いです」
「でしょ。あ、君は留守番だからね? 解ってるよね」
「……はい、」

冷たい一言がかけられ、シンデレラは俯いてしまう。



大騒ぎの挙句三人が出かけてしまうと、シンデレラは窓辺にもたれ遠くを眺めた。
遠いところにお城の塔が見える。
噂ではお城の王子様は大層素敵な方だとか。
一目だけでもいいから会いたい。
私もパーティーに行きたい……。
シンデレラの目から涙が一粒ポロリと零れた。

「おいおい、可愛いお嬢ちゃんに涙は似合わねえぜ?」

どこからか声が聞こえた。

「誰……?」

窓の下を覗きこむと、長身の男の人がシンデレラを見上げていた。

「あなたは……?」
「俺は、妖精のおばあさんだ。お前、城に行きてえんだろ?」
「…………、」
「まあちょっと、降りてこいよ」

シンデレラが降りて行くと、妖精はキラキラ光る綺麗な杖を差し出して見せた。

「舞踏会、俺が行かせてやるよ」
「え? ……でも、どうして、」
「俺は可愛い子が泣いてるのを黙って見てられねえ性分なんだよ。細けえことは気にすんな」

そう言ってカボチャを取り出すと魔法の杖で、コツコツコツとカボチャを三度叩いた。
するとそのカボチャがどんどん大きくなり、何と黄金の馬車になった。
シンデレラが驚き、そして次に愛らしく笑った。

「まあ、素敵な馬車! ありがとう、おばあさん!」
「おばあさんと呼ばれるのは、気に食わねえな。役は確かにおばあさんだがよ、実際俺はおばあさんどころか、女でもねえんだぜ?」
「あ、そうですよね、ごめんなさい。では、なんて?」
「左之でいいぜ」
「左之さん、ありがとう」
「こんなもんで驚くなよ。まだまだこれからだ」
「え?」
「馬車を引く馬がいるだろ?」

左之はどこから持ってきたのかネズミ捕りから六匹のハツカネズミを取り出すと、また魔法の杖で立派な白馬に、そして別のネズミ捕りの大きな灰色ネズミを立派な御者に変えた。
目を丸くして目の前の出来ごとに固唾をのんで見入っているシンデレラの頭を、左之の大きな手が撫でる。

「これで城へ行く支度は出来たぜ?」
「夢みたい……嬉しいです。……でもこの服では、」
「おっといけねえ、そうだった」

左之の杖がもう一度振られると、みすぼらしかったシンデレラの服は、たちまち青みがかった純白の美しいドレスに変わる。
それは月明かりを受けてキラキラと輝き、シンデレラの愛らしさを一層引き立てた。
髪もいつのまにか綺麗に結いあげられていて、小さな小さなティアラが飾られている。

「嘘……、嘘みたい! 私がこんな綺麗なドレスを……、」

シンデレラはその場でくるくると回ってみた。
心がドキドキと高鳴る。
これでお城へ行って王子様に会える。

「いや、思った以上だな」

満足そうに目を細めた左之がシンデレラの肩に腕を回してきた。

「なあ、城なんて行かねえでよ、このまま俺と」
「……え、」
「なーんてな、冗談だ。そんな顔するんじゃねえよ」

一瞬妖艶な目つきでシンデレラを見た左之だったが、すぐに肩を離す。

「時間もねえことだし、さっさと行けよ。おっと、もう一つ忘れるところだったぜ」

差し出した手の上には、キラキラ光る小さなガラスの靴が載っていた。

「可愛い靴」
「言っとくがな、俺の魔法は夜の十二時には解けちまうんだ。それだけ注意して楽しんでこいよ」
「はい!」



お城の大広間では着飾った娘達が王子の気を引こうと戦々恐々としていた。
王子は無表情で立っている。

「おう、斎藤。御苦労だな」
「ふ、副長……。そのお姿は、」
「今は副長じゃねえよ」
「…………、」
「なあ一君。俺のドレスどう? 似合ってる?」

平助が満面の笑みではじめ王子の腕を掴んだ。振り払おうとしても調子に乗った平助は「なあなあ、俺をお嫁さんに選んでくれよ」とふざけてしつこく纏いつく。

チャッ。

王子が無言で剣のつかに手をかけ鯉口を切った。

「じょ……冗談だよ! おっかねえなあ。マジになるなよ。全く総司も一君も……」
「ねえ、一君? 君がこんな茶番劇を演じるなんて、すごく興味深いよね」
「総司。俺は好きでこのようなことをしているわけではない」

含み笑いをする総司に斎藤は一瞬だけ目をやり、すぐに逸らした。
次の瞬間、その深蒼の瞳が見開かれる。

「一君?」
「失礼する」

風間家の面々を残し、彼はその場を後にしてスタスタと歩いて行ってしまった。

「ちょっと一君、どこ行くんだよ?」
「あ、ねえねえ、あそこ見て。あれ、シンデレラちゃんじゃない?」
「なんだと? あいつ、家で待ってろと言ったのに来やがったのか」



豪華な馬車を降り立ちお城に到着したものの、このような場に慣れていないシンデレラはどうしてよいかわからずに、バルコニーに独り佇んでいた。
目立たない場所にいるにも関わらず、その姿は月明かりに照らされ眩しいほどの美しさだった。

「娘……、あんたは名を何と言う?」

突然背にかけられた声に驚いて振り向く。
そこにはこれまで見た事もないような綺麗な男の人が立っていた。
光沢のある美しい黒を基調とした衣裳に、紫黒の長い髪。
整った容姿に印象的な蒼い瞳。
静かに凪いだ海ような、吸い込まれそうに澄んだ碧玉色の瞳がシンデレラをじっと見つめている。

「あ、あの、あなたは……」
「ああ、すまぬ。俺の名は斎藤一だ。この城の、その……王子だ」
「あなたが王子様……、」

目を逸らせずに見つめ返すと、王子は目のふちを僅かに染めてシンデレラの細い手を取った。

「そ、その、もしも迷惑でなければ、俺と踊ってはくれまいか」
「はい」

王子の手がシンデレラの細腰に回される。

「でも私、ダンスはあまり……」
「案ずるな。俺もだ」

王子が優しく微笑む。
広間には戻らず広いバルコニーの片隅の薄暗がりで、抱き合うようにして二人はただ揺れていた。
大広間で新八が青くなって王子を探していたのも知らずに。

「あんたは美しい」
「え、そんな」
「俺はこのようなパーティーには全く興味がなかったのだが、今日は……出席してよかったと思う」

彼がシンデレラにそっと顔を寄せ、瞳の奥を覗きこんだ。

「一目ぼれと言う言葉があるが、あんたと出会うまでは信じていなかった」
「王子様……、」
「名で呼んでくれぬか」
「さ、斎藤様……」
「はじめ、だ」
「はじめさん、」
「俺はあんたのことを……、」

腰に回した腕に力を込め、シンデレラの唇に自分の唇を寄せる。
あと数センチの距離で触れそうなその時。


カーーーーン、カーーーーン…………。


「あ……っ」

十二時を告げる鐘の音が二人を無情に引き裂いた。
夢のようなひとときに時間をすっかり忘れていたシンデレラは、焦って王子の手を振りほどく。

「ご、ごめんなさいっ」
「シンデレラ、待て」

走りだそうとした彼女を王子の腕が捉えかけるが、彼女は逃れて階段を駆け下りていく。

「シンデレラ!」

背中に聞こえる切なく苦しげな声に心を痛めながら、ひたすらに駆けた。
その場に残された王子はわけもわからずに立ち尽くす。
ふと見ると長い階段の中ほどにキラキラと光るものが落ちていた。
ゆっくりと近づいて拾い上げると、それはガラスの小さな靴だった。

「シンデレラ……!」



シンデレラの生活は元に戻った。
目に見えて落ち込む彼女の様子を、意地悪な継母と姉達はこっそり覗いていた。

「シンデレラ、可哀想だな、」
「まあ、そうだな。だが仕方ねえ。こればっかりは。こりゃそういう話なんだからな」
「二人とも、何を同情してんのさ、馬鹿みたい。ちょっと、シンデレラちゃん、僕の下帯」
「だから、それぐらいてめえでやれっつってんだろ、総司!」
「やだよ、面倒くさい」

そこへ訪問者がやってくる。
ドアがコツコツと叩かれた。

「よう、誰かいねえか?」
「土方さん、誰か来たよ」
「おう、新八じゃねえか」
「土方さん、邪魔するぜ。……って違う違う。俺は大臣様なんだぜ。大臣様って呼んでくれよ」
「あ? お前が大臣だと? ここもろくな国じゃねえな」
「聞き捨てならねえな、土方さん。国王は近藤さんだぜ? 出番はねえけどよ」
「…………」
「っと、あんたと無駄話しにきたわけじゃねえんだ。ここにシンデレラちゃん、いるだろ?」
「ああ、いるが?」
「呼んでくれよ」

呼ばれてきたシンデレラの目の前に、新八が恭しくガラスの靴を差し出した。

「おう、シンデレラちゃん。これを履いてみてくれねえか?」
「これは……、」

あの夜、シンデレラが落としてきてしまったガラスの靴だった。
シンデレラの心にあの夜のことが鮮明に蘇る。
苦しげな声で私の名を呼んだはじめさん。
はじめさん、ごめんなさい……。
彼は今どうしているのだろう。
彼女が切ない物思いに胸を塞がれていると、そこへひょっこりと左之が入ってくる。

「おい、新八、そんな面倒なことしなくても、そいつは確かにシンデレラのだぜ。俺がやったんだから間違いねえ」
「お? なんだ、左之かよ。そりゃわかってるよ。わかっててもな、一応段取りってもんがあるんだよ」
「そうだよ。左之さんは黙っててよ。僕も履いてみるんだから。ってあれ、左之さんがなんでここにいるわけ? おばあさんの出番は終わってるんじゃないの?」
「いいだろ別に、いつ出てきたってよ。それより総司、お前のでかい足でそれが履けるわけねえだろ。割れちまうぜ」

やる気満々の総司を見て、左之が呆れた声を上げた。

「まあ、とにかく履いてみてくれよ、シンデレラちゃん。城でさいと……王子が待ってるんだからよ。早いとこ、サクッと」

新八がシンデレラに椅子に座るように促す。

「だからさ、これって順番は僕からでしょ?」

総司が靴を手に取ると、新八が奪い返す。

「順番なんかどうでもいいんだってばよ。これは、ただのお約束なんだからよ」
「ええっ! でも僕だって履いてみたいし!」
「てめえら、うるせえ! いい加減にしやがれ!」

ワイワイいいながら靴を奪い合っている新八と総司を、青筋を立てて怒鳴りつける土方。
左之は呆れかえり、シンデレラは言葉もなくいたたまれないような気持ちになった。
その時、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしていたガラスの靴が、奪い合う手からぽろりと離れ床に落ちた。


パリーーーーン……ッ


「あっ」

「おっ?」

「おいっ」

「あーあ、」

ガラスの靴は床の上に粉々にくだけ、皆のため息が漏れる。
ふと窓の外を見た平助が声を上げた。

「新八っつぁん。もう他にどっか、回って来たの?」
「いや? そこはそれ、一直線にここへだな。あああ、それよりどうするんだよ。こいつが割れちまったら……、」

新八の眉が下がる。

「てか、外の木のとこに誰かいるけど……あれ? シンデレラがなんで外にいるんだ?」



シンデレラは平助よりも早く斎藤の姿に気づいていた。
室内の喧騒から逃れ窓の外を眺めていた時、外の木の陰に向こうむきに立つ後ろ姿が目に入ったのだ。
陽光を受けて艶やかに光る長い髪。
すらりとした立ち姿、あれは……。
思わず家を飛び出した。

「はじめさんっ!」
「シンデレラ!」

すぐに気づいて振り返った斎藤が、駆け寄って来たシンデレラを抱き締める。

「どうして、ここに?」
「新八の帰りを待ち切れなかった」
「ガラスの靴が、割れてしまったんです」
「構わぬ。あのようなものがなくとも、俺があんたを見間違う筈がないだろう?」
「はじめさん……会いたかった」
「俺もだ」

二人はあの夜出来なかった口づけを交わす。
互いの身体を強く抱き締め合い、それは長く深い口づけだった。

「シンデレラ、あんたを好いている」
「私もです」

残された五人は窓に鈴なりになってその光景を見ていた。

「斎藤のやつ、なかなかやるじゃねえか」
「一君、まじかよ? いつのまにシンデレラと」
「平助。お前、城に行ったのに知らなかったのか?」
「なんだよ斎藤のやつ、来ちまったのかよ。大臣の俺の出番が削られちまうじゃねえか、畜生おぉぉ」
「ふーん、一君があの子とね。まあいいんじゃないの?」



……その時。五人の背後から凄まじい殺気が放たれた。

「何も、よくはないぞ」

皆が同時に振り返る。
そこには正しく鬼の形相をした風間の姿が。

「風間、てめえ。どこから降って湧きやがった」
「俺の娘に脆弱な人間との結婚など、許した覚えはない」

メラメラと瞳に怒りを燃え立たせた風間を全員で羽交い絞めにし、土方が声を張り上げる。

「斎藤! 逃げろ!」

シンデレラを抱いたままチラリとそちらを見遣た斎藤は、全てを理解してふっと笑いながら彼女に問うてみる。

「俺と共に行ってくれるか?」
「はい!」

微笑んだ斎藤は風間に見せつけるようにもう一度唇に触れる。

「風間、シンデレラはもらってゆくが悪く思うな。必ず幸せにする故。副長、後の事はお任せします」
「おう、早く行け」
「貴様! 人間の分際で俺の娘を……!」

ギリギリと歯噛みをする風間に不敵な笑みを向け、シンデレラを抱き上げて腕の中に包み込むと、斎藤は白馬を駆りどこまでも遠くまで駆けて行った。
シンデレラはこの瞬間、今まで生きてきた中で一番幸せだなと思った。



おしまい。





2013.06.16


▼眞希様

この度は三万打企画への参加ありがとうございました。
おとぎ話な斎藤さんというリクエストをいただき、当初赤ずきんを予定していました。
しかし、気がつけばシンデレラになっていました(笑)
一君を王子様に!王子様と言えば王道シンデレラ!というわけで、このような感じになりましたが、いかがでしょうか。
オールキャストになってしまい、はじめ王子よりも寧ろ意地悪な継母とお姉さま達の方が濃い扱いになってしまったと言う…orz←元々シンデレラのお話って王子様の出番少ないんですね(涙)しかも、かなりのキャラ崩壊を起こしていると言う…orz
はじめ王子の出番を増やす為に最後の方は意味不明な捏造をワハハハハハ〜
ついでなのでチー様にもお越しいただいて、ワヤワヤな感じに。設定もなんだかワケワカメになっております。
私が斎藤さん以外を扱わない理由もこれでお解りいただけるかと。←開き直り?
でもおとぎ話とても楽しかったです。字数が恐ろしい事になりましたが、このようなものでよろしければ、どうぞ受け取ってくださいませ。
この度はリクエストありがとうございました。

aoi




MATERIAL: SUBTLE PATTERNS / egg*station

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