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03


「斎藤君っ、ねえ、待って!」

彼女が焦ったように俺から逃れようとする。
その分だけ、俺は腕に力を込めた。

「逃がさん。…何故気持ちがあるセックスを拒む、答えろ」
「…それは、」
「答えろ。さもなくば、このまま抱くぞ」
「だっ、だめ、それは、だめ!」

その明らかな拒絶に気分は一層沈んだが、攻撃の手は緩めなかった。

「ならば答えろ」

彼女の身体を離し、真正面からその目を覗き込む。
しばし視線を泳がせた彼女は、やがて諦めたように溜息を吐いた。

「…恋愛は、したくないの」

俯き気味に、ぽつりと零された言葉。

「恋愛を、したくないのよ。でも、一人じゃ寂しい夜もあるでしょ。だから、適当に抱かれるの。割り切ってる人とだけ、ね」
「…何故、愛情を拒む」

薄暗い照明の下、彼女は悲しげに笑った。

「…終わりが恐いから、かな」
「終わり?」
「うん。いずれ訪れる終わりがね、嫌なの。だったら、最初からない方がいいかなって」

合点が、いったと思った。

「故に、俺とも、」
「うん。セフレでいいなら、なるよ。でも斎藤君は、そういうの嫌いでしょう?」
「…嫌い、だな」
「だから断ったの」

俺は、抱いた庇護欲の理由を知った。
やはり彼女は、傷付いていたのだ。

「あんたとセフレになりたいわけではない。あんたと付き合いたいと、そう言っている」
「うんだからね、話聞いてたでしょ?」
「聞いた。聞いたが、それが何だ」
「え?」

そしてそんな彼女を、俺は逃せない。

「失うのが恐いから、恋愛をするのは嫌だ。そういうことだな?」
「そう、だから、」
「しかしそれはあんたの都合だ。俺には関係ない」
「……は?」

手を伸ばし、彼女のほっそりとした顎を掴む。
彼女は、唖然とした様子で俺を見ていた。

「好きなだけ拒めばいい。好きなだけ一人でいればいい。だが俺はあんたを愛している」

掴んだ顎を引き、顔を寄せる。
漆黒の瞳は、不安定に揺らめいていた。

「故に俺は勝手にあんたを愛す。あんたが死ぬまで愛してやる。その時になって初めて、あんたは永遠を知るだろう」

彼女は、俺が何を言っているのか分からないという顔をした。
無理もない。
言っている本人が、理解出来ていないのだから。

「終わりは来ないと言っても、今のあんたは信じぬだろう。ならば信じずともよい。死ぬその瞬間に、あんたは俺が正しかったことを知るのだ」
「……ねえ、おかしいよ、それ」

混乱しきった彼女が偶然選んだ単語に、俺は笑った。

「先刻言ったはずだ。あんたも俺もおかしい、と。故にそれは今問題にするべき点ではない」
「だからって、ねえ、本当に、」

いつも、客のクレームを見事に収めるあの手腕はどこに行ったのか。
彼女の言葉は的を射ず、それどころか文にすらなっていない。

「…諦めたらどうだ、なまえ」

初めて口にした名に、彼女の肩が揺れる。

「…な、にを…?」
「諦めて俺のものになれと言っている」

唇が触れ合う手前、瞳を覗き込んだまま囁きかける。
その目を見て、俺は確信していた。

「根比べをしても構わんが、俺はしつこいぞ」

彼女も俺を好いている、と。

「それ、自慢げに言うこと…?」

故に、俺を拒絶したのだ、と。

「この場合に限って言えば長所だろう。あんたにとっても」
「どういう意味」

俺を見る目が、少しずつ熱に浮かされたように蕩け始める。
それでもまだ強がる彼女に、笑いが込み上げた。

「もう黙れ。あんたはこうして、しつこい俺に一生愛されていればいい」
「だから、どうしてそん、」

強行突破。
俺は最後の3センチを一息に詰め、その唇を奪った。


「…二度と、俺以外の誰にも抱かせぬ。覚悟しておけ」




一生をかけたプロポーズ
- あんたが死ぬその日まで、口説き続けてやる-




相互記念としてaoi様に捧げます。
これからも、末長くよろしくお願いします。



▼城里ユア様より相互記念に頂きました。もう、もう、大好きです、こういう一君!!初めは悶々としていた彼のネジがぶっ飛んで、攻めに転向からの強引なプロポーズ!!ヒャー!!悶絶です。サプライズで贈ってくださったので感激もひとしお、嬉し過ぎるaoiです。
ユアさん、この度は本当にありがとうございました。こちらこそこれからも末永く仲良くしてくださいね( *´艸`)

aoi 2014/09/21




MATERIAL: SUBTLE PATTERNS / egg*station

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