朱嘆の華しゅたんのはな 永遠の恋とわのこい朱嘆の華 第一章1
───どうして。
あたしは道を歩いていた。
雪に埋もれてたけど、コンクリートで舗装された、しっかりした道を。
───そうだ。
…あたし、道端の水路に落ちたんだ。
強風にあおられて川に落ちて……。
でも、あんな氷の張った冷たい川なのに、冷たいなんて感じなかった。
ただ、何かに吸い込まれたような感じがして───
何だか、とても ねじれた感じがしたのを憶えている。
その前に何か…
ああ、水路に落ちる直前、空に広がる陸地を見たんだ。
あれは蜃気楼なんかじゃない。
ぽっかりと空に開いた、言葉では表せない様な なんとも妙な穴から、捻くれた大地が覗いていたんだ。
そしてここは───、
あたしは今、岩場に倒れこむ様にして寝そべっていた。
膝から下は水に浸かり、その水は 絶えず岩場に打ちつけては崩れている。
『ここ、どこ…?』
起き上がって、脚を水から引き出す。
感覚がないくらいに、とても冷えていた。
ツギハギだらけのジーパンは、所々凍りついて脚にペットリと着いて離れない。
靴下は脱げていて、指先は信じられない程 真っ赤になっている。
薄いコートも 片袖がビリビリに失くなっていて、泥だらけだった。
セーターは水を多く含んでとても重い。
鞄なんてどこにもなく、身体中が傷だらけで血が出ていた。
『ぅう…っ』
呻きながら 重い身体を何とか立ち上げて、岩肌に寄りかかりながら、あても無いのにフラフラ歩き出す。
水の向こう側は霞んでいて見えない。潮の香りがするから、海なのだろう。
反対に、あたしが打ち上げられた岩は、こちらも上が見えない程高くそびえる山。ここはその中の一番下の、本当にほんの一部らしい。
───不安と絶望しかなかった。
何も分からない中で、信じられない様な環境に放り出されたことに対して、疑問が浮かぶこともなかった。
────なぜなら。
もう、わかってしまったのだから───。
ここは あたしのいた世界じゃない、と。