朱嘆の華しゅたんのはな 永遠の恋とわのこい
朱嘆の華 第五章1




『あっつい……』

溜息と共に呟いた紗桜。
それに苦笑して、更夜も頷く。


『───そういえば……』

「?」

紗桜は、頭から被っている布をパタパタとはためかせ、じっと更夜を見つめて訊ねた。


『更夜は……暑くないの? その……皮甲(よろい)が』

ああ、と更夜は笑う。

「暑いね、確かに。……でも、まあ我慢するよ」


『すごいねぇ……それで、500回くらいの夏を過ごしてきたんだ……』

ひどく感心した様子の紗桜は、頬に滴れた汗を拭って言った。

「まあ……うん。───慣れ、かな」

『ふぅん……』



なんだか……二人とも元気ないですね

うーん……。暑いんだろうね、やっぱり

あなたは?

あ……暑いけど……;


もさもさの羽毛(?)でいっぱいのろくたは、確かに暑いのだろう。

比較的短毛の駿星は、毛が短くて良かった〜、などと思うのであった・・・








『……水、汲んでくるね』


やはり暑いので、今日は大きめの洞窟に入り、暑さをしのいでいた。



立ち上がった紗桜を見上げ、更夜は少し頷く。


「……気をつけて」

うん、と紗桜は微笑み、甕を持って洞窟を出た。




『はぁ〜……』


沢の水は、なんて気持ち良いのだろう。


・沢が近くにある
・しかもその水は綺麗

といった条件も満たす洞窟へ、少し長い時間をかけて移動しただけあった。



水をいっぱいに入れた甕を、沢の淵に置いて、紗桜は大きく伸びをした。


洞窟を出て、少し下った場所がここだ。

ここからは洞窟の入り口が見えるので、べつに危険ではないのだろう。


紗桜はうんうんと頷き、甕を持ち上げようとして、ふとその手を止めた。

───更夜はやっぱり暑そうだ。彼があまり外に出なくても良いように、枝も少し拾っておこうか。


洞窟の方をちらりと見てから、紗桜は近くの枝を拾いはじめた───。






『……あれ? なんか、結構拾えたなぁ』

抱えるほどの枝を見て、紗桜は嬉しそうに破顔する。
あれからあまり時間は経っていないはずだが、それなりに沢山の枝は拾えた。

そろそろ帰らねば、更夜が心配してしまう。


甕を置いた場所に戻ろうと、ゆっくり歩き出した時だった。

───ふわり、と嫌な風が吹いた。


『……?』

紗桜は一度空を見上げ、ふと後ろを振り返った。


『───っ!!』

驚愕で、紗桜の腕から枝がバラバラと落ちる。



大きな蛇のような、生き物。

とぐろを巻いて、じっとこちらを見ている。



紗桜は、静かに一歩、後退った。

シュル、と蛇が音を立てる。


ズズッ、とそれがゆっくり動いた気がした。




───それが妖魔だとは、分かっていた。

今まで会った生き物は、みんな敵意など示さなかった。
甘えていて、むしろ可愛かった。



───更夜に、何度も言われていたではなかったか……?

いかなる時も、油断をしてはいけない、と。




馬鹿だ。本当に、なんて事をしている。


こうしてまた、彼に迷惑をかけてしまうのだろうか。

───駄目だ。そんなこと、絶対に駄目だ。



蛇のような妖魔から目を逸らさないまま、紗桜は洞窟とは反対の方へ、ゆっくりと後退って行った。







3/2.up
35/37
   |