朱嘆の華しゅたんのはな 永遠の恋とわのこい朱嘆の華 第四章6
「……さあ、どうするのかな」
『うぅ〜ん……。とりあえず呼んでみますかね』
「そうですか」
少しおどけた風に言った紗桜に微笑み、更夜は頭上を振り仰いだ。
───相変わらず、二頭の獣はちりばめた星の中を駆け回っている。
『……おうい天馬ちゃーん、遊んでな───はい、何でしょう??=c…はっっや(早)!!』
「おやおや……」
紗桜が呼んだ瞬間に地に降り立った天馬。
あんぐりと口を開ける紗桜、溜息まじりに苦笑する更夜。
そして───獲物を逃してガーンとするろくた。
「……ほら、ろくたも降りておいで」
静かな声で更夜が呼ぶと、ろくたは大人しくそれに従い、更夜の横に降り立って翼をたたむ。
『あのぅ〜、何で追いかけっこしてらしたんですか?』
それが酷いのです。理不尽な言いがかりをつけて追いかけて来て……
『理不尽な言いがかり??』
眉を顰めて紗桜が訊くと、ろくたは慌てて頭を振った。
違う、紗桜。そんなんじゃない。ただ、"お前は妖魔なのか妖獣なのか"って聞き出してただけで……;
嘴をごにょごにょと擦るろくたの背を、更夜はゆっくりと撫でつける。
「まあ、相手が嫌がるほど聞きたがるろくたも悪いし、尋ねられただけでバタバタと逃げる天馬も悪い」
尋ねられただけ、ではありません。拷問ですよ、あれは
小さく不満そうにボヤかれた 天馬の言葉。それを聞き取った更夜の瞳に、うっすらと光が宿った。
「……へえ、じゃあ天馬───」
『ごっ、ごめんなさい、更夜 ! ちょっと……あれよね、寝不足なんだよね、天馬は ! だからちょっとご機嫌悪くって……;』
「……いや。わたしも悪かった」
間に入って慌てる紗桜を見て、更夜もばつが悪そうに俯いた。
それを見て、天馬は密かに息をつく。
『と、とにかく……;夜中に追いかけっことかして、……あの、妖魔とか来ちゃったら困るから……』
「大丈夫だよ。その時は……天馬が追い払う」
ぽん、と更夜の手を置かれた天馬は、真っ青に───心の中では───なって声を上げた。
え゛っ!! ろくたじゃなくて わたしなんですかっ?!
「当たり前だろう……」
(なんか……ヤバイ。夜中に起こしちゃったから不機嫌なのかな……;更夜がSっぽい ;; )
だらだらと冷や汗を垂らし───こちらも心の中で───、ろくたはそんなことを思うのであった……。
そんなやりとりを見ていたのか見ていなかったのか、少し離れた岩に座っている紗桜は、ぽつりと呟いた。
『……スンセイ』
「え??」
『いいね、スンセイ』
「??」はい?∞どうしたの?
『───決めたの。天馬ちゃんの名前、駿星って。……どう?』
……素敵です//
『えっ本当?!じゃあ、これで良いの??』
ぱっと目を輝かせた紗桜に、ぱたぱたと頷いたのはろくただった。
もちろんっ。な、駿星!
なぜ貴様が答える。……というか“シュンセイ”ではなく“スンセイ”だが
くっ……口が回らなかっただけ……;
ふん……。あっ、もちろんそれで良いですよっ!!
『……質問無視しないでね;』
哀しそうに言った紗桜に、天馬はガバッと頭を垂れた。
すんまっせんしたー!
「……駿星。駿は優れた馬、っていう意味で、星は……この夜空?」
『うんっ。さっきの追いかけっこ見て……ああ綺麗だな、って思ってね……//』
にこりと笑う紗桜に、更夜も微笑んで頷く。
「うん、とても良い名だと思う。……良かったな、駿星」
はい…… !
『……じゃあ、そろそろ寝ようよ』
ふわ〜とあくびをして寝床に向かう紗桜。
「うん。夜があけてしまう」
更夜も頷いて歩き出し、ふと立ち止まった。
「……ねえ駿星」
……はい
更夜は手を駿星の頭上に乗せ、ぐいっと顔を近づけた。
「おれと勝負しよう」
ぅえっ?!!
いきなりの提案(?)に、ただびっくりする駿星。その話に割って入ったのは、やはり ろくただった。
どうやって??紗桜はどっちが好きか、とか???おれもやるっ
「いや、そんなんじゃ……;」
いいですねぇ……。まあ、真君に負ける気はしません
「何だよそれはっ。ずっと前から思ってたけど、お前の高飛車な性格、直した方がいいよ?そんなんじゃすぐに嫌われるね」
大丈夫ですよ。彼女の前では愛らしくします
「〜〜っ!」
(なんか……ずっと前からのお知り合いみたい……。ぷふっ)
「……変な事したら、すぐに毒水飲ませるからな」
おお怖い……。はい、気をつけますよ
踵を返して、更夜はそこを立ち去る。
灌木の下ですやすやと寝息を立てる紗桜に、はだけた薄い布をしっかり被せ、自分も木に寄り添って座ると、更夜は目を閉じた。
-------------------------------
……なんか勝算はあるの??
え?
だってさ、おれだってもうすでに、更夜に負けてるんだよ……
へぇ……。まあ、可愛らしくしてれば良いのでは?
ふぅ〜ん
こうして、紗桜の知らないところで
【更夜vs.駿星vs.ろくた】
という、天だらけの争奪戦が 密かに勃発したのであった……