朱嘆の華しゅたんのはな 永遠の恋とわのこい
朱嘆の華 第五章2




ビクリ、とろくたが身じろいだ。


───嫌な予感がする。


妖魔?

鳴いたろくたに、更夜は呆然とした。




近くにあった袋を掴み、慌てて洞窟の外へ出る。

「紗桜……?」


姿が、ない。



後ろから、ろくたが顔をのぞかせた。

「……駿星はここにいて。ろくた、行こう」









すぐに紗桜は見つかった。

妖魔から、ゆっくりと後退って逃げている。



───でも。あの方向は、洞窟とは反対側ではないか?


「紗桜……」


更夜は顔を歪めた。

彼女の思いは、伝わってきている。でもそのためだけに、自分の命を投げ出そうとする紗桜の行動に、苛立ちにも似た何かがわきあがってきた。








───妖魔が、動きを止めた。


右から来る気配に、紗桜は希望と、絶望の思いを抱く。




とても静かだった。

更夜はただ無言で、紗桜の傍に歩み寄る。


妖魔は動きを止めたまま、静止していた。



更夜は紗桜の前に立つと、同じく静かな動作で、袋の中から玉を一つ、掴み出す。


それをまた、ごく静かな動作で、妖魔の前に向かって(ほう)った。



───その瞬間。

妖魔が、身体をくねらせた。



「っ!!」

すぐさま紗桜を右に押し倒し、自分も倒れこむようにして覆いかぶさる更夜。


一瞬遅れて、紗桜の後ろに生えていた木に、妖魔が勢いをつけて激突した。



『……!!?』

何が起こったのかも分からない紗桜は、ただ目を見開くことしかできない。



更夜は、妖魔が少しだけ弱っている間に、被っていた布の下に左手を差し入れ、素早い動作で抜刀した。


───ピクッと少し動いた妖魔を、上体を反らした更夜は、ためらいも見せず 強い力で突き刺し、木に張り付ける。


飛び散った返り血に、更夜は思わず目を瞑った。左目の下に付着した血が、ジュッと嫌な音を立てる。

「……っ、」



───その直後、狙いを定めたろくたが、張り付いたまま動けないでいる妖魔を噛み裂いた。








「……馬鹿な真似をしたものだ」

更夜は起き上がり、紗桜の身体を抱き起こす。


ぐったりと力のない彼女は、深く顔を伏せていた。




「……一体、なんの遠慮をしていたんだ?」

更夜が訊いた時、紗桜の俯いた顔から、つぅっと涙が落ちた。


めい、わく……っ、かけたく、なかったの……。
それが、こんな、……ことにっ、なるな んて……


溢れ出た涙をこぼし、紗桜はぎゅうっと手を握りしめた。

更夜は無言で、その手の上に自分の手を載せる。


ご めんなさい……っ。こ、うやっ……



更夜は目を細め、紗桜を支えている腕の力を弱めた。

それによって、紗桜の身体は自然と、更夜の胸に倒れる形になる。



更夜は、紗桜の細い肩に腕を回し、ゆっくりと、何度も背をさすった。

柔らかな手つきで頭を撫で、それから苦しいほどに 紗桜を抱きすくめる。





「無事で、良かったよ……」



呟かれた更夜の言葉に、紗桜はさらに涙を流した。















おまけ↓(ちょっとふざけてるのでご注意……)
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更夜って、剣持ってたっけ?


「うん。枝を切る時とか使うだろ? まあ……短いけど」

ろくたの質問に、更夜は木の幹から剣を引き抜きながら答えた。


たしかに。……それって、射士の時から、ずっと同じの?

ろくたの質問に、更夜は苦笑した。

「……さあね」



剣はあとで綺麗にするとして鞘にしまい、泣き疲れたのか眠っている紗桜の身体を、ゆっくりと抱き上げた。

「───早く離れよう」

わかった







……あっ。……え? 一体、何が?!

駿星は、戻ってきた紗桜の様子に目を剥く。


「駿星、ここを離れよう。血が流れた」

あっ、はい!



更夜は紗桜を抱いたまま、ろくたの背に乗る。

更夜には聞こえない、心の中の会話で(?)、ろくたは駿星に告げた。





抱擁してたよ

……、〜っ、~……!!












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