きみがすき | ナノ






04




反対方向へと向かって行く皆の視線が削がれた一瞬を突いて、瞬歩で跳ばれていた。


緊張と、少しのお酒の入った躯に、そのスピードは視界を歪めるに十分で。

気付いた時には、彼の胸に縋る形で顔を埋めていた。


漸くの安定を感じて、回らない思考を廻らせる。


視界に入った、そこは――…


「ど……こ…?」

「……俺の部屋」


俺の部屋……?
って


「誰の……」

「まだ…解んねぇの?」


四宮――…




ゆっくりと、躊躇うように頬を辿るその掌から


逃れる、


その一瞬を失ったのは、檜佐木君の悲痛な表情のせいだ。

何故そんな顔をしているのか私には解らなくて、ただ茫然と受け入れてしまった。


ここが何処で、今、どうして、どうなっているのか


じわじわと廻る思考が伝えて来るのに。
私は、檜佐木君を見遣るだけだ。


「話が、したい――…」


そうして抱き締められて我に返る。

聞きたくない。
話すのが怖い。

私には、話すことなんてない。


「放して、下さい。檜佐木副隊長」

「……厭だ」




彼の言葉はいつも、私の心に深く突き刺さる……









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