きみがすき | ナノ






03




どうして私は、抱き締められているんだろう…

視界一杯に広がるのは漆黒

まるで逃がさないとでも言うように、私を掻き抱く腕も、包み込む香りも


恋次君のモノでは、
無い――――


「放して、下さい…」



檜佐木、副 隊長……






*


どうしてこんな事になってしまったのか……


今夜は、恋次君と二人で帰るはずだった。


手を繋いで
そうして家に帰って

私は、今日、全てを話すつもりだったのに――…





『六番隊副隊長、阿散井恋次殿。至急六番隊隊舎に戻り、朽木隊長と共に現世に向かわれたし。十三番隊朽木ルキアを現世にて捕捉。任務内容は……』


地獄蝶の伝達内容を聴くや否や、恋次君は瞬く間に消えて行った。


「悪ぃ!吉良!紗也さんを頼む」と言いおいて。


私は……。
恋次君の遠ざかって行く霊圧を、両手を握り締めたまま辿り続けていた――…




帰っても心配が増すだけですよと、吉良君に言われて席に戻された。

普段なら絶対に断っていた誘いを受けたのは、胸に渦巻く言い様のない不安のせいかも知れない。


けれど、私は帰るべきだったんだ。


席に着いて直ぐに感じたのは、突き刺さるような強い視線。

さっきまで、此方を見ようともしなかった彼の視線が痛い。


何で……


心臓が痛い
喉の奥がカラカラに乾いていく


一番離れた席に居る、あの人の目が怖い。


自意識過剰と言われようが何と言われようが、捕らわんとする視線に侵食されるような感覚に陥って行く――…

彼の視線の理由が、見付けられなかった。




「俺が送って行くから」


と、腕を取られたのは、じゃあ行きましょうかと吉良君に促された時だった。

耳に響く低音は、それが誰で在るかを雄弁に物語っていた。


院生同期なんすよって、固まるその場を物ともせずに言い退けて、な?っと笑い掛けてくる。


「檜佐木、君……」


何で…… と、思考が付いて行かなかったのが悪かった。
その場に居た一同が、私の言葉に緊張を解いて行くのが解って、自分の失言に気付いた。


「何ぁによ、同期ならさっさと言いなさいよ」

「あ、すみませ… 檜佐木副隊長っ」

「そのままでいい」

「でも……」


私達は、話したことなんて、無い…でしょう……


っつー訳で、吉良は雛森を送って行けよ

乱菊さん達は次に行くんすよね

だったら修兵も紗也と来たら良いじゃない

俺は、四宮を送って今日はそのまま帰ります


茫然とする私の耳に、皆の声が遠く響いていた。


恐らく、誰からも見えていないだろう位置で。

恋次君と繋いでいたはずの手を、檜佐木君に捕らわれたまま――――


私は、逃げる事も出来ずに


震えていた――…








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