きみがすき | ナノ






05




「は、なして!」



「檜佐木、君っ……」

「…………っ」





『厭だ――…』


そう言ったきり。

何を言っても
逃れようともがいても
更に強まるばかりだった両腕の拘束が、檜佐木君と呼んだ事にか僅かに反応し肩が揺れた。


「…………なら」

「檜佐木君……?」

「…お前が、四宮が、逃げないなら。逃げないで、話を聴いてくれる、なら……」

「話……って…?」


こんな弱々しく話す彼はらしくない。
こんな彼は知らない。

私は話なんてしたくない。
聴いちゃダメだと、頭の中に警笛が鳴り響くのに。


顔を見たら、ダメだと……


僅かに離されて出来た隙間から、頬を寄せられ上向かせられる。

吐息も、口唇も、
触れてしまいそうな熱に身動いでも、距離を取る事は叶わなかった。

目を逸らす事も許されない

逃がさないと、その瞳が伝えていた。


彼の視線が怖い。
今も私を深い闇に捕らえて苛む、あの忌まわしい夢に、過去に、引き摺り込まれるような焦燥……


怖い
もう放っておいて
関わらないで――――


そう願った刹那、不意に揺れた彼の瞳に瞠目した。
苦しそうに、辛そうに瞳を歪め、垣間見えた泣きそうな顔を隠すように私の肩に顔を埋める。


「……んな脅えた顔すんな……」


頼むから……


力無く吐き出された声は懇願に似て。
この至近距離で私が気付いたように、彼も私の脅えを感じ取ったのだと知った。


「逃げない、から… 放して」

「紗也……」

「……っ!」


あっと思った時には遅かった。首筋に掛かった吐息交じりの声に、呼ばれた名前に、有り得ない程に反応してしまった。

恥ずかしさに距離を取ろうと身を捩っても許されず、一瞬の間を置いて熱い掌にビクリと揺れた躯を更に引き寄せられていた。


「放っ……ッ」


ダメ――――


そう思うのに、意思を持って寄せられた口唇に躯の反応が止められ無かった。
執拗に首筋を辿られ、躯中から力が抜け堕ちる。


熱い―――…


彼の吐息も、掌も、躯も、全てが……


「…や、め……」

「好きだ」


…………ハ…?


「ずっと、ずっと……一回生の頃から」


ナニヲイッテルノ…


「今も変わらない」


ヤメテ


「お前だけが」




恋次君――――




「好きだ」

「やめっ……」

「紗也……」

「………っ」






恋次君のキスはいつも優しくて。
食べられちゃうんじゃないかと思うような時でさえ、愛しさが溢れるようなそんなキス。

恋次君は優しく包むように私を抱く。

緩い拘束に、擽ったくなる想いを誤魔化すように、いつも私がギュウギュウと抱き着いた。

そうしたら、嬉しそうに笑ってくれるから……


今、苦しい程に私を抱き締めるこの人は

奪うように、言葉も吐息も全てを逃さないとばかりに口付ける



檜佐木君は、喰らうようにキスをした――…









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -