きみがすき | ナノ






02




君が好き。


いつも私はあなたに救われている――――





もう、一時間はこうして居るだろうか。

まだ三十分くらいなの?

早く逃れたいと思えば思うほど、時の流れは緩かに私を苛んだ。


貼り付けた笑みが強張る
胃が、熱を持ったように熱い――…


そんな私に気付いてくれたんだろう恋次君が、触れていた手を握り締めて


『そろそろ抜けるから』


と囁いた。


そう、だった。
一人じゃない。


その手の温もりにいつも私は救われる。

張り詰めていた神経が落ち着けば、周囲も話も見えて来る……。



「それにしても…。二回生から卒院迄ずっとって凄いわね」

「ほんで今じゃあ、副官補佐って阿散井!どんだけ迷惑掛けとんじゃあ!」

「やっかみとか凄かったんじゃない?」

「そうですね。凄いなんてものじゃなかったですよ。お陰で阿散井君はいつも生傷作って…」

「え……」

「吉良っ!」

「もう時効だろう?」



……知らなかった。
生傷の絶えない恋次君に何を訊いても、鍛錬のせいだって笑顔でかわされていたから…。


「恋次君…」

「良いんすよ。傍に居られる特権を貰ってたんすから…」


思わず掴んだ恋次君の袖をキュッと握り締めて、眉を寄せて見つめると、少しバツの悪そうな顔でそう言った。


「「はい、そこ。二人の世界を創らない」」

「……って!ええっ!?何よ、しかもそう言う関係なわけぇっ!?」

「あ、えと、あのっ…」

「そうっすよ。だから俺らはこれで帰りますんで」


不味かったかなと慌てふためく私を余所に、恋次君は皆にアッサリと告げて立ち上がると、私を抱き上げるように引き寄せた。


「れ、恋次君?」

「何かもう、さっさと帰りてぇ気分」


悪戯っぽく笑顔を向けて
皆さんの前だって言うのに気にもしない。

相変わらずの恋次君に呆れながらも、知らず張っていた全身の緊張が解けて行く。


私は恋次君が、好きだ……



私は、もう大丈夫。

私の手を引く恋次君の後ろ姿に想う。

今夜、云う。

全てを伝えてそして、私は恋次君の傍に居る。



「早く、帰ろう?」

「いい覚悟っすね」

「…………うん」



マジかよ……って頬を染めた恋次君の大きな掌を確りと握り返して、私は憑き物が落ちたように穏やかに笑っていた。





手を繋ぐ私達の元へ地獄蝶が飛んで来たのは、その後直ぐのこと――…








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