01考え無かった訳じゃない。 もう大丈夫だと思っていた。 だから私は此処に来た。 けれど、傷は治り切っていなかったみたいだ――… 私は ちゃんと笑えてる? ちゃんと応えてる? 自分の躰なのに、上手く動かせてる自信がないよ…… * 「此処、美味いんすよ!」 って、満面の笑顔の恋次君と遅めの晩御飯を食べて居た。 普段、お昼は私がお弁当を作るから隊舎から出る事はまず無くて、夜も同様、どちらかの自室が主だった。 今日は終業間際に予定外の書類が入ってしまい、終わる頃には定時を大分回っていたから、これから作ったら遅くなるかな、なんて呑気に考えながら片付けをしていた。 「今日は外で食わないっすか」 思案顔の私に気付いたんだろう恋次君が、遅くなったから偶には良いっすよねって不安そうに訊いて来た。 付き合う前も付き合ってからもずっと、私が外に出るのを避けていたから気を遣ってくれていたんだろう。 もうずっと、恋次君がそういう事を言う事は無かった。 それを申し訳なく思うくらい、その瞳は少し揺れていた…… 「楽しみだね」 そんな私のたったの一言で、見ている此方が照れちゃうくらい終始笑顔で手を引く恋次君は本当に嬉しそうで、私も自然と笑顔になっていた。 お店は一見目立たない表通りから、一本奥に入った路地に在った。 常連さんしか居ない、正に穴場と言う感じのお店で居心地も良く 「紗也さんを連れて来たかった」 照れ臭そうに笑う恋次君の優しさが心に染みた……。 「お。恋次のくせに、彼女連れで来たのか!」 「恋次のくせにって何すかっ!」 「彼女、綺麗だねぇ〜。勿体無いね」 「ホント、ホント!彼女、思い直すなら今だよ!」 「酷ぇっ!」 可愛がられているのが解る お店の人達と軽口に興じている自然体の恋次君 楽しかった。 こうして外に出てみて初めて分かる事。 私の知らない恋次君とか、好きな物とか、好きな場所…… 私はもっともっと知ろうとするべきだったのにと申し訳無く思う。 でも、これからでも遅くないよね、そう思った時だった。 お店の外が突然騒がしくなって、ワイワイと入って来た一団…… その中に見付けたく無い人物を見てしまって、思わず視線を反らしてしまった。 どうか気付かないでと思っても、それは到底無理な話のようで。 煌めく金糸の女性が目敏く恋次君を発見するや否や声を掛けて来た。 「あっら〜。恋次じゃない 何一人……って!誰よ誰!その娘っ!ちょっ 可愛いじゃないっ 何一人占めしてんのよっ!」 恋次君は背中をバシバシ叩かれながら、しまった!って表情でその女性、松本副隊長…だっけ?を黙らせようとしているが、松本副隊長はそんな恋次君なんてお構い無しで、視線は私にロックオンしたまま一緒に来た集団を呼んだ。 「「四宮先生っ!」」 呼ばれて気付いて、直ぐに小走りでやって来たのは桃ちゃんと吉良君で。 『先生』なんて呼ぶから、何だ何だと更に人が集まってしまって、結果、私は豪華上位死神集団にスッポリ囲まれる羽目になっていた。 「ほいじゃあ、その先生が阿散井番っちゅうことになっとったってことか!」 「そうなんですよ!皆の先生のはずだったのに、阿散井君だけの先生になっちゃったんですっ」 「阿散井君の鬼道が芸術的なせいでね」 「芸術的って何だよっ!」 「そのままの意味だよ」 いつの間にか集団に飲み込まれて、一緒の席に着いて、とても逃れられる状況ではなくなっていた。 話の流れでそのまま霊術院時代の話になって行く。 止めて欲しいと願っても止められるはずもなく……。 どうかこのまま、何事なく終わって欲しいと願った。 |