06「檜佐木、君っ……」 腕を捕られてぐいぐいと引かれて行く。 何を言っても返る言葉のないまま、檜佐木君は私を何処へ連れて行くのか。 恋次君の様子が変だった。何より、檜佐木君の様子も…… 「あの、檜佐木君。私……」 引かれていた手をギュッと握って引き留めれば、今まで何度呼び掛けても振り返る事もしなかった檜佐木君が、やっと足を止めてくれた。 けれど、 「檜佐……」 「……いつ、だよ」 「え?」 突然の、何の脈絡も無い問いは思考を鈍らせて、何故だか余計に檜佐木君の苛立たせてしまったように見えた。けれど、こんな檜佐木君は初めてで、其の理由も分からなくて…… 「……いつだよって言ってんだよ」 「いつって……」 「いつ阿散井と別れたんだよっ!」 「っ、…………」 其れは…… 「ど……、して……」 檜佐木君が知っているのか。 「いつ……」 「早く、言えよ?」 そう、惑う私を、俺はそんな気が長ぇ方じゃねぇんだよと逃がしてはくれない。 今……。あの日と同じ、今にも口唇が触れそうな距離で私を囚えるのは檜佐木君は、視線だけで私を追い詰めて来る。 「阿散井副隊長、は……」 「四宮っ」 「っ………」 恋次、君は…… 「在るべき処に、帰っただけ……」 朽木さんの所に……。 あんなに忘れると決めた事なのに、口にした瞬間、また溢れ出る涙が厭になる。 「いつ……、だよ……っ」 「っ………」 「紗也っ……」 『すみません……』 あれは、朽木さんの処刑が決まった日。 もう傍には居られませんと恋次君が言った、恋次君が副官章を捨てた日……。 「何でっ……」 直ぐに言わねぇんだよ……って、辛そうに顔を歪めた檜佐木君が私を更にと掻き抱くように抱き締める。 「…………っ、て……」 だって、口にしたら泣いてしまいそうだったから。此の人に、縋ってしまうと思ったから……。 口にしたら…… 『紗也さん……』 恋次君が消えてしまう気がした? 私は、本当に莫迦だ……。 恋次君はもう、私の隣になんか居ないんだと……。 何度、思い知れば良いんだろう。 「ごめんね……」 「お前、ふざけんなよ」 「檜佐木君、口が悪い……」 「誰のせいだよ」 ……だって、私を腕に抱く檜佐木君の方が辛そうな顔をしていて、そんな顔をさせている事に罪悪感が募った。 だからごめんなさいともう一度口にしたら、一層強く抱き込まれてまた泣きたくなった。 「俺は、もう絶対に四宮を一人にしねぇって、あの時に誓ってんだよ。だから阿散井が手を放したなら、もう遠慮はしねぇ」 二度と諦め無い。 絶対に傍に居ると、其の言葉通りに私を離す積もりの無い此の優しい腕の中で、 「もう一度俺を見てくれるまで、今度は俺が傍にいる」 私は、あの日からずっと張っていた力を抜いて躯を預けた。 此の温もりは君じゃない。 もう、ちゃんと分かっている――… |