04「紗也さん……っ」 「……どうか、されましたか?」 恋次君の何処か緊張した様子に、何か不手際でもと問えば、 「っ……、いや不手際とかじゃねぇっす。そうじゃなくて……っ」 そわそわと、私の様子を伺っては躊躇って。然して、やっと意を決したように話し掛けて来たかと思えば、また何かを躊躇って言い淀む。 また、か…… そんならしくない恋次君を見るに付け、もう、私なんかが何とかしようだなんて、思う事自体が間違いなんじゃないかとさえ思えて来る。 朽木さんの言う通り、あの死闘を終えた日からの恋次君の変化は、きっと私のせいなんだろう。 だからもう、私の事は気にしないでくれたらいい……。 其れは、最早懇願に近い。 何度となく告げようとした願いは、恋次君にとっては難しい事なのかも知れないと溜め息を押し殺した。 「……では、私に何か御用でしょうか」 「っ、いや!用事、では無くてっ……」 「はい」 「だからっすねっ 其の……話、が……」 だんだんと小さくなる声を拾おうと恋次君の顔をじっと見詰めれば、腕で覆うようにして逸らされる。何処か緊張を孕んだ其の顔色は朱を通り越して…… 「何処か具合が悪いのでしたら四番隊に……」 「其れは無ぇっすから!」 「……はい」 ……だったら、本当に一体何なんだろうかと、此のどうしようもない毎日に、とうとう溜め息が溢れ出た。 少しずつ落ち着きを取り戻している瀞霊廷。ルキアちゃんとの関係も順調其の物に見える。 そんな中で恋次君が、用事でも無く私に改まって話すような事が見当たらなくて…… 「……恋次君」 「はいっ、え……?」 「私はもう大丈夫だから」 「っ……」 ずっと避けて来た其れを言葉にするのは未だ辛い。けれど、こんな私にしてあげられる事はもう多くは無いんだと、敢えて以前からの呼び名で呼び掛けた。もしかしたらの可能性を口にすれば、酷く辛そうな顔をするから嫌になる、けれど……。 「あの日はっ」 「其の事ももう、」 「だから違っ!て……じゃねぇ、聞け!」 「っ……」 頼むからと、恋次君が必死で言葉を伝えようとするのが分かる。其れでも、 俺が言いてぇのは、 あの日の、俺の…… 恋次君の云わんとするあの日の事は、私にとっては未だ恋次君と共有したい物では無くて、其の言葉一つ一つが重くのし掛かっては私を苛む。 「俺は、本当は……」 阿散井副隊長は、積年の願いが…… 叶ったんだと――… 「……嫌っ」 「っ……」 「紗也さん……」 結局私は、最後の最後で伸ばされた恋次君の手を払ってしまった。覚悟を決めたつもりで居て、そうでは無い。 私は、弱い……。 ぼろぼろと溢れ出る涙に恋次君が瞠目しても…… 「……ご、めんなさいっ……」 「っ、紗也さんっ……?」 ちゃんと分かっている。 私は、恋次君の話を聞かなきゃならない。変わらなきゃいけないと何度思ったか知れない。 其れでも、あの日の現実は私には未だ辛くて……。 どうか此のまま、忘れさせて欲しいと願う。 「紗也さん、俺はっ」 「四宮っ!」 「っ……」 「檜佐木、君……?」 気にしないでいいと言いながら、まだ聞きたくないと耳を塞ぐ。 此の矛盾だらけの感情が、恋次君を縛り付けているんだと、分かっているのに……。 |