きみがすき | ナノ






02




「急ぎの書類は右の山です。処理済みの書類は此処に纏めて下さって構いません。私が仕分けますから……」

「…………」

「阿散井副隊長。解らないなら解らないと仰って下さいね」

「っ…、じゃな……」


恋次君だってやっと完治に近い所まで来たところだ。だから朽木隊長が戻られるまでと隊首室に入らせて貰って必要書類をこなす。

以前には程遠くても、其れが私達の日常になりつつあった。

付き合う前から恋次君は恋次君だったから……。


あの頃に戻っただけ。


其れを貫く事が、私に出来る唯一の事だと思った。

まだ胸が痛い……、のは当たり前だ。直ぐに気持ちを切り替えられる程、私は器用な方では無い。

どんなに理解していたって、此の想いばかりは自分でもどうしようもなくて。


恋次君だって嫌だろう、けど……。


其れでも、今が恋次君にとって最善で最悪の結末だろうと申し訳なくも思う。待った無しの仕事を前に、二人きりだからとかキツいとか、高が私情に振り回されている暇なんか無い事も、お互いに解っているんだ……。


「其の為に私が居るんですから、遠慮為さらずに申し付けて下さい」


切り替える事は出来なくたって何でも無い振りをする事は容易くて。
微笑みをつくっては補佐を演じきるなんて造作も無い。

そんな自分が嫌になる。

時折、何かを言いたげに私を見詰める恋次君に気付いては、其れもいつかは慣れると自分を諌めた。

何も見ないで居れば、其れなりに日々は廻る事にも気付いた。


「……昨日、の」

「え?」

「あ、いや。……昨日、の、休みは何してたんす、か?」

「っ……」



『阿散井副隊長は……』



「あ、いやだからっ 紗也さんが休むなんて珍しい、っつーか、初めて……っつーか……」

「…………」

「何か遇ったのかって……」


思ってと、心配気に話す恋次君に悪気は無いだろう。

部下の心配をするのは当たり前だ。でも……


優しくなんてしないで良い。


紗也さん……?と、困ったように私を伺う恋次君には悪い、けど、


「もう、……」



『すみません。もう……』



恋次君には関係無い事だ。

何か遇った、って、



『何も聞いてあげる事も出来ません』



「……いえ、大丈夫、です。単なる……」

「紗也さんっ」

「っ、本当に」


もう恋次君が気にする事じゃ無い。

恋次君は……


「お話しする程の事では有りませんので」


もう振り返ったりしないで良いんだ……。









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