きみがすき | ナノ






01




『阿散井副隊長は、やっと積年の想いが叶ったらしいですよ』



そう言えばと紡がれた何の悪意も無い言葉。

本当に良かったですよねと彼女は微笑った。


私は、ちゃんと、

笑えていただろうか……。






慣れない事はするもんじゃないって、今日程思った事はない。

今日は護廷十三隊に就いて初めて自ら希望した休み。

恋次君に関わる全てのモノを、捨ててしまおうと決めて居た。

あの別れを告げられた日から凡そ一月。もう良いんじゃないのと、私を促す声が聴こえた気がした……。


「あのまま家に居れば良かったんだ……」


気付いた時にと少しずつ纏めて居たからか、恋次君が敢えて多くを残さないようにして居たからなのか。

心に重く痕って居た程には、彼のモノは多くは無くて……

ぽっかりと空いてしまった休日の午後。

家に居るのが勿体無いくらいのお天気に誘われて家を出た。

単にあの部屋に一人で居たく無かったからかも知れない。こうして未だ過去に囚われるくらいならと思った、其れが間違いだった。


何の目的も無いまま、ただ時間と人に埋もれるようにして過ごした。混迷する渦に身を沈めるように、漠然と時を見送っただけ。


そろそろ、帰ろう……


そんな自分に嘆息しては胸を押さえた。何をやっているのかと踵を返した……、時だった。


『やっぱり四宮三席だった』


最近になって、やっと聴き馴れた声が私を呼び止めた。

振り返れば、こんな所で珍しいですねと笑顔を見せる隊士の姿。一緒に食事でも誘われた、其れに頷いたのは断る理由を見付けられなかったからだ。



――で、――だったらしいですよ。あの――が!笑っちゃいますよねぇ……。



偶然会った仲間との会話。その中に、他愛の無い世間話が混じったとしても笑えない話ではない。


『今日なんかも二人副官室で仲睦まじく……って、もうっ 聞いてますか』

『えっ……と、うん。そう、だね……』


良かったよね……


未だこうして私を苛む痛みは誰のせいでも無い。

彼女に悪気なんてモノが有る筈も無い。


彼女だけじゃない。

だって、誰も知らないんだから……。


もう辛いとか痛いとか悲しいとか。訳が分からない感情の中で……


「私は、笑えていたのかな……」


どうやって帰って来たのかさえも覚えていなかった。

ただ解ったのは、変われない自分と進んで行く彼の現実。


「今と、変わらないじゃない……」


深夜と言える此の時間になっても明かりを灯す事も出来ずに、

膝を抱えたまま、身動き一つ出来ない今の自分と……。









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