きみがすき | ナノ






05




『やっと見付けたっ……』

『…………』

『………今、げっとか言わなかったかっ?』

『……言ってません』


思ったけど……と、顔に出す私に、口元を引き攣らせる旅禍君には悪いけど、私と目が合った瞬間、態々捕獲する為だけに隊長格並の瞬歩で飛んで来るんだから、毎回、思わず逃げ出さないだけ褒めて欲しいところだ。


『今日は一人なの?』


もう此の子には隠すのも面倒臭いと、『折角、なるべく遭わないようにしてたのに』とはっきり言えば、『少しは言葉をオブラートにくるめねぇのか』と青筋を浮かべる。


『どうしても二人で話がしたかったんだよ』

『………………』

『恋次に訊く訳にも行かねぇし、剣八からも逃げなきゃなんねぇし』


ドカッと腰を下ろしながら、だから今日は逃げんなよと暗に示されて息を吐く。


『なぁ、』

『現世ってどんな所?』

『は?』


私、実習でしか行った事無いんだよねと微笑えば、旅禍君の眉間の皺が深くなる。


『…………逃げんのかよ』

『逃げ出したい日くらい、誰にだって一日くらい有るでしょう?』


其れは何からでも無い。

誰も私を知らない。
もう断界だって構わない。

其処に恋次君が、居ないなら……。



「…………」


あの日私が口にした言葉に、深い意味が有った訳じゃ無かった。



『朽木の屋敷に……』



だけど、私は……


「檜、佐木君っ 今日、」


今日だけは一人になりたく無いんだって……。


「あの、」

「今日は、阿散井の誕生日だろ?」

「っ…」


今日だけは……。





早く帰りたかったよなと、アイツらが引き留めて悪かったと頭を下げられた。

凍りつく此の表情を、きっと檜佐木君が目を逸らして居なければ、今度こそ気付かれていただろう……。


「もう戻る、ね」


急ぐのは仕事が有るから。


嘘は吐いてない。

本当の事でも、無いけど……。









九番隊を後にして自隊へと戻る。

あの明るい、穏やかな場所へは帰りたくないと、直ぐに立ち止まっては言う事を聞かない躯に、此のどうにもならない想いが重なる。

決まり文句を口にして、挨拶をすれば良いだけの事。

部下として撤すれば良いだけの其れを、未だ私の中の何かが拒む。



『成らぬ』


先日、やっと見舞う事が出来た朽木隊長は、差し出した辞表を破り捨ててしまった。


『ですが……っ』

『今 兄に去られては、恋次も潰れよう』


……そんな事は、絶対に無い。


『私はっ』

『恋次を頼む』


いつも厳然とした此の方が、命令だと、優しい桎梏与えた。


『辞めさせるならば、先に二席から解任したいのだがな』


そんな風に微かに笑んでも話される。
朽木隊長も、変わられたんだと知った。



私だけが、変われないままだ……。









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