きみがすき | ナノ






01




振り返らない後ろ姿は、

走っても走っても、遠ざかるばかりで……。


恋次君――…


何度 声を振り絞っても届かない。

其の背が、振り返る事は無い……。


悪い夢だと知っていて、置いて行かれた子供のように泣き叫んだのは私。


待ってと。
行かないでと……


必死に伸ばした手は、

ただ空を掴んだだけ――…



其れは私の悪夢が刷り変わった日。



だけど私は知っている。

怖いのは悪夢なんかじゃ無いんだと。


其れは目覚める私を待つ



君が居ない現実――…









「…………また、現実」


今日もキツい現実が待っていると言うのに、夢までが現実を突き付けては私を追い詰めて来る。


どうせなら……


夢の中でくらい幸せな夢を見せてくれれば良いのにと思い掛けて首を振る。

幸せな夢なんか見ちゃったら、其の分 現実が余計に辛い。失くした現実に打ちのめされて、私にはきっと立ち上がる事さえ難しい。


だから良かった。

もう無いモノをどんなに望んだって虚しいだけだ。


朽木さんと並ぶ恋次君にも大分慣れた。

気を遣って欲しかった訳ではないけれど、あれだけ堂々と副官室の中でも仲良く居られたら……。


「始めから私の居場所なんて無いじゃない……」


いい加減耐性も出来るものだと笑えて来た。


『宜しければ四宮先生もご一緒に食事に……』

『おいっ!二人で良いだろ!』

『何だ其の言い方は!四宮先生に失礼……』

『大丈夫ですから。朽木さんも、どうかお気遣い無く』


どうやら何も知らずにいるらしい。私にまで気を遣ってくれる朽木さんに、いつも恋次君が慌て出す。

其れが今の現状で、そんな光景にも大分慣れた。


『ゆっくりして居らして下さい』

『っ…………』


大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせる私は、上手く笑えているだろうか……。


もう、解ってる……。

望みなんて無い。
望んでも居ない。

そう思いながら絶望する。


恋次君の笑顔は、もう私のモノじゃないんだと……。





「頑張れ……」


前を向け。


どんなに辛い事だって……

いつかは忘れられると、
私に教えてくれたのは君だった。








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