きみがすき | ナノ






06




隊舎に戻ると言う檜佐木君に、序でだからと送られて六番隊隊舎へと戻った。

シン と静まり返った副官室に佇んで瞳を閉じる。


あれから一緒に食事をしながら、まだ夕刻を過ぎた頃だと言う事に驚いた。

久しぶりに見ずに済んだ夢。

深く、沈むように眠れたのは檜佐木君のお陰で……。


『っ、何……?』


不意に伸びて来た手が目元を辿って、細められた瞳に心臓が跳ねた。


『……まだ、消えねぇな』


隈、と言いながら苦笑する。
心配そうに眉を寄せられて、私は其の温もりを受け入れるように瞳を閉じた。

刹那、微かに震えた指先は……





「っ……!」


バァンッ と静寂を破る音に咄嗟に身構えた。
勢い良く開かれた扉から飛び込んで来たのは、血相を変えた恋次君で……。

一瞬で張り巡った神経を弛ませるも、恋次君の其の様相に何か遇ったのかと緊張が走る。


「どうか、されましたか……?」


尋常では無い。
汗だくになって、息を切らして……。


「今、まで……、何、……っ処に……」

「……あの?」


聞き取れない言葉に首を傾げれば、私の姿を確かめるように注視する。


「い、や……。何、でも……無いっす……」


そうして何処かほっとしたような顔をして、は――…っと落ち着けるように息を吐いた恋次君は、其れ以降は何を訊いても何でも無いと目を逸らした。


「……そう、ですか」


もう私には話しては貰えないのかと、其れを少し寂しく思うも、恋次君に会っても、こうして二人きりになっても、


まだ、痛いけど……


其れでも、あまり痛まなくなった胸にほっとした。


「……其れでは、私は今日は失礼します。阿散井副隊長も、もう四番隊にお戻り下さい」


此れも檜佐木君のお陰かも知れないと、先までの遣り取りを思い出して内心で微笑んで、退室するべく一礼すると扉の前に立つ恋次君の方へと向かう。

もう揺れるなと、自分に言い聞かせた。





「痛っ……」


すれ違う瞬間、取られた腕を掴む掌の強さに顔を歪めた。


「どう………」


何故と見上げた先の、恋次君の悲痛な顔に声を失った。
何かに、必死に耐えるように歪められた顔は、私を映しては居なかったけれど……。


「具合、でも……」


悪いのかと問うた言葉は直ぐに否定された。


「大丈夫っす。……すみ、ません……」

「っ、いえ。では……」


失礼しますと、もう一度頭を下げて恋次君から離れる私に、恋次君は、もう何も言わなかった……。





一歩。
また一歩と広がる距離。

紅く痕った恋次君の熱。


俯く視界に映ったのは。

謝罪と共に直ぐに放された、あの別れの日と同じ、砕ける程に握られた拳。

其の、意味に……


私が気付く事は無かった。







恋次君が、病室から去った私を探し続けていた事も。

躯中に痕る檜佐木君の霊圧に気付いていた事も。




私は何も、知らないまま……。









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