03「俺と居る時に他の事を考えてるなんて、随分と余裕っすね」 不機嫌そうな声に顔を上げれば、憮然とした表情の恋次君と目が合って少し慌てた。 そんな私に、面白くないとばかりに降り注ぐ唇…… 違う……。 考えてたのは恋次君の事。 昔のだけど。 そう言うと 「あの頃、凄ぇ頑張ってアプローチしたのに、さっぱり相手にして貰えなくて虚しかったっす」 なんて、意地悪そうに口角を上げた。 「私を好きになる危篤な人が居るなんて思えなかったし、恋次君には大切な人が居るって知ってたし…」 「ルキアはっ!…って紗也さん、もしかしてまだ…」 「うん!家族… でしょ? 分かってるからっ」 「何か、力一杯っすね…」 う゛ だ、だって。 こうなった時の恋次君は容赦無いんだもん……。 昔の、私が悪いんだけど……。 真っ直ぐなだけに性質が悪いと言うか、もう…… 分かってると言っても、止めてくれない、し……。 私の不安とか迷いを恋次君は敏感に感じ取ってしまうから。 そうなったら最後、彼は私を放さない。 愛しい、愛しいと。 言葉で、全身で、告げられる。 私を快楽に堕として放さない――… 「…………そんな可愛い表情してたら、此処で喰いますよ?」 「わ たし、可愛くな…」 って、しまった! 「……紗也さん…」 「う… はぃ…ンンッ………」 『好きだ』 『どうして信じてくれないんすかっ』 『せめて否定だけはしないで下さい…』 そうして、そうやって。 真っ直ぐな想いだけをぶつけて、恋次君は私の傍に居た。 『私は誰とも』 『そんな理由なら却下っす』 『ごめんなさ……』 『俺は諦めませんから、そろそろ観念して下さい』 『結局、諦めてくれる気なんて無いじゃないっ』 『だから、そう言ってるじゃないっすか』 『……莫迦』 『紗也さんの傍に居られるなら、莫迦で良いっす…』 『……ホントに、莫迦…』 そう言って飛び込んだ胸は出逢った頃よりずっと逞しくなっていて、恋次君が隣に居てくれた時の永さを感じた。 『心臓の音、凄いよ……』 『うあ゛ え! だっ… 紗也さっ ええっ』 アレだけ俺様発言しておいて、今更何を狼狽えているのかと少し笑えた。 『夢じゃないっすよね…』 『ヘタれか俺様か、はっきりしてよ』 『好きだ。好きだ好きだ好きだ……』 そう言って壊れ物のようにそっと抱き締めるから、何だか泣きそうになってギュッと恋次君の死覇装を掴んだ。 そうしたら 『紗也さんの分も俺が好きだから、大丈夫っす』 って、あのお日様みたいな笑顔で笑ってくれたから――… キスは激しさを増していて。 恋次君から与えられる刺激に逃れられない所まで追いやられて。 何が何だか分からなくなる 恋次君しか見えなくなる 恋次君しか感じられなくなる 「…………っ…ぁ……」 真っ白になる……。 その前にと、恋次君の頬に口唇を寄せた。 「紗也さん…?」 「…………すき…」 恋次君が好きだって、 ちゃんとオトになっただろうか……。 意識を手放す刹那、そんな事を思った――… 私の見る悪夢が、只の怖い夢だと疑ってもいない恋次君に、いつか全てを話せる日が来ると 切に願って――… * 「ずりぃ…」 幸せそうに寝やがって。 堕ちる瞬間、言い逃げかよ……。 やっと捕まえた、愛しい人に口付ける。 「俺を殺す気かよ、この人…」 相変わらずのヘタレ発言 |