きみがすき | ナノ






02




「…………さん…」

「……ゃさん」



「紗也さんっ」


「……っ恋次君!って、あ…すみません!阿散井副隊長っ」

「…寧ろ恋次の方が嬉しいっすけど」

「え?」

「いや、何でも無いっす」


吃驚、した…

いきなり目の前に恋次君の顔が現れるんだもん。
いや、茫っとしてたのは自分なんだけど…。
序でに言うと、転た寝なんてしちゃってたんだけど……。


「また例の夢っすか?」


そう言って心配そうに覗き込まれて、その近さに朱がさした。


絶対、態とだ…


だって…
心配の色を浮かべるその瞳の奥が、熱い……。


「阿 散井、副隊長… 此処…執務室で…す…」

「就業時間は終わったっすよね」

「……っ」


その近さに耐え切れなくて、逸らそうとする頬をまるで見越したように両手で優しく包まれる。

五感の全てを奪うような熱を孕んだ瞳が射るように見つめていた。



も……、逆上せる……。



「好きだ…」


微かに唇に触れたまま紡がれる

言の葉――…



恋次君はいつもそうだ。

私の不安を放置しない。
揺れる瞳を見逃したりしない。


まるで私を。
私なんかを、宝物みたいに大切に扱う……。


紗也さん
紗也さん……

何度も何度も名前を呼んで好きだと伝えてくれる。

不安を消してくれる……。




卒院後。

私は入隊試験を受けなかった。

人の噂も…とは良く言ったもので、六回生になる頃には『筆頭に公開で拒否られた女』なんて不名誉なレッテルも消えて居たけれど。

傷が、消えてくれなかった。


二度と視界に入らない為に入隊する選択肢を切り捨てた私は、前々から打診されていた学院に残った。

恋次君に逢ったのはそんな頃だ。



助手に付いた特進クラスで、稀にみる不器用さを発揮する恋次君がいた。
そんな恋次君に匙を投げた担任が、私に丸投げして来たのだ。


斬撃ではトップクラスの実力派。鬼道と筆記は目も宛てられない成績で……。

でも、何事にも一生懸命で手を抜かず、真面目で一本気。

大切な女の子の為に
必死に頑張っている

そんな彼に好感を持った。


きっと彼は凄い人になる

そう思った。


裏を返せば期待の現れだったんだろう。
私は授業中の補佐から補習、居残りにも付き合うように言われ、四六時中一緒に居るようになって居た。


「俺ばっかズリぃつって、羨ましがられてんすよ」


恋次君にそう言われて苦笑いしか返せない私に


「本気にしてないっすよね」


って拗ねてみせる
その様に笑みが溢れた。

それが面白くないんだろう彼が


「そうやってまた、餓鬼扱いする…」


そう言いながら距離を詰めて来て顔を覗き込む。

そんな風に突然男の顔になって、私を掻き乱すのは止めて欲しい……。


心臓に悪い……。


それは今も、変わらないのかも知れない……。








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