きみがすき | ナノ






02




其れからの私と言えば、何かが少しおかしかった。

檜佐木君の誕生日が、何故だか私にも特別なモノに感じられた。
檜佐木君の傍に行ける一組の彼女達が、とても眩しいモノに映った。

檜佐木君の名前を聴くだけで心臓が跳ねて。
姿を見ると、別に見られている訳でも無いのに一人緊張して……


『紗也は檜佐木君が好きなの?』

『えっ!………と、何、で……?』


とうとう、恋する乙女かと友人に絡かわれるようになってしまう程……。


『だって、絶対に檜佐木の方を見ないじゃない』

『えっ?だから私は嫌いなんだと思ってたけどっ?』

『えっ!?違、う……』


其れこそ何でと、絡かいの言葉より焦ったのは何故だったのか。


『アンタ絶対に檜佐木を視界に入れないし』

『いや、離れてる時は良く目で追ってない?』

『…………』


両極端でも、そんな良く観察しているらしい二人の言い分に、私はそんなに判り易いのかと恥ずかしささえ覚えた。


『嫌いじゃ、ないよ……?』

『絶対檜佐木も嫌われてると思ってるって』

『いや、其れは絶対に無いと思うけど……』


先ず、檜佐木君が私なんかを知っている訳が無い、から其れは良い。


『いや、有るって。此の前だって……って聞いてる?』

『聞いてない』

『もうっ』


だけど、紗也は緊張すると口がヘの字になるんだよって笑ってる友人の声に、次からは絶対に気を付けようとだけは頭に叩き込む。


『じゃあ、やっぱり好きってこと?』

『…………』


興味津々と顔を寄せる、其の問いには……


凄いなとは思う。
格好良いなとは思う。

でも……


『好き、とは違う気がする……』


そう答が出た。


『『何でっ』』

『何、でって……』


檜佐木君に告白した娘がまた振られたって聞いたけれど、私は告白したいとは思えなかった。

遊びでも良いから付き合って欲しいと騒ぐ娘達の話に、私は賛同する事が出来なかった。


『凄いなぁって、檜佐木君は何処まで行っちゃうのかなって、私は其れを見ていられたら十分な気がする』


きっと檜佐木君は直ぐに入隊が決まって、直ぐに私達の手の届かないところへと行ってしまうんだろうから……。


『だから早く特進に上がりなよっ!』

『嫌だ、私は二組が良い』


途中から一組になんて入ったら苛められるのなんて目に見えてるし、檜佐木君と同級になんてなったら緊張して吐く。登校拒否になる。


『仲良くなれるかも知れないのに?』


そう言った友人達は、もしかしたら私の本当の想いを、自分に自信が無くて、言い訳で固めては逃げてばかりだった私を見抜いて居たのかも知れない。

でも、


『私は………』



分不相応な恋は辛いだけだと、何処かで解っていたのかも、知れない……。









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