きみがすき | ナノ






01




消えてしまった。

恋次君は、本当に居ない。



今……

恋次君を見送ったあの日の

居なくならないでと、見えないモノに恐怖した私が此処に居た……。







「どうかしたんですか?」


掛けられた声に息が止まる程に驚いて、咄嗟に距離を取っていた。

泣いているでしょうと、空けたはずの距離を詰めるように寄られて後退る。


「……い、え。大丈夫です、から……」


構わないで下さいと、呟いたはずの声は掠れて消えた。


こんな、所で……


何を泣いたりして居るのかと自分を責めても、後から後から伝う涙は涸れる事なく溢れ出た。


「ですが……」


ボロボロと涙を溢す私を気遣ってか、手をさ迷わせる人から距離を取る。


お願いだから、触らないで。


まるで拒絶するような態度が申し訳無く思っても、触らないでと全身が叫ぶ。


恋次君が、消えてしまう気がした。



紗也さん……



厭だ――…



私を呼んで、引き寄せる。
優しく頬を辿る武骨な指も、抱き締める腕も、全部――…


恋次君じゃなきゃ

まだ、忘れたくなんか無いんだ……





「ご、めんなさ……」

「………っ!」


ごめんなさいと、しつこく伸びて来る手を払おうとした刹那

私を庇うようにして立ちはだかった、迸る霊圧を纏った背に隠されていた。


どう、して……


「コイツに、触れるなよ」


息を切らして、汗だくになって。

どうして彼が、此処に。
私なんかの所に来てくれるんだろう……。




「…………く、ん?」

「……お前な」


私を心配してだったんだろうが、何故か囲うようにして居た人達が彼の気に圧されて足早に去って行った事に少しほっとする。

そんな、状況が飲み込めないままじっと見詰めるだけの私に何とも言えない顔をして、何やってんだと眉根を寄せた。


「待てっつってんのに通話は切りやがるし」


電源まで落とすわ、何処を探しても居やしねぇ。

やっと見付けたと思ったら変な奴等に囲まれてるわ……


「何、一人で泣いてやがる」

「…………」


つい、と伸ばされた手は優しく頬を辿って、何も言えずに居る私に掛けられる優しい声音は、不機嫌な物言いも険しい表情さえも甘く見せた。


「とにかく、場所変える」


言いてぇ事は山のように有るけどよと前置きした彼が、私を引き寄せると同時に瞬歩で移動した。



誰も、触れないで……



今、あんなにも拒絶した温もりに包まれて安堵する。


「檜佐木君……」

「やっとかよ」


お前、偶にホント抜けてるよな。


そう言って……。


「一人で、居なくなろうとするなよ」


檜佐木君が知っているはずが無いと解っているのに、其の言葉が胸に響いて震わせる。

ギュッと檜佐木君の死覇装を掴んだ私を、優しく包んだ……。




恋次君とは違う。

其れが解って居ても――…










×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -