05旅禍君から逃げるように離れて紛れ込んだ大路の賑わいの中、人波に埋もれた事に安堵して、漸くと息が吐けた気がした。 あの、真っ直ぐな瞳は苦手だと思った。 宛が有る訳も無く行き交う流れの中に佇めば、まるで世界から隔絶されたような錯覚を覚えて苦笑した。 三席に着いて間も無い私を知る人は多くない。 誰も私を知らない。 其の事実が私を落ち着かせた……。 沢山の死神達の中に在って、無いに等しい己の存在が私を解放するようだった。 ゆっくり、ゆっくりと足を動かしてみる。 こんな風に、のんびりとした気持ちで瀞霊廷内を歩くのは初めてだったかも知れない。 まだまだ復旧の覚束無い廷内。 虚圏への対策。 備えが不十分なままの中で不謹慎かも知れないと思いつつ、日常の景色に身を沈める。 一度だけ……。 恋次君とこうして町並みを眺めながら歩いた事が有った。 あの時は、知らない場所も目立つ恋次君の隣も落ち着かなくて、ただ早く帰りたいとばかり思っていた。 不躾な視線からなるべく隠れたい私を解っていて、放されない手を悪戯に引き寄せられた。 然して、恥ずかしがる私を楽しむかのように恋次君は笑った。 『ホント、慣れないっすね』 『私には縁の無い場所だから』 『……っすよ』 『え?何……』 『だからっすね!……直ぐに、慣れるっつったんすよっ』 ずっと、一緒に居てくれるんすよね…… 「うん……、ね!恋次く…ん……」 通りの角を折れた瞬間、鼻先を擽った懐かしい匂いに思わず隣りに居るはずの無い人を仰ぎ見ていた。 「…………莫迦だ」 もう恋次君は私の隣に居ないのに……。 茫っとなんてして歩いてるからだ。 必死で忘れようともがく私を嘲笑う。 疾うに受け入れたはずの現実に、時折こうして打ちのめされる。 「傍に居たいよ……」 ずっと、ずっと……。 恋次君の隣に居たかった。 振り仰いだ首の角度 見上げた視線。 全て、恋次君の為だけのモノだったのに。 もう其処に 「恋次君は居ないのに……」 |