04「え―…っと。旅禍、君……?」 「……黒崎一護だっつーの!」 憮然とした表情の、未だ幼さの残る少年は 「取り敢えず、悪ぃけどちょっと匿ってくれよ」 と不遜な態度で、当たり前のように隣に寝転んだ。 「アンタが恋次の補佐なのか」 更木隊長から逃げ回っていると言う黒崎君は、私が恋次君、阿散井副隊長の補佐だと知ると、まるで旧知の仲のように話し出した。 此の、物怖じしない性格が好ましいと自然微笑みが浮かんだ。 恋次ってあんなんで副隊長なんてやれてんのか? ってかアンタは隊舎に居なくて良いのかよ? 今、白夜も恋次も四番隊だろ? もしかしてサボりかよっ 矢継ぎ早に告げられる言葉には内心で苦笑して、其の全てに曖昧に笑って返した。 サボり、と言われれば近い物が有るような無いような。 今はどの隊も開店休業状態。 或意味、無礼講だ。 此の短期間で、尸魂界は色々な事が起こり過ぎた。 少しくらい休んだって、誰も文句は言わないだろう。 「善いんだよ、許されたサボりみたいなもの」 「ホントかよ」 何だそれと笑う顔が、少しだけ陽溜まりのような彼の人に重なってチクリと胸が痛む。 もう少しだけ、ほんの僅かな時間で良いから忘れていたいなぁと思って、こんな所まで逃げて来たのにと苦笑する。 「本当だよ。それより……朽木さん、を、助けてくれてありがとう」 「俺は別に……」 「うん。それでも、君のお陰で色々な人が救われたから」 朽木さんは死ななかった。 恋次君は無事だった。 降格も処分も無い、何より 朽木さんを失わずに済んだ。 恋次君が哀しむ事はもう無い。 もう二度と、大事なモノを見失う事も無い。 躯の奥底から主張する痛みを遣り過ごし、細く息を吐き出して遠くの景色に目を遣れば、少し前までの争いが嘘だったかのように世界は穏やかに広がっている。 取り戻したモノと失ったモノ。 変わったモノと変わらないモノ。 きっと誰の胸にも混在している――… 「さてと、私は戻ろうかな。じゃあ、ね。旅禍君」 よいしょと立ち上がって、此の場を去る事を選択する。 「黒崎一護だっつの。アンタ名前憶える気無ぇだろ……って、其れより!」 「何?」 まだ何か引き留められるような事が有っただろうかと首を傾げれば、徐に其れ止めろと怒られた。 ……訳が解らない。 この前から、檜佐木君といい、旅禍君といい…… 「お見苦しくてごめ……」 「じゃねぇよっ!って、そうじゃなくて。アンタさ……、もしかして、その……。恋次と付き合ってたり、するか?」 …………心、臓が…… 気を抜き過ぎていたせいで、旅禍君の言葉に反応するのが遅れてしまった。 窺うような瞳が確りと彩付くのが見えて、自分の失態を呪った。 「…………しませんね。話は、其れだけ?」 「っい、や。つーか、絶対そうだろ。アイツっ……」 「阿散井副隊長は、唯の上官です」 残念ながらと微笑んで、もう一度お礼を告げた私は、不自然にならない程度に足早に去った。 今度こそ、旅禍君が引き留めようとした声を振り切って…… 『待ってくれよ!アイツ、云ってたんだって……』 「もう、止めてよ……」 心が悲鳴を上げていた。 良いじゃない。 まだ放って置いてくれたって。 其れを聞く強さは、私にはもう残っていない。 まだ、足りない。 「もう少しだけ、待ってよ……」 |