きみがすき | ナノ






03




「檜佐木く……」

『……っえ?四宮っ!?本当に!?どうした…って、悪いっ!今取り込み中で、絶対に後で掛け直…… ちょっ……乱菊さん!其れ此方に………………、』


私から檜佐木君に連絡をしたのは、後にも先にもあの一度きり。

思いの外、元気そうに聴こえた声と彼の女性の名前。


「良かった……」


元気そうで善かった。
気を紛らわせて居られる場所が檜佐木君に在って良かったと、心から思えた。

烏滸がましくも連絡なんかをしたのは、何か力になれるなんて思って居た訳じゃないけれど、檜佐木君がそうしてくれたように、必要な時はいつでも傍に行くからと伝えたかったからだ。


『絶対、四宮からは連絡して来ねぇと思ったから』


そんな風に言っては、あの日から毎晩、檜佐木君は時間を見付けては連絡をくれていた。


阿散井はどうだ?
困った事は無ぇか?

恋次君の様子から、隊長格不在中の指揮、終いには


『ちゃんと飯食ってるか?』

「檜佐木君……、私は子供じゃないんですが……」


そんな下らない会話に至るまで。

時間にすると十分程度の事。

其れが、檜佐木君の背後に遠く聴こえる喧騒、鳴り響く伝令神機、其の中に混じる少しの冷やかしの声。

檜佐木君が無理をして作ってくれた時間だと思えば、申し訳無くも、あの時は素直に嬉しいと思えたから……。


『四宮が心配するような事にはならねぇから』


だから安心して待ってろと、必ず最後にそう言って切られる通話。

恋次君が再び姿を消した日も、檜佐木君が私を気遣った。


『阿散井が四宮を悲しませるような事は無ぇから』

「………めんなさい」

『四宮?』


ごめん、なさい……


そう、内心で何度も繰り返した。

恋次君は覚悟を決めて行ったからと。
恋次君とはもう終わって居るんだと、檜佐木君にはどうしても言えなかった。

恋次君の行き先も想いも知っていて、心配させてしまっている事が心苦しい。

でも、



決めたんだ



もう、云う必要が無いと思った。

同情だけはされたく無かった、其れは私の最後の強がりだ。



終わりに、するって……



檜佐木君が決めて望んでくれた此れからの関係を、余計な事でダメにはしたくなかった。


「……気を、付けてね」

『四宮?』

「……檜佐木君までケガしたら……」

『っ………』


想うだけで胸が苦しい。

もう、恋次君だけじゃないんだ。
出来るなら誰も傷付かないで欲しいと、想像だけで痛んだ胸を鷲掴んだ。


『……大丈夫だ』


大丈夫だからと、繰り返し繰り返し、あの優しい声音で。

耳に直接響いた言葉は、私を酷く安心させてくれたから……。



処刑の日。
ドン と跳ね上がった霊圧は檜佐木君のモノで。



檜佐木君――…



現した霊圧に、心臓が激しく音を立てた。

檜佐木君も闘うのかと、考えれば当たり前の事実に胸がズキズキと痛んだ。

此の敵の見えない闘いは、何処まで広がって行くのかと。
東仙隊長が去った後、檜佐木君はどうしているのかと……。

でも……


「必要、無かった……ね」

「………四宮?悪いっ 本当に聴こえな……」


私の心配なんて、余計なモノだった。


「慌ただしい所にごめんね。急ぎじゃなかったから……、切るね」

「ちょっ……、待っ……」


ぐっ と力を込めて通話を切った途端、賑やかだった伝令神機の向こう側と切り離されたような静けさに包まれた。

日番谷隊長の怒鳴り声が混じって居た所を見ると、十番隊の執務室辺りだろうか。


皆はちゃんと進んでいる。

前を向いて、
先に、向かって――…







私だけが、立ち止まったままでも。










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