きみがすき | ナノ






05




………

………四宮




「……四宮?」

「………………え、はいっ……あ……っ」


どうした?と覗き込まれて、いけないと慌てて謝罪を口にした。

また意識があの日へと引き摺られていた。
いつまで経っても抜け出せない。莫迦な自分に口唇を噛み締めた。


疲れてるよなと眉を寄せられて頭を振った。
檜佐木君に心配して貰えるような、そんな資格が無い私には返って辛いと胸が痛んだ。


どうか、優しくしないで欲しい。


今も、檜佐木へと伸びて行きそうになる手を、抑え込むのに必死な自分が情けない。

そんな自分を晒したくもないのに……




「伝令神機」

「……はい?」

「伝令神機、持ってるよな」

「はい?」


伝令神機が、何?


何の脈絡も無く、行き成りそんな事を言う檜佐木君に首を傾げれば、勢い良く顔を反らされた。


「あの……?」


本当に今日は、檜佐木君はどうしたんだろう。

副隊長で在る檜佐木君が、こんな所に来てくれる為に払う対価は何れ程か、私にだって容易く解る。

こんな、遣り取りをする為に使える時間なんて無いはずで……


「だから伝令神機。出して」

「え?はい………って、えっ?ちょっ……」


そっぽを向いたまま、何だか不機嫌な強い口調で云われて、つい手にした瞬間、取り上げられて焦ってしまう。


「檜佐木君っ!?」


勝手にピピッと操作されて、何をするのかと慌てて居れば、「ん、」と押し付けるように戻されて、益々疑問符が湧いて来る。


「何、を……」

「何か遇ったら、掛けろよ」

「っ…………」

「直ぐには対応してやれねぇかも知んねぇけど」


絶対に、四宮の所に来るから……


そんな風に、言わないで。
そんな風に微笑わないで欲しい……


「檜佐木君、私……」

「大丈夫だ。もう、困らせるような事は云わねぇよ。ただ、力になりたいだけだから……」



決めたんだ。

終わりにするって……





「こんな時だから……よ。阿散井を、支えてやってくれ」

「檜佐木君……」

「じゃあ、な」


こんなゴタゴタは直ぐに片付くからなと
絶対に一人で背負込むなと

今日は其れを伝えたかっただけだからと言って、檜佐木君は自隊へと帰って行った。


「檜佐木君も、忙しいくせに……」


優しい瞳をしていた。

私を惑わす熱は消えて、檜佐木君はただ優しい眼差しをしていた。


「恋次君に付いてて、か……」


でも――…

もう、私の心配も
支えも

想い、も……


「恋次君には必要無いものになっちゃったから」


私に出来る事は、もう残ってないから……。


恋次君が好きだった


そう想う事さえ、迷惑な程に……




「何をしてるんだろ……」



檜佐木君、私ね……



何を言うつもりだったのよ……


「檜佐木君の優しさに甘えて、何を頼ろうとしてるのよ……っ」




もう厭だ。

こんなに、自分を嫌いだと思った事は無い。


関わらないでと言いながら、こんな時に一人で立つ事も私は出来ない。



助けて……



もういっそ

こんな私が消えてしまえば良いと願った――…






お前が、……四宮が、本当に好きだった。











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