きみがすき | ナノ






03




旅禍に絡む事案に振り回されてか、隊長格への召集命令が激増していた。

此処六番隊も例に洩れず慌ただしさを増す中、二週間を切った朽木さんの処刑に準じて恋次君が孅罪宮まで先導して行った。


空になった隊舎牢


ほっとした自分に、嫌気が差した。


言い訳が通るなら、其れは朽木さんの処刑に対するものでは無いと誓って云える。

朽木さんを連れ戻ったあの日から、時間さえ有れば、何処か嬉しそうに隊舎牢に向かう恋次君を見たくなかっただけ。
朽木さんの処刑が確定した日から一転、辛そうに顔を歪ませる恋次君を見たくなかっただけ。
何かに耐えるように、どうにもならないモノに抗いたいと惑う恋次君から目を逸らす自分を、もう見たくなかっただけ……。


私は醜いと……


もう自分を責めたく無かっただけ……。


此れじゃあ彼女の処刑を望むのと、何ら変わりは無いじゃないかと口唇を噛み締めた。


こんなだから……っ


「もう嫌だ……」


現実は本当に残酷で。

解っていたつもりの感情に振り回されてばかりだ。






*


上辺だけの静穏に鳴り響いたのは何の警鐘だったのか。

錯綜する情報の中、また旅禍が侵入しようとしたと聞いた。

挙がってくる報告は未だ不確定な物が大半で、少し平和呆けしていた瀞霊廷を揺るがすには十分だと思える。

加えて、不可解な四十六室の決定に混乱は増すばかりで……


早く、全てが終わればいい


其れがどうか、恋次君の悲しまない方向で在れば善いと願うだけだ。
其れも本当は、自分の為じゃないのかと自問すればただ苦しい。


「違う……」


違うんだと、叫び出したい想いを無理矢理抑え込んだ。

そんな事は無いと、抱き締めてくれる腕はもう無い。



大丈夫だと信じているのに、この頃の恋次君の様子と一連の出来事、始めから渦巻くように燻り続ける不安に、足元から崩れて行くような感覚が、私に焦燥をもたらしていた。



いつ終わりが来ても大丈夫



「っ痛………」


叩き付けてしまった拳を包み込んで口唇を噛み締めた。
出来るなら、こんな思考ごと自分を消し去ってしまいたい。


「恋次君……」


いつもみたいに笑って、そして大丈夫だって言って欲しい。


今はもう、そう願う事さえ許されないと

知ったばかりなのに……。





――…



「っ―――……」


空、が……


「「「「四宮三席っ!!!」」」」

「大丈夫よ」


空が、光っていた。


どうやら、感傷に浸らせてくれる時間はくれないらしいと、駆け込んで来た彼らを笑顔で制した。


「即応待機から第一級緊急配備及び即時応戦に変更。不測の際は現状を優先。指揮権を各班長に委譲します」


皆疲れてるのにごめんねと指示を出す。


「三席っ!副隊長が見当たらないんですが」

「四宮三席、次の……」


矢継ぎ早に告げられる其の全てに応えて、主の消えた副官室に入って一息吐く。


「四宮三席?」

「はい?」

「何か、有りましたか?」

「…………」


思い詰めた顔をされてますよと、そんな事を訊いて来るのは理吉君で、一瞬だけ言葉に詰まってしまった。


無い、事はない。


「……色々な事が、終わりそうだなぁって思っただけ」


何を真面目に答えて居るのかと内心で自嘲しながら答える。


私は始まりを失くしたけれど、恋次君は得るだろう。

得るもの、失せるもの

其れは一つの事象で、こんなにも異なって各々に襲い掛かるものだと知った。


「……此れから、始まろうとしているのにですか?」


俺には良く解りませんと、私の言葉に申し訳無さそうに眉を垂れる理吉君には曖昧に微笑んで返した。


「私達も行こうか……」

「はい」


私は終りを観なくてはいけない。


私が進む先には

もう恋次君は居ないと知っていても――…











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