きみがすき | ナノ






02




恋次君は、私を代わりにした訳じゃないと知っている。

間違えて名前を呼んだ訳でもない。

ただ、あの夜は


私のことを考えていた訳ではなかった


それだけだ……。






目を醒ませばいつも、副官室の奥の宿直室に寝かされている。

そうして私の霊圧の揺れに気付いた恋次君が、私の所にやって来る。


「紗也さん……」


繰り返し名前を呼んで、掻き抱くように躯を辿る。
ままならない想いに耐えるように、まるで何かに抗うように……。


「誰にも渡したくねぇ」


恋次君は今、何に怯えているんだろう……。


「私は、此処にいる……」


恋次君の傍にいる。


「…………っ」


何が怖いの?


恋次君は何だか泣きそうに顔を歪めて、私を抱き締める腕の力を強めた。


「失くしたくなんか、ねぇのに……」


その言葉はどこか、祈りにも似ていた――…






恋次君はその日を境に私に触れなくなった。

それはこの為だったのかも知れないと、後になってからしか気付けない。


全てが私の愚かさ故だ。


「すみません……」


今、恋次君が私なんかに頭を下げている。


旅禍の潜入で対応に追われているお二人の戻られない執務室で、私は私のすべき事をこなしていた。

今日も緊急の隊首会が開かれていて、尸魂界中が何処か騒付くような空気が落ち着かない。


大丈夫。


途端、あの日のケガが頭を過って、恋次君は大丈夫だと自分に言い聞かせる。


此処は尸魂界で、現世じゃないんだ……。


ギュッと手の平を握り締めて不安を遣り過ごす。


恋次君……


浮かんだ名に胸が苦しくなった、その時

近付く霊圧に気付いて安堵した。



それは、直ぐに打ち消されてしまったけれど……。





「紗也さん……」

「恋……、阿散井副隊長。会議は終わられたんですか」


状況は、旅禍は、朽木さん……は。


訊きたい事は山程有るのに、恋次君の様子がおかしくて言葉が出て来ない。

不安が躯を侵食して行くようだった。


「紗也さん……」

「……はい」



嫌だ―――…





*



失くしたくなんか……



それは、私の為の言葉だと思っていた。


「やっぱり、私はどうしようもない……」


くっと洩れるそれは、間違いなく嘲笑だ。


『もう、傍には居られません』


そう云って恋次君は頭を下げた。


「だから私は、何にも変わっていないんだって。そろそろ学習しようよ……」


幸せな、勘違いをしていた――…


終わりなんてない。

なんて莫迦げた事を、心のどこかで信じていた――…








×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -