04不安に怯える私とは対照的に、恋次君は穏やかな瞳をしていた。 ずっと心配していた行方不明だった朽木さんが見付かって、これでやっと関係を修復出来るんだと、合間に語る恋次君は本当に嬉しそうで……。 私も、恋次君に伝えたい事が有る。 そんなどうでもいい話は今度でいいと、熱に流されるままに目を閉じた……。 * 「おはようございます!」 入室する私に、にこやかに挨拶をしてくれたのは理吉君で、この副官室の主である恋次君の姿は見えなかった。 「おはよう、理吉君。阿散井副隊長、は……?」 今日も山と積まれた書類を確認しながら、朝から姿が見えない恋次君の所在を訊く。 早めに部屋を出たらしい恋次君は、私が目覚めた時にはもう居なかった。 置き手紙も無ければ、朝食を食べた様子もない。 何だか慌てて出て行ったような形跡に、今までこうして泊まった日に、恋次君が私を一人にした事なんて無かったのにと、浮かんでしまった情けない考えに躯を起こしたまま暫く動けずにいた……。 「四宮三席?」 「え……、あ、はい」 訊いておきながら考え事をするなんてと口唇を噛む。 「恋次さんは、朽木さんの所に行っています」 朽木さん――… その名を聴いて、反省する間もなくまた胸が傷んだ事を恥ずかしく思う。 そう、だった……。 彼女は今、六番隊の隊舎牢に収監されている。 恋次君は朽木さんを心配して顔を出しているんだろうと思い至った。 ちゃんと、解ってるんだけどな……。 一瞬だけ過った想いに頭を振る。自分の醜い考えなんて消えてしまえばいいのにと自戒した。 昨日の今日で、恋次君は非番を与えられているから、このまま出舎はしないで部屋に戻るかも知れない。 ずっと、朽木さんに付いているかも知れない。 午前中に聴こえた話は、状況があまり好いとは言い難いもので。 恐らく朽木隊長が何とかして下さるだろうから最悪の事態にはならないとしても、はっきりとした事が聞けない以上は恋次君も落ち着かないんだろう。 朽木さんは、恋次君の大切な人だ。 一番大事な家族なんだと教えてくれた。 私はずっと、そう言う相手なんだと信じて疑わなかったから、初めて好きだと云われた時には物凄くアッサリと流してしまったのを憶えている。 唖然とした恋次君が、何事も無かったように遠ざかる私に、我に返った後で追い掛けて来た。 『紗也さん……』 『何……???』 肩を掴まれた瞬間、一気に方向転換させられて目を丸くした。 怒ってるような、焦ってるような。よく解らない表情をした恋次君は真剣そのもので…… あの時の温度差には、今も苦笑いが溢れる程だ。 『振られた……って、事っすか?』 言いながらに歪んで行く恋次君の顔を、私は吃驚しながら見詰めてしまっていた。 誰が、誰に……? え……? 恋次君、が……? 『振られちゃったの!?』 やっと頭が追い付いた私は悲愴な顔をしていたに違いない。 『…………は?』 『だから、恋次君。大丈夫よ、何かきっと間違……』 『ちょっと待った―――っ!!!』 突然、口を塞がれて叫ばれるから何事かと見遣れば、恋次君は眉間に皺を寄せていて…… 何か、怒ってる……? 『怒ってねぇっす』 は―――…と、脱力寸前の恋次君が立ち直った後で 俺は、紗也さんに、好きだっつったんですけど? って、一言一言句切るように云った。 『それは解ったけど、そんな事より……』 『だぁから!ルキアは家族で、紗也が好きだっつってんだろうがっ!』 それでも解んねぇんなら今直ぐ押し倒す! 『………………』 真っ赤になった私に溜め息を吐いて、恋次君がそっと引き寄せた。 『抱き締めてキスしてぇ』 『恋次君……』 『これで意味が通じんなら何度でも言う』 紗也を抱きてぇ……。 あの時から、恋次君は男の人になったんだ……。 |