きみがすき | ナノ






03




いつまで経っても泣き止まない私に、掌で頬を包み込んだまま親指でそっと涙を拭ってくれる。


しょうがねぇなぁって顔をして
どこまでも優しい眼差しで


いつもと変わらない恋次君に少しだけほっとして、ボロボロと溢れ出る涙をそのままにした。


一昨日の夜

私に背を向けた恋次君の後ろ姿に言い様の無い不安を感じて、瞬歩で遠ざかる恋次君の霊圧をずっと辿っていた。


朽木さんを迎えに行くだけ


ただそれだけなのに、あの時沸き上がった不安は何に対してだったのだろうか……


「こんな風に泣いてる紗也さんも、初めてっすね」


そんな風に言って、私を見つめる恋次君が胸を締め付ける程に優しくて、泣き止む処か益々子供みたいに泣き続ける私。


「っあー…、紗也さん。そろそろ泣き止んでくんねぇと……」

「あ…、ご、ごめんなさ…直ぐ……」

「じゃなくて!」


押し倒したくなんだろ……


耳元に口唇を寄せて、囁いた恋次君の吐息が熱かった。


「泣き止まなくていいっすよ…。俺が無理矢理止めます」


ふっと洩れた息に冗談だって解ってた……けど、もう少しだけ、恋次君に甘やかされていたかった。


「……恋次君が、止めて?」


瞬時に目を瞠った恋次君に気付いたけれど、私はそのまま自分から口唇を寄せた……。


狡くても、恋次君に消して欲しかった。


ずっと、私を苛み続けた不安と

あの夜の檜佐木君の熱も
包まれた腕の強さも


全部全部、恋次君に消して欲しかった――――





「紗也……」


ゆっくり、ゆっくりと耳元から辿った恋次君が口唇を食む。

泣いたせいで呼吸が苦しかったけれど、それさえも嬉しいと思う程、この人が好きだと思う。

吐息も何もかも奪って、もっともっと、息の根を止める程の熱を欲した。


「好き…」


恋次君が好き。


「あんま、煽んな…」


私の弱い所なんて、完全に熟知している恋次君は、言いながらにその手を背に這わせ、口唇を左耳に寄せた。


「『紗也……』」


ビクンと大仰に震えたのは、あの夜の掠れた低音が耳に木霊して――――



行け――…



刹那……
脳裏に浮かんだのは檜佐木君の、揺れた瞳で……

私は激しい痛みを訴える胸から目を逸らす。


こんな時にまで引き摺られる。


素直に反応を返す私に、愉し気に悪戯な目をしながらゆっくりと羽のように触れて行く。


早く、早く。
あの縋り付くような熱を消して欲しい。


恋次君のケガが軽くて良かった
恋次君が帰って来て良かった


ごめんなさい……


私の涙の理由は


それだけじゃないと知っている――…








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