きみがすき | ナノ






02




駆け込んだ四番隊の治療室で、恋次君の処置を待つ間にするべき事をこなして行く。

嘗て無い程の大きなケガに、話されるその状況に。
目眩がしそうになるのを耐えるのは、私が彼の補佐だからだ。

まだ取り乱す訳にはいかないと、震えたがる足を叱咤した。


卯ノ花隊長の処置を受けながら、伺うような視線を向けて来る恋次君を気付かない振りで遣り過ごす。

今、目が合ったら、口を開いたら、我慢しきれる自信が無かった。

取り乱して、泣いて、恋次君を困らせてしまう前に、一緒に家に帰りたい。


恋次君の前だと、私は弱虫になるみたいだ……。





*


「紗也さん…?」


恋次君の部屋に着いて、やっと息が出来た。知らず詰めていたせいで、息苦しさが残るけれど。

処置の済んだ恋次君は思ったよりも元気そうで、強張っていた躯も張り詰めた気も緩んで……


泣きそうだ……


「紗也さん…?何か怒ってますか?」

「……………」


恋次君がもうずっと、戸惑っているのが解るのに、私は上手く声も出せない。


「紗也」


振り向きもせずに、どうでもいい事をし続ける私に、恋次君が痺れを切らして引き寄せた。

普段、紗也さんと呼ぶ恋次君が紗也と呼ぶ。

それは、恋次君の我慢が切れる合図みたいなもので……


「黙ってたら解んねぇだろ」


うん……
解ってる、んだけど。

今までこんなに不安になった事が無かったから、どうしたら良いか解らない。


「紗也…」

「……恋次君」

「紗也さんっ!?」


ほら、我慢してたのに。
声を出したら止まらなくなっちゃったじゃない。

途端に慌て出した恋次君が、決壊した涙を必死に拭ってくれるけど……。


怖かった。
無事で良かった。
寂しかった。

恋次君……


「居なく…、ならないで」


恋次君が目を見開いて私を見た。

こんな子供みたいな事を言って困らせるなんて、莫迦みたいだ。


「遅くなって、すんません……」


躊躇いがちに伸ばした手を包まれるのに……

恋次君は此処に居て、私を抱き締めてくれるのに



不安が、消えない――…









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