現パロ | ナノ


▼  05

バンッ と勢い良く部室のドアを開ければ、俺の姿を見た瞬間、目を見開いた紗也が観念したように息を吐いた。


やっと、会えた……


その辛そうに歪ませた表情に気付いても、現状も何もかも忘れる程に、呆れるくらいに顔が見たかった。
恋次先輩と呼ぶ、紗也の声が聞きたかった。

数日会えなかっただけだっつーのに。卒業した後は、零の状態だったっつーのに。
一度、許されちまった紗也の隣を、手放すなんて出来ねぇと思う程に……。


「紗也……」

「……ごめんなさい」


俺が此処に来るとメールが来たと俯いて、もう目も合わせない紗也が指先が白くなる程に掌を握り締めている。


メールか……


やっぱり、繋がらない携帯はトラブルなんかじゃなかったんだと、突き付けられた事実に胸がギシギシと痛む。


「こんな所まですみませんでした。私にはもう、構わな……っ」


もう逃げようとしない紗也の云いたい事が解って、それだけはさせねぇと言葉を遮った。

口を塞がれた紗也が、大きな瞳を更に見開いて凝視して来る。
その瞳に映る俺は、自分でも呆れ返るくらいに情けない顔をしていた。


「見た、んだよな?」


ボロッと溢れ落ちた涙が紗也の気持ちを物語る。
口唇を塞いでいた手を滑らせてその涙を拭えば、紗也が嫌がるように首を振った。

その悲痛な表情に胸が痛んで、早く誤解を解いてやらねぇとと気ばかりが焦る。


小っせぇ頃から飽きる程に言われ続けて来たせいで、否定するのも面倒臭くなっていた。
其れがどういう事を意味するかも、思い至らねぇくらいに。


「悪かった」

「………っ」


二股処か、遊ばれたと思われても仕方ねぇ。


「けど、誤解……」

「もういいですからっ」

「紗也っ」


失礼しますと出て行こうとする紗也捕まえようと伸ばした手を払われて茫然となる。


「話、を……」

「もう聞きたくないんです!恋次先輩の言う事は……嘘ばっかりじゃないですか」

「…………っ」


本当にすみませんと、力の抜けた俺の横を紗也がすり抜けた。


もう、聞いても貰えずに終わるのか……?


これ以上無い紗也の拒絶の言葉に、態度に。言葉を失って立ち尽くす。

追い掛けねぇとと思うのに、足が貼り付いたように動かねぇ……




「紗也っ」

「檜佐木、先輩……?」

「修兵……?」


何も言えねぇ俺に溜め息を吐いて、呆れた顔で紗也を呼び止めたのは修兵で、驚いて立ち止まった紗也に何かを放り投げていた。

其れと修兵を交互に見て戸惑っていた紗也が、見ろと言う修兵の威圧に負けて中を開いた……

瞬間


「……こ、れって…っ」


目を見開いた紗也が、全身を真っ赤に染め上げた。

涙目になって、可愛い過ぎんだろ……ってか、


「……おい?何、を」

「渡したのかって?」


んな事より、追い掛けなくていいのか?と指を指されて思い出す。


「くそっ」


そうだったと、また俺から遠ざかる紗也の後ろ姿を追いかける。



「……ヘタレ返上何処行った」


修兵の呆れ混じりの呟きは聴こえちゃいなかった。





prev / next

[ back ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -